ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2016年5月13日更新ドイツ人は規則が大好き

今回のタイトルには事実と皮肉の両方が込められています。ドイツ人は間違いなく規則や法律が好きですが、好き過ぎて時々「自爆」することがあります。今回はそんなドイツ人のイタい一面についてご紹介します。

ご承知の通り、ドイツはEUの主要メンバーであり、欧州中央銀行はドイツの金融センターであるフランクフルトに置かれています。これは経済力において欧州随一であるドイツが、「ユーロのお目付け役」として認められているからこそです。そのドイツは、ユーロ圏加盟を希望する国に対して「財政を均衡させ、借金に頼らない」基準を導入することに人一倍熱心でした。

当時のコール首相は「マーストリヒト条約が発効し、欧州通貨同盟が誕生した後も、各国が財政赤字比率に関する基準をきちんと満たしているかどうかを常に監視し、違反した国には厳しい制裁を与えるべきだ!」と、ユーロ加盟国の財政安定を声高に要求していました。

もちろんこれは、ユーロの安定と信用を保つために必要だったわけですが、その議論でドイツはひときわ厳しい姿勢を明確に打ち出していて、当時の財務大臣であるテオ・ヴァイゲルは「基準を破った国には『自動的』に制裁を加えるべきであり、不況などの理由で制裁を免除する例外措置は最小限にすべき」として、基準の厳格な運用を求めました。規則重視、違反者厳罰はドイツの十八番です。

「言いたいことはわかるけど、そこまで頑固に厳しくするのはどうなのよ?」という他の加盟国もドイツの経済力に裏打ちされた正論パワーに抵抗しきれず、しぶしぶ合意。1997年、「財政赤字はGDPの3%未満」「公共債務はGDPの60%未満」「破ったら自動制裁」を定めた「ヨーロッパ安定・成長協定」は発効しました。ドイツは当時、「これでユーロは安泰だ」と胸を張っていました。

ところが!! 協定の成立から5年しか経っていない2002年。なんと、言いだしっぺのドイツ自身が、対GDP比財政赤字3.8%、同公共債務比率61.2%となり、基準違反国に転落してしまいました。しかも一回だけでなく、2005年まで4年連続で違反。一過性ではなく「違反常習者」になってしまったのです。

他の加盟国が、ドイツが導入時に「あれだけ」声高に叫んでいた「自動的に制裁発動」を望んだことはいうまでもありません。見事なまでのブーメラン現象! 日本なら謝罪し、受け入れるしかありませんし、何より恥ずかしくて世間様に顔向けできません。

しかし、ドイツは違いました。

なんと、ドイツ政府はEUの財務相会議で「自動的制裁を適用しないよう」に頼み込み、条約の根幹である安定・成長協定に反する“例外措置”を認めさせたのです。

欧州委員会はこれに反発、法律違反として欧州裁判所に提訴しました。当時のドイツ首相であるシュレーダーは「安定・成長協定は、安定だけじゃなく景気刺激も目的でしょ。安定性だけにこだわるのはおかしい。そもそも欧州委員会ってそんなに偉いの?」と言い放ちました。

これを他ならぬドイツの首相が言うのですから、誰だって開いた口がふさがりません。いやいや、アナタが言い出したことでしょうよ、何をいまさら、と皆が呆れました。

ここでドイツは離れ業を見せます。猛烈なロビー活動を展開、協定自体の変更を欧州委員会に認めさせ、違反状態を「正当化」しました。その言い分は「ドイツは東西統一で物凄くおカネがかかった。EUにもたくさんおカネを払っている。特殊事情を考慮すべきだ。」特殊事情なんて認めるものか!と言っていたのは、どちら様でしたっけ?

結局は政治決着で、安定・成長協定は実質的に骨抜きにされました。他の「不安定な」加盟希望国が「ドイツだって例外措置を認められたじゃないか」と言っても反論できなくなったからです。何よりも、EUで話し合って決めた法律を反故にした挙句に制裁条件を緩和させたことは、法治を捨てて人治に走り事後法で裁くことであり、法治国家として褒められるものではありません。

ここに、ドイツ人の規則に対する価値観が見て取れます。一般的にドイツでは、規則を守ることに至高の価値を見出している人がほとんどで、違反すれば厳罰に処すべしとされます。であれば、法を犯したドイツは厳罰に処されるべきという論に行き着くはずが、ドイツ全体として違反したという状態は耐えられない、だから法律の方を変える、という結論になってしまいました。

過去は変えられないが法律は変えられるというわけです。そりゃそうだけど、それを言っちゃあおしまいよ、とはならないのが凄いところです。

この話をドイツ人とすると、皆一様に口数が少なくなってしまいます。アンフェアなことは明白なので、あまり話をしたくないようです。以前の同僚はこんなことを言っていました。

「確かにドイツは規則に違反した。でも、EUだってドイツがいなくなったら困るんだから」

もちろんこれは議論のスリカエで、そんなことは本人もわかっているのですが、過去の約束より現在のメンツ。後で恥かくくらいならカッコつけて大見得切らなければいいのに・・・と思う私は、どこまでも日本人です。

なお、安定・成長協定はまだ残っています。2007年になってもドイツが違反していたら、今度こそ制裁を課してやる!とEUは息巻いていましたが、結果的には例外措置として債務・赤字以外の指標導入が認められ、果たして2007年も違反したドイツは制裁を免れました。

ドイツは昨年、財政危機に陥ったギリシャを鋭く攻撃していましたが、「ギリシャはEUの混乱を招いている」というドイツの批判は、ちょっと説得力に欠けるかもしれませんね。

 

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