ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2016年6月14日更新VWと三菱、共通する闇

三菱自動車が再び危機を迎えています。同社が4月発表したところによれば、燃費試験データを改ざんして、実際よりも低い燃費となるよう偽装していたとのことです。

三菱自は2000年に大規模なリコール隠しが発覚し、設計不良から死亡事故を起こしただけでなく、不良を組織的に隠蔽したことが露見。横浜市の路上で起きた事故では、業務上過失致死傷罪として、三菱自動車の有罪判決が2012年に確定していますが、今回の燃費不正はなんと1991年から続けて行われてきたことを三菱自動車みずから発表しました。不正はリコール隠しよりずっと前から行われていたことになり、残念ながらもはや組織的な文化であったと言わざるを得ません。

フォルクスワーゲン(VW)が行い、一大事件に発展したディーゼルエンジンの排ガス不正も、問題の本質は同じと理解しています。

私(川久保)は大学時代にディーゼルエンジンの研究をしていましたが、ディーゼルエンジンの性能向上と燃費・排ガス性能の両立は永遠のテーマで、簡単に言えば「よく燃えれば燃えるほど燃費は良くなるがNOxは増え、燃えないと燃費が悪くなりPM(スス)が増える」という、あちらを立てればこちらが立たずの図式です。

触媒や排ガス再循環などのデバイスは排ガス性能向上には有効である一方、動力性能的・重量的には歓迎されません。それらたくさんの制約のなかで、どのメーカーも開発の手を尽くして性能両立を果たしてきているのに、VWは試験の時だけ排ガス性能優先になり、それ以外の時は動力・燃費性能優先に切り替わるという、とてもわかりやすい脱法装置を開発・搭載して排ガス規制をクリアしていたことが発覚しました。

バレた理由は、皮肉なことにある大学教授が「VWは排ガス性能が凄くいい。試験の時だけでなく実走行中の排ガスデータも取って研究対象にしよう」としたことが発端で、高い評価の裏に隠れたエンジンの「二重人格」が暴かれてしまいました。

このデバイスは、試験走行であることをクルマが自動検知して排ガス性能優先モードに切り替えるという極めて巧妙かつ複雑なもので、それを1100万台に上る量産車に搭載していることから、脱法の意図は明白でした。みんな苦労している中でズルしていれば、批判を受けるのは仕方ありません。

技術的な解説はさておき、どちらの企業も「バレない限り大丈夫」で不正に手を染めてしまった結果、「バレないことが正義」という誤った文化も継承してしまいました。日本もドイツも、規則に対しては基本的に他国より厳格な文化で、守らない者に対する社会的制裁の厳しさが順法精神を育んでいるといってよいでしょう。

しかし、厳しい制裁による動機づけはスパルタ教育と同じで、「従わせる」ことには貢献しても「自律的行動」は促しません。「規則にしたがってさえいればOK」という価値観は、規則従属であって自己の判断ではないからです。

さらに、両国は「みんなやってるから」という長いものに巻かれろの大勢順応文化が共通して存在します。2006年にドイツで開かれたサッカーW杯では、それまで車や家に国旗を掲揚すると「極右だと思われる」から敬遠していた「遠慮」が一気に解放され、以降はW杯に限らずユーロやオリンピックでも普通にドイツ国旗が掲げられるようになり、自動車や自転車に国旗をはためかせるグッズはベストセラーになりました。それでも、国旗がそこらじゅうに翻るのは大会期間中だけで、それ以外の時期に旗を振ると今も極右扱いを受けるとのこと。明らかに空気を読んでいるのです。

「規則通りならOK」と「みんなやってるから」。どちらも思考停止であることは明白ですね。これが零細企業やベンチャー企業なら、思考停止社員は目立つのでばれやすいし、個々のパフォーマンスが業績に直結するので淘汰されやすいかもしれませんが、VWも三菱自も巨大企業。「これくらい、俺一人がやってもばれることはない」あるいは「俺一人がんばっても会社は変わらない」という「諦観」が生じやすいと思われます。

ましてや自動車はそれ自体が危険を伴う道具ですから、「これくらいなら問題ないだろう」という諦観は何よりも禁物。機械安全を提供する当社にとっても他人事ではありません。

私は実家が三菱ファンで、デリカのトラックにランサーバン、ギャランに囲まれて育ちました。自分はVWのポロに17年間乗っていました。個人的になじみ深い両社の不正発覚は残念至極です。

なお、「バレなきゃ大丈夫」と思っている場合、往々にして実は周りにバレていることがほとんどですが、それでも人間は都合の悪いことは隠したがります。不正を防ぐには、厳罰化だけではなく問題をためらいなく指摘できる文化にする必要があるのですが、日本もドイツも元来メンツにこだわる傾向が強い文化。「異常があったら止まる、止める」というトヨタ生産方式の「自働化」が効果を発揮するのは、異常や問題を攻撃したがり、かつ隠したがる人間の本質的な「闇」に光を当てているからなのだと痛感します。

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