ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2017年4月19日更新ツケはちゃんと払ってね

以前、このコーナーで「ドイツはヨーロッパ安定・成長協定を4年連続で違反」という、言いだしっぺで協定破りの恥ずかしい実態をご紹介しました。今回は財政ではなく国防がらみです。

ドイツは、アメリカやイギリスなどで構成される北大西洋条約機構(以下NATO)のメンバーです。米ソ冷戦時代の遺物的扱いになっていたNATOですが、ウクライナが親欧政権になりロシアがクリミア半島を武力併合するに至って緊張が高まったことなどから、2015年に「NATO加盟国は国防費をGDPの2%にする」という目標に合意しました。一応、「2024年までに」という期限はついています。

ドイツはNATO内でも指折りの経済大国ですので、GDP2%というと7.3兆円にものぼりますが、現在の分担金は4.4兆円。GDPの1.22%に留まっていて、目標未達です。フトコロは暖かいのにケチケチしているわけです。先日、米独首脳会談が行われましたが、会談後の別れ際にトランプ大統領はメルケル首相に「はいこれ。未払いのNATO分担金請求書だよ」と手渡した書面に書かれていたのは、これまでに払うべき不足額に利息を加えた3000億ドル(約33兆円)というとんでもない金額でした。さすがタブーのない新大統領、G7の重鎮に対しても全く容赦がありません。メルケル首相はその場では反応せず、帰国後に閣僚から「防衛協力はおカネだけじゃない!場所とか人とか・・・」と反論させましたが、説得力に欠けるのは否めません。

ただ、トランプ大統領の言い分は的外れではありません。GDPの2%の資金を提供するというNATOの規定をこれまで満たしている国は米国、英国、ギリシャ、エストニア,ポーランドの5か国だけ。財政破たん国のギリシャや、GDPがドイツの150分の1であるエストニア、EU離脱するイギリスが達成しているのですから、EU最大のGDPを誇るドイツが未達というのはいかがなものかという声が上がるのは当然です。

ドイツは、特にメルケル首相の代になってから財政健全化に取り組んできました。その結果、2015年に初めてプライマリーバランス(歳入が歳出を上回り、黒字になる)を達成し、「財政健全化」と胸を張ることができました。ドイツ経済が好調であることに加え、政府の緊縮財政が奏功したのは紛れもない事実です。その一環として、国防費は年々減らされてきました。日本の国防費はGDP比で1%と先進国ぶっちぎりの最下位ですが、これは緊縮財政というより国内政治的配慮の結果であり、軍事的な必要性とは関係が希薄です。

一方ドイツも中道左派政権が長く続き、国防の必要性とはあまり関係なく軍縮方針が続いています。2011年にはそれまでずっと続いていた徴兵もなくなりました。ロシアとも仲良くやってるし、国防費を増やそうという機運は高まりませんでした。

ところが、前述のとおりウクライナ情勢が緊迫。ロシアはクリミアを併合し、EUは経済制裁に踏み切ります。今はすべてドイツが終着点の天然ガスパイプラインを、トルコ経由の南方ルートでも建設すると言い出し、NATOとロシアは一気に緊張が高まりました。まさに今こそEUが団結しなきゃ、というタイミングで勃発したのが中東からの難民殺到です。人道的観点(本音は労働力確保?)から難民受け入れを表明したドイツには、100万人を超える難民が押し寄せ、仮説住居や難民申請の窓口対応に追われます。当然、コストは大きく跳ね上がります。

その一方で、選挙公約でもある財政健全化は待ってはくれません。難民対応と緊縮財政を天秤にかけるうち、国防費の優先順位は下げざるを得ませんでした。

「そんなの、うちだって同じだよ」という英国の不満は、結局EU離脱という結果に結びつきました。分担しているのに応分のメリットがない、あるいは不公平、という離脱派の主張は国防費の面でも裏付けられてしまいました。

今年、ドイツでは8月~10月にかけて4年に一回の連邦議会総選挙が行われます。英国のEU離脱、大量難民、テロ、NATO問題と悩みは尽きませんが、一方でドイツ経済は今年に入っても好調を維持していて、経済は安泰。

躍進する極右政党をはねのけて、与党が政権を守るのか、トランプ大統領ならずとも注目したいところです。

 

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