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2017年10月18日更新メルケルに飽きたドイツ

9月24日に投開票が行われたドイツ連邦議会の総選挙は、アンゲラ・メルケル現首相率いるキリスト教民主同盟(CDU/CSU)が第一党を維持しましたが、これはすでに投票前から確実視されており既定路線でした。つまり政権交代はまずない中、今回焦点となったのは、右派新政党である「ドイツの選択肢(AfD)」がどこまで票を伸ばすかの一点に集約されていました。

果たして、前回総選挙時は存在すらしていなかったAfDが今回11.3%もの得票率を獲得し、第三党となる94議席を確保するに至りました。一方で、メルケル首相のCDUは前回の311議席から65議席減の246議席にとどまり、第二党だった社会民主党も192議席から153議席へと39議席減らしました。要するに、連立与党だったCDU/CSUとSPDが失った議席が、そのままAfDへ流れたわけです。EUの盟主であり経済絶好調のメルケル政権下、なぜこんなことが起きたのかといえば、理由はひとつしかありません。難民です。

Stimmzettel, Kreuz bei AFD

メルケル政権が2014年9月に難民の積極受け入れを表明してから3年、在留難民の数は申請中の人も含めると180万人に上ります。これはドイツの都市でいうとハンブルクやミュンヘンの市内全人口よりも多く、ドイツ全人口の実に2.2%に相当します(日本でいうと、三重県や鹿児島県の人口に匹敵)。たった3年でこれだけ一気に増えれば当然の結果として、あちこちで色々な軋轢を生じています。多くを占めるアラブ系難民は異文化であるドイツ社会においても自文化を強く主張し、積極的にドイツ人と交流しようとしません。また、難民は食事や宿泊施設を無償で提供されるだけでなく、月20000円ほどではありますがお金も支給されます。当初は田舎の施設が多かったのですが、もはやキャパが追い付かず都市部の一等地にある施設さえ難民に提供されるようになっています。当然税金は払っていません。普通に働かなくては生きていけないドイツ人から見れば「なんで難民ばかり厚遇するんだ」という反感を抑えきれない人が増えても不思議ではありません。

加えて、今回AfDを積極的に支持した旧東ドイツでは、今なお西との経済格差は歴然としてあり、市民の間には「ただでさえ不景気なのに難民のせいで自分たちの仕事がなくなる」という危機感が非常に強くあります。こういう情勢の中、総選挙は行われました。

AfD自体はもともと経済学者がメインとなって旗揚げした政党で、政策自体は極右とはとても言えない穏当なものです。ざっくり言うと「EU統一市場は肯定するが、単一通貨は否定し自国通貨に戻す」「再生可能エネルギー法(EEG)は莫大な税金が無駄に終わる失敗政策であり、廃止する」「難民は高度な技術を持つ人たちに限り受け入れるが、無条件&無制限受け入れは廃止する」というものです。ユーロ導入で一番トクをしたのはまぎれもなくドイツであり、それを今更マルクに戻すのは現実味がありませんが、他の2つは現実に即しているだけでなく、論理的です。

EEG導入で再生可能エネルギー補助金の負担は、2000年からの13年間で個人向け電気代が2倍になり、今後も増え続けることが知られるようになって、ドイツ人からも「道義的には正しいが、経済的には完全に失敗」という意見が圧倒的になってきています。そして、AfDも難民自体は否定せず、あくまでもドイツ経済や文化に大きすぎる影響を与える難民は選別しようという立場で、日本を始め他の国も普通にやっていることです。つまり、政策をもってAfDが極右だと決めつけるには根拠が薄いということです。

当然ながら、負い目のある与党は扱いの微妙な難民問題を争点化したくないため、難民を冷遇する政策を推進するAfDを叩きまくる戦略に出ました。すなわち、AfDを極右=ナチ扱いしてレッテルを貼り、印象操作をする作戦です。

ドイツでは、ナチス・ドイツの話は基本的にタブーであり、その是非すら話したがりません。否定に決まってるだろうという空気は窒息するほど強く、誰かをナチにたとえることは(日本ではしばしばあっても)ドイツでは完全に禁忌です。実際、ナチスの件についてはドイツでは言論の自由は法的にも認められていないのですが、今回の選挙戦ではAfD以外の全政党がAfDを「あいつらナチだ」「投票するやつもナチ」「ナチが勝ったらドイツは終わり」「ナチAfDを阻止し、民主主義を守ろう」と、新聞でもテレビでも堂々と述べる「暴挙」に出ました。

さらに、政党だけでなくメディア自身もAfD攻撃に公然と加担していました。国営第二放送(ZDF)の政党討論番組では、AfDの代表者が発言すると観客が批判し、AfDを非難する議員には拍手喝采が送られるというわかりやすい偏向姿勢で番組を制作。呆れたAfDの代表が途中退席すると、司会者が与党議員にAfD代表が座っていた場所に移るよう促す露骨さでした。日本でも偏向放送はありますが、NHKの番組でここまで露骨に特定政党を差別することはまず考えられません。選挙前のドイツには、AfDを叩くためなら手段は選ばないという「空気」が満ち満ちていました。

先述の通り、ドイツではことナチスに関する限り言論・表現の自由はありません。逆に、反ナチス的な言説は何を言っても許されることが多く、明確にアンフェアです。AfDにはネオナチのような主張をする極右も確かにいますが、CDUやSPDにも極端な輩はいます。相手がAfDならどんな方法でいくらぶっ叩いても構わないという状況自体、完全に民主主義の崩壊ですが、ドイツ人の傾向として理想と現実の間で両極端に触れることが多いのは、以前ヒトラーの映画について述べた際にご紹介した通りで、今回の選挙ではその「理想主義の集団イジメ体質」が浮き彫りになりました。そして、AfDに対する極端な排斥姿勢は、米大統領選挙と同様に「支持したいけどおおっぴらには言えない・・・」という隠れAfD支持者を逆に増やし、かつ見えにくくしてしまったと思います。それに、AfDだってきちんと認められた政党なのですから、勝っても負けてもそれは民主主義の結果です。(ちなみにナチスも選挙で民主的に選ばれました。)

果たして、AfDを叩きまくったCDUは第一党の地位は確保したものの大幅に議席を減らし、かつて連立を組んでいたSPDは今回離脱を表明していることから、過半数を取るためにはAfD以外で、4位以下の複数政党と組まざるを得なくなりました。選挙結果によって、難民に対する国民の反発が予想以上に強いことを(ようやく)悟ったメルケル首相は、他政党との連立交渉を前にCSUと10時間以上にわたり協議。頑なに「難民受け入れに制限は設けない」と断言していたこれまでの姿勢を転換し、「年間20万人までとする」上限を設定することを発表するに至りました。

すなわち、ドイツの選んだ方針は「メルケル政権は信任する。ただし、際限のない難民受け入れは認めない。AfDに議席を与え、EUならびにユーロに対してはこれまでより慎重に臨むべし」というものに落ち着きそうです。エネルギー政策についても、これまでイケイケだった再生可能エネルギー&脱原発強力推進には歯止めがかからざるを得ないでしょう。

9月に訪独した際、ドイツ人同僚に選挙結果について尋ねると、だいたいこんな感じでした。

「AfDの躍進は予想されていたが、いざ実現すると驚いた」と少々の嘆きを交えつつ、「でも、メルケルの長期安定政権に飽きてきているのも事実。彼女は清廉で実績もある優秀な政治家だが、明確な将来のビジョンを一切示さず連立政権をうまく泳いできた調整型リーダーで、安心感はあってもカリスマ性はない。でも他政党は本当にろくなのがいない(たとえばSPD党首のシュルツ氏は「私は何が何でも首相になりたい!」と連呼してました・・・)から、今回もCDUが勝てた。AfDが将来与党になるとは思わないが、CDUの天下も今回までじゃないか。それに、今は上手くいっている経済が少しでも悪くなってくると、連立政権は一気に政局化する」と、結構複雑な感想を多くのドイツ人が持っていました。

もともとドイツは安定政権を前提としたシステムではあるのですが、それでも4期16年となると史上最長のヘルムート・コールに並びます。日本の首相で在任期間最長記録は佐藤栄作ですが、それでも8年に届きません。安倍さんもずいぶん長いような気がしますが、二期合計でも5年半。メルケル首相の任期の長さはG7でも突出しています。

今回ドイツの総選挙で欧州の政局は概ね一段落しましたが、結果的に保守系政党はどの国でもポピュリズムだ時代遅れだと叩かれながらも確実に議席を伸ばし、オーストリア総選挙では難民受け入れを制限する政策を推す右派政党が過半数を占めました。なかでも英国はEU脱退と政権交代を選択し、EUの屋台骨は揺らいでいます。難民問題に加え、大規模無差別テロも確実に増えており、欧州の不透明感は年々、というか日に日に増しています。飽きられつつあるメルケル首相、選挙から1か月近く経っても連立政権の見通しは立っておらず、先行き不安な状況です。議席を大きく減らしながらもEUの重鎮として期待される彼女の、舵取りが難しい4期目が始まりました。

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