ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2018年4月18日更新ドイツのEVシフトは矛盾だらけ

「えっ?日本ではディーゼルが主流じゃないの?遅れてるなお前ら」

ドイツに行くたび、同僚にいつも言われたものです。自動車大国の日本で、高効率高トルク低燃費のディーゼルを選ばない理由がわからないと言われ、ディーゼルエンジン専攻の私はいつも忸怩たる思いをしたものです。ところが・・・

2015年9月にアメリカで発覚し全世界を揺るがす一大スキャンダルに発展した、フォルクスワーゲンによるディーゼル排気ガス不正。以前に小欄でもご紹介しましたが、車検の時だけ自動的に規制クリアモードに切り替わる違法ソフトを開発するという「技術の粋を結集」した脱法行為で弁解の余地ゼロですから世界中でフルボッコ状態になったのですが、ドイツでは対照的にかなり強気な論調が目立ちました。多くの同僚いわく「VWは確かに不正を行ったが、性能とは関係ない些細なもので、VWのクルマは今も大人気。これからもドイツ車のステータスは揺るぎない」と、まあよくもここまでというくらい自信満々だったのです。

ただ、その時でさえ当社技術担当役員であるThomas Pilzは「VWの不正は本当に最悪だ。技術企業として絶対に許されない一線を越えた。ドイツ産業界の恥さらし」と激しく糾弾していて、私(川久保)も膝を打ったのを覚えています。

あれから2年半。欧州でのディーゼル車比率は2015年から5%以上減少しており、2012年には新車の75%がディーゼル車だったフランスでは今や50%を切る惨状で、規制強化で必要になった排ガス浄化装置に伴うコスト増もかさみ減少の一途をたどっています。お膝元のドイツでさえ40%を切る有様であり、もはやディーゼルは完全に見捨てられています。

折しも昨年7月、シュトゥットガルト地裁は市内へのディーゼル車乗り入れ制限を支持する判決を下しました。シュトゥットガルトはダイムラー・ベンツとポルシェの本社がある世界的な自動車メーカー都市。BMWの本社があるミュンヘンでも同様の動きがあり、ドイツ自動車技術の花形だったディーゼルは今や疫病神扱いです。

一方、以前は鳴かず飛ばずだった日本のお家芸ハイブリッド。「ハイブリッド?ケチくさい」「トルクがない」「ドイツはアウトバーンがあるから、エンジンON/OFFで真価を発揮するハイブリッド(HV)は魅力ない」とか散々な言われようだったのに、ディーゼル失速を受けてハイブリッドは絶好調。トヨタの2017年上半期売上高はHVの追い風を満帆に受け前年比44%の伸びを見せています。

ドイツ連邦議会は「2030年以降、内燃機関搭載車の新規登録を禁止する」という方針を採択しました。内燃機関をやめるということは、つまり電気自動車オンリーになるということです。内燃機関を載せた「自動車」を発明したのはゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツで、まさにお家芸たるエンジンをドイツが捨てると言い出したわけですから、まさにこれはパラダイム・シフトと言えますが、一方で実現の青写真は全く描けていません。

そもそもドイツは、福島の事故にパニック状態になって2021年までに原発廃止を打ち出してしまっていて、太陽光や風力を使う再生可能エネルギーを増やそうとした挙げ句、電気代が大幅に上がっただけでなく受給が逼迫して原発発電周辺国から電気を融通してもらっている有様です。自動車が4000万台走っていて年間350万台売れるドイツ。現状でEVは3万台未満しか走っておらず、まだまだEV後進国。この4000万台が仮にEVになって充電を始めたら、ただでさえ足りない電力網は原発廃止後に完全に破綻します。原発を動かさずにEV化するには(再生エネでは足りないので)火力発電所を増やすしかありませんが、もともと排気ガスの問題からディーゼルが嫌われるようになったのに、これでは車から出ないCO2を火力発電所から吐き出すだけのことで本末転倒です。それより、不要になったエンジン車はいったいどこへ・・・?それに、現在エンジンに関わる産業は工作機械を始め極めて広い裾野に広がる一大産業なのに、それら全てが電気モーター関連部品製造へシフトできるはずがありません。十年あまりで産業を衰退させても環境を守りたい思想は立派ですが、自分がクビになるとか全く違う業種へ転職しなきゃとか、当事者意識を持っている人はあまりいないのではないでしょうか。

結局、原発廃止のときと同じで、きれいごとのためにドイツ特有の集団パニックが働いただけというのが、私の率直な感想です。ドイツ人の同僚に訊いてみても、「エンジン廃止?できるわけないだろ。あれは完全にアホな有権者向けの政治的宣伝だよ。恥ずかしいことだけどこの国にはアホな環境保護主義者がいて、だから非現実的な政策ばかり打ち出す緑の党がそれなりの議席を得ているし、現実味がない再生可能エネルギーへの莫大な投資で何倍にも膨れ上がった電気代を渋々でも払う人たちがいるんだ」「でも、決して納得してるわけじゃない。かならずどこかで反動が来るし、そのときはEUのコンセンサスも崩れるだろうね」と、ドイツ人にしては冷静な方もいます。

「そもそも、環境だ安全だというなら、自動車そのものをやめたらいいのに。日本でも自動車事故で毎年5000人以上死んでいるし、それはEVになっても変わらないんだから」と私が話すと、「まあ、そうだよね・・・」とお互いにため息。世の中に必要悪は満ちていますが、産業として巨大すぎる自動車、インパクトは日独ともに大きすぎるのが最大の問題、ということで同意せざるを得ませんでした。

ところで、拙宅の周りは平成も終わりに近付いている今も改造マフラーにエアホーンで大音量を撒き散らす、とっても昭和な暴走バイクが時々走る香ばしいエリアなのですが、将来ガソリンが手に入らなくなったら電気バイクでどう騒ぐのかしら・・・と思案する今日この頃です。

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