ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2018年5月23日更新ハノーバーメッセ訪問レポート

毎年4月の末に開かれる国際産業見本市ハノーバーメッセ。FA業界ではつとに知られた展示会で、以前は日本企業も大挙展示に押し寄せていました。今年久しぶりに行ってみたのは、いわゆるIndustrie 4.0(以降I4.0)が今年どんな具合で紹介されているか、欧州のトレンドを知りたかったからです。

ピルツのブースにて

結論的には、I4.0を旗頭に展示している企業はほとんど見当たりませんでした。むしろ、I4.0実現方法としてのIT化によるIIoTの実現がいよいよ現実味を帯びてきたという印象のほうを強く受けました。

ご承知の通り、IIoTはインターネットにつなげることによって工場のスマート化・インテリジェント化を進めるものです。考え方自体は特段新しいものではなく、SAPなどのERPやMESに現場をつなげることで経営のスピード化・合理化を図ろうとする手法はすでに20年以上前から実現していますが、イーサネットの現場への浸透によってIT化のインフラが改善されたこと、4Gネットワークや無線通信技術の革新でIT実装が容易になったことで、取り残されていた工場がようやくIT化し始めたということです。クラウドの利用が一般的になってきたことから、現場のデータ(診断や稼働)をクラウドに上げて管理するなどこれまでになかった方法でデータが活用し始められるようになったことで、「現場のデータを末端からクラウドまで一気通貫で管理したい」ニーズが高まってきました。もともとこの分野で幅広い商品群を揃え上位システムも扱うシーメンスは、今回も鼻息メチャクチャ荒く例年にもまして巨大なブースで集客していました。

実際に現場レベルで使われているPLCやリレーなどの制御機器はON/OFFなどのスイッチング信号処理に特化してきたため、大容量データ通信を行うには適していません。一方で、ソフトウェア上でPLC制御プログラムを定時シーケンス処理できるソフトウェアPLCが一般的となってきたことから、「PLC→PC」シフトが一気に進み始めています。「Windowsは安定感がなくて不安」という意見はよく聞かれますが、現在のPC制御はカーネル自体をWindowsと切り離すだけでなく、CPU内のマルチコアをPLC制御分と通常のWindows分に分離して運用するところまで来ており、フリーズの可能性はPLC並みになっています。(そもそも、WindowsアプリケーションのフリーズもWindowsそのものがフリーズしているわけではなくアプリが止まっているだけで、Windowsは全く問題なく動いていることがほとんどですが、見えているところだけで判断する方が多いということですね。)

この業界での雄はなんと言ってもベッコフオートメーションで、今回も多くの産業用PCをリリースして常に盛況でした。

そして今回興味を持ったのは、Linuxベースの超小型PCがいくつも出てきたことです。

上の写真はKUNBUS社のRevolution Piという商品で、コアな一般ユーザーの間でじわじわ広まっているRaspberry Piという小型PCボードを産業用として転用したものです。Raspberry Piは3000円くらいで買えるボードPCですが、小さくてもLinuxで動きインタフェースも備えたれっきとしたPCで、現在もホビー用PCとしては確固たる地位を築いています。注目すべきは無数の個人開発アプリで、それらを共有・改造するコミュニティがSNSのように巨大なネットワークを形成し、誰でも活用できるオープンソースとなっています。Revolution Piは、このRaspberry Pi用に開発された世界中のフリーソフトを活用できるメリットを持ちつつ、DINレールやDC24V駆動、端子台を備えたデジタル&アナログ入出力モジュール、EtherCATやProfiNET、Ethernet IPといった産業用ネットワークへの接続も可能にしていて、現場のIT化を極めて安価に行える画期的なソリューションです。

同じようにLinuxベースのFA用小型PCをリリース、大々的に押していたのがフェニックスコンタクトです。

PLCnextという商品がそれで、写真はそのイチ商品のために設けられた展示スペースです。多くの訪問客を常に集めていて、関心の高さが伺えます。こちらはRaspberry PiベースではありませんがオープンOSのLinuxで動く点は同じであり、これまで完全クローズで発展してきたPLCビジネスは大きく揺さぶられ始めています。オープン化が進めばソフトウェアの外注化や標準化が容易になりますから、より多くのエンジニアにアウトソースでき、I4.0の理想である個別大量生産は進めやすくなる、というわけです。

制御とは一言で言えば入力を受け取って条件に応じた出力を出すことですが、コントローラに上記のような変化が起きるのと並行して、入力側であるセンサにも大きな変化が起きています。代表例がIO-Link、センサ・アクチュエータを対象とした通信規格です。IO-LinkはProfibus&Profinet Internationalが開発したIEC61131-9準拠のデジタル通信技術で、いわゆるフィールドバスではなくセンサーやアクチュエータをデジタル信号で上位に接続する技術です。オン/オフ信号、アナログ信号などのセンサ本来の制御データに加えて、製造メーカーやオーダ番号などのデバイス情報、パラメータ、診断データなどを同時に交信することができます。特にこれまで収集に苦労していた診断情報・不具合情報をセンサごとに特定できるため、デバイスの交換に伴うダウンタイムを飛躍的に短縮できるメリットがあります。また、稼働中でもデバイスのパラメータ設定を変更可能であることも大きな特長です。

Balluff社のIO-Link展示

現場でのメリットが絶大であることからIO-Link対応機器は年々増大していて、2015年には360万台を突破し対前年比60%増の成長(IO-Link Consortium)を遂げています。

IO-Linkには安全通信対応のIO-Link Safetyも用意されていて、上記の診断・識別信号に加え安全信号も同一インフラでやり取りができ、安全制御と省配線を実現できます。

今回はさらに進んだIO-Link Wirelessも紹介されていました。データの種類と入手性が大幅にアップした上に、今度は省配線どころか配線すらなくなるというのですからもはや隔世の感があります。

KUNBUS社のIO-Link Wireless展示

さて、IO-Linkなどによってセンサ・アクチュエータからの信号量は大幅に増えることになります。自動車工場などでは1ラインあたり数百個のセンサが付くことも珍しくありませんから、それらが単なるON/OFFの1ビット信号から最大230.4kbsの信号に変わったら従来のPLCでは対応できません。つまりここにもPC化の必然性が出てくるわけです。

I4.0という旗印は目立たなくなりましたが、現場のIT化技術は確実に進んでいます。おそらくここ2~3年ほどで、IO-LinkとPC制御の現場浸透は飛躍的に進むでしょう。PLCが淘汰されて完全になくなるとは思いませんが、PCがコントローラとして標準になり、開発環境がよりオープン化することは間違いなさそうだというのが、今回ハノーバーで得た実感です。

(おまけ)

以前ご紹介した激安スーパーのALDIが格安スマホSIMを扱っているようです。4週間3GBで12.99ユーロとあります。円換算では1800円くらいになりますが、ドイツでのユーロは実感として1ユーロ100円くらいなので、3GB1600円前後の日本MVNOと比べても相当安いことがわかります。

滞在中にチャンピオンズリーグの準決勝第1戦が行われ、バイエルン・ミュンヘンとレアル・マドリーの独西頂上決戦でドイツ人たちは盛り上がっておりましたが、結果はホームだったバイエルンの負け。この後アウェイの第2戦でも負けて準決勝敗退。経済では敵なしのドイツですが、バイエルンはレアルと直近8回対戦して7連敗。敗戦翌日の同僚たちは歯切れも悪く、ピルツ本社はバイエルン州ではないのに皆大層プライドが傷ついている様子でした。

記事一覧

ページの先頭へ戻る