ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2017年3月15日更新たったの15年モノです

基本的に靴好きです。スニーカーは何足あるか数えたことがありませんし、ランニングシューズは増えすぎて自分の居場所が浸食される時点で捨てています。足は二本しかないのにばかじゃないの、と言われます。

もちろん自分なりの言い訳はたくさんあるわけです。「TPOによって履き替える」という言い訳は、10足超えた時点で通用しません。「すり減った時のための予備」も、すり減るほど履いている靴がないのでアウト。「走り方によっていろいろなシューズが必要」って、一つの走り方すら究めていないのに?そう、全て単なる言い訳です。要するにただ靴に囲まれていたいだけ、かつて1000足以上持っていたフィリピン元大統領夫人と同じビョーキです。

そんな病人の私も、ずっと履き続けている靴となると決して多くはありません。足の形は基本的に加齢の影響はほとんどないため、合っている靴なら長く履くことができますが、スニーカーは化繊を多く使っていることもあり長持ちする設計になっていませんし、革靴もやはり靴底の摩耗や上部のヘタリ・傷から2~3年ほどで修理するか、捨てることが多いと思います。その中で15年以上、ずっとローテーションに入っている靴が今回ご紹介するジョン・ロブです。

ジョン・ロブは英国の靴メーカーで、1849年に創業した注文靴の工房が前身となっています。その後パリにジョン・ロブ・パリという支店を開き、そちらが1976年にエルメスの傘下に入りました。本家英国のジョン・ロブは注文靴専門の工房のまま現存する一方、エルメス傘下で既製靴を製造・販売するジョン・ロブ(元ジョン・ロブ・パリ)は別会社としてそれぞれ個性を発揮しています。エルメス子会社であるジョン・ロブも製造は英国ノースハンプントンで行っており、どちらも生粋の英国靴です。

写真はいわゆるUチップと呼ばれるタイプで「ボルドー」という名がつけられています。(現在は日本では扱いがないようです。)紳士靴の分類上はカジュアルシューズになりますが、式典でもない限りドレスでもカジュアルでも履ける、使い勝手が良いモデルのため、今でも現役で活躍しています。ご覧のとおり全くくたびれておらず、形も流行を追わない普遍的なものなので、とても15年前の靴には見えないとよく言われます。

内張りは少し摩耗がありますが、一度も修理していません。ゆるくなり易いカカトの形も完全に健在で、極めて丈夫なヒールカウンター(月型芯)が使われていることがわかります。

爪先の縫製は「スキンステッチ」という独特の縫い方が特徴的です。これは革同士を重ねるのではなく、端面同士を突き合わせた上でつまみ上げ針を通す方法で、切るのも縫うのも通常の何倍もの時間と手間がかかります。当然のごとく手作業で、1日1足縫うのがやっとと聞きました。特につま先の方は同じスキンステッチでも縫い目を出しておらず、コンマ数ミリずれたらその時点でスクラップになってしまうそうです。履き心地には全然関係ないのですが、履くたびに職人の技を見ることができる密かな満足感は絶大です。普通この部分はもっとも屈曲する箇所のため、どんな靴でもシワが深々と穿たれてしまうものですが、この靴はシワがほとんど目立ちません。この部分に限らずこの靴は傷もつきにくく、ついても布で磨くと消えてしまいます。

実は何度か雨にも降られていて、不本意ながらずぶ濡れにしてしまったこともあるのですが、湿気取りのために丸めた新聞紙を入れて「ああ、もうこれでシワだらけだ・・・」と嘆いた翌朝、何事もなかったかのようにしゃきっと復活しました。白い粉吹きも皆無です。革はエルメスから供給されていて、選ばれた牛一頭分からさらに吟味してなんと1足分しか取れないのだとか。

アウトソールは爪先以外はすべて15年前のままです。雨など水のシミはあるものの、気味が悪いくらい摩耗しません。多分あと10年くらいはソール交換不要で、摩耗しても直営店に持っていけば純正部品で元通りに修理できるそうです。

気になるお値段は2002年当時で12万円。当時、凄く給料の高い「ハードな」会社に勤めていて臨時収入があったため、京都四条にある藤井大丸1階の直営店で相当悩んで購入しました。(今は閉店。)それまで私はリーガルの2万円靴でさえ相当悩んでいたような有様で、靴に10万円以上投資するのは狂気の沙汰でしかなかったのですが、放置自転車の列の向こう側に見えた店先に並んでいた美しい靴の魔力に一発で魅了されてしまいました。「ジョン・ロブは確実に一生履けます」と言って下さった初老の店員さんとは、その後5年ほど経ってから青山の直営店でばったり再会したのですが、変わらず鈍く輝く私のボルドーを見て「綺麗に履いてくださって、ありがとうございます」と顔をほころばせてくれました。英国には「私は安い靴を買うほど裕福ではない」という格言があるほどで、良い靴を長く履き続ける文化が根付いています。15万で15年履けているので、1年あたり1万円、十分投資は回収できています。これからもずっと履き続けられるこの靴はまさに一生モノです。

「15万?さっき12万て言ってなかったっけ?」実は会計の時に「シューツリー(シューキーパー)はどうしますか?」と訊かれて「じゃあお願いします」とあっさりOKしたら、サインする伝票の金額が15万になっていました。5mm刻みの専用品とはいえ、キーパーだけで3万円!!普通のいい靴が買える値段です。今となっては言い訳も思い浮かばないほどの散財。分不相応な臨時収入は、私を「ララランド状態(PILZ TOPICSの別記事ご参照ください♪)」にしてしまっていたようです。

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