ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2016年11月16日更新脳とのだましあい・・・実は疲れてなんていない?

先日、富山マラソン2016に参加してきました。

今年も始まったマラソンシーズン(マラソンは秋から春です)、初戦の新潟に続き今回が2戦目。今より10kg以上太っていた昨年も富山に参加したのですが、練習不足もあり4時間25分46秒と振るわずに終わったため、今回は内心期するものがありました。筋トレも1年間、休まず続けてきましたし、毎月250km以上走りました(←実は大したことないんです、3時間切るようなスゴイ人たちは月400kmとか普通に走ります)。きっと自己ベスト更新できる!と意気込んで、前日に富山入りしました。

マラソンは中高年になっても努力次第で進歩・成長できるスポーツです。私は44歳で始めるまで、マラソンどころか陸上競技さえ全く無縁でしたが、練習と工夫を重ねることでタイムを縮められる醍醐味に魅せられてしまいました。同じことを考える同年代は多いようで、現在日本のマラソン人口が一番多いのも40代。おかげで、がんばってタイムを縮めても各大会での年齢別順位はなかなか上がりません。

マラソン大会はだいたい9時スタートですので、当日は5時頃起床します。「早すぎるんじゃないの」と言われそうですが、ちゃんと理由があるのです。寝ていた身体を運動できる状態にするのに時間がかかることもあるのですが、最も大きいのは「食べる」ため。それも体内にたくさん貯めることができない「糖質」をきちんと摂るためです。消化・吸収時間を考慮して朝食を食べ、スタートに備えます。

筋肉のエネルギー源は脂質と糖質ですが、捨てたいほど(?)貯められる脂質に対して、糖質は数百グラムしか貯めることができません。そして、身体で最も糖質を消費するのは他ならぬ脳です。

脳は物凄い大食いで、体重60kgの成人の脳は1.3~1.4kg、つまり体重の2%程度の重さしかないのに、エネルギー消費は全身の18~20%にのぼります(乳幼児は60%を超えるそうです)。全身の筋肉で消費されるエネルギーが約20%ですから、ほとんど同じだけ脳で燃やされます。

酸素はもっと極端で、口や鼻から吸い込んだ酸素のうち25%が脳に回され、瞬時に消費。たくさん酸素を送り込む必要性から、脳を循環する血液量はなんと1日2000リットル! 2リットルペットボトル1000本分の血が毎日脳に流れていることからも、脳の莫大なエネルギー消費がお分かり頂けるでしょう。

糖質を効率よく摂取するために、カーボ・ローディングといって炭水化物を積極的に摂る方法も知られています。レース前数日間でうどんやごはん、お餅などを摂るのですが、一方でこれらの食材は味気ないため、どうしても油や塩で味付けして食べてしまい、本番で体重が増えてしまうリスクもあるため、私はほとんどやりません。当日朝に餅やサンドイッチを多めに摂るくらいで、今回も前夜にコンビニで買った脂質少な目のサンドイッチをほおばり、戦闘準備完了です。

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午前9時、号砲とともに長旅のスタートです。今年の富山マラソンは12,000人が参加していて、スタート直後は大集団です。高岡大仏を背に、趣のある旧市街地を駆け抜けます。今回、私は自己ベスト更新&3時間20分切りを目指しました。

走り始めると、なんだかとっても調子がいい♪ マラソンランナーは速さをキロ当たり時間(分)で測るのですが、予定では序盤4分35秒/kmでいくところ、体調的には4分30秒を切るペースでも全然問題なさそうです。

「前半でちょっとペースアップして貯金し、後半でペースダウンしよう」と、あまりの気持ちよさに普段は絶対考えない「前半突っ込み型」の作戦に出ました。そうです、悪魔の誘いに乗ったこの時点ですでに「撃沈フラグ」は立っていたのですが、イケイケ暴走ランナーの目には留まりません。以降の写真にて、私の表情の変遷をお楽しみください。

10km地点で3時間15分のペースメーカーを抜き、15kmを過ぎても脚は快調で、4分25秒を切るペースをキープ。20km過ぎにある富山のシンボル新湊大橋では標高30m近くまで上りますが、さほどペースを落とさずに上り切りました。

さあ山場は超えたぞ、あと半分というあたりから、果たして様子がおかしくなります。

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脚が重くなり、ペースが維持できません。4分35秒/kmをキープしたいのに、4分40秒/kmも怪しくなってきました。どこかが故障して痛いというのではなく、とにかく脚が全体的に疲労している感じで、前に進みません。初心者の頃何度も経験したブレーキ状態になってしまいました。

たまらず携行していたゼリーを給水所で流し込んだのですが、一向に改善しません。置き去りにしたはずの3時間15分ペースメーカーにも30kmで追いつかれ、しばらくは必死に追いすがるも、ジリジリ離される苦しい展開が続きます。当たり前ですが、置いてきぼりを食うのは精神的にこたえます。

後で気づいたのですが、調子のよかった、いや調子に乗っていた前半にいくつかあった給食を一切取りませんでした。先にご紹介の通り、脳は糖質、ブドウ糖がエネルギー源ですが、体内に貯められる分で走れるのは3時間がせいぜい。完走にそれ以上かかるランナーは道中でブドウ糖を補給しないと脳のエネルギーが枯渇してしまいます。

もちろんそれは知っていたのですが、ゼリーを携行していたのと、給食で立ち止まるのがイヤで先送りしてした結果、脳が身体にブレーキをかけ始めたのです。いつもなら効いてくれるゼリーも今回はなぜか効き目がほとんどなく、疲労感は急激に増してきます。

35kmを過ぎ、全身がきしむような痛みに加え、意識ももうろうとしてきました。前半の貯金があるので、何とか自己ベスト更新ペースには踏みとどまっていますが、このままだと歩いてしまうのは時間の問題。普段なら給水所までは食べないゼリーの封を切り、濃い甘味を味わうように口に含んだところ、その瞬間に疲労感がやわらいだのです。「これなら何とかもうひと踏ん張りできる!」と、もはや5分/kmを超えそうだったペースを4分40秒台までアップし、富山市内に入ってきました。

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思い返しても、富山駅近辺からはあまり記憶がありません。「ゴールまで残り○○km」と、道路わきに看板があるのですが、残り2kmから見当たらず。実際になかったのではなく、精神的にも限界だったのでしょう。

身体的にも心拍数が170を超えてきてしまい、世界一美しいと言われるスタバがある、富岩運河環水公園の美しい景色も目に入りません。とにかくゴール、ゴールはまだか。そればかり考えていました。

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ようやくゴール!タイムは3時間16分56秒、3週間前の新潟シティマラソンから4分、一年前の同じ富山マラソンからは1時間9分短縮することができました。3時間20分切りの目標は達成できましたが、これまでにないくらい消耗したレースでした。

今回、補給で失敗した理由は、食べる量もさることながら、おそらく「きちんと味わうことができていなかった」からだと思います。補給用のゼリーは一本当たり120kcal程度で、15分走れるくらいのエネルギーに過ぎません。一回で3000kcal消費するマラソンのエネルギー源としては、実は全然足りないのです。では、なぜ摂取する必要があるのか?それは、脳を「だます」ためです。

一度目のゼリーは体調悪化に焦って、とにかく「流し込んで」しまいましたが、二度目はきちんと「味わい」ました。すると、直後からしゃきっとして身体が軽くなったのです。

ご存知の通り、食べたものはすぐには吸収されません。食材にもよりますが、消化吸収にはだいたい20~40分くらいかかりますから、ゼリーを飲んでも直後にエネルギーにはなりません。つまり、飲んですぐに効いた二度目のゼリーは「胃」ではなく「脳」に働いたことになります。舌で得た「甘い」という味覚が脳に伝達され、吸収前にもかかわらず「これで当面は大丈夫」という判断をしたのです。ちゃんと味わわなかった一度目のゼリーは脳を素通りですね。

ということは、例の「疲労」や「痛み」も、実際に身体がおかしくなっているわけではなく(といって尋常でもないことは筋肉痛でも明らかですが)、脳が「もうだめだ」「エネルギーが切れる」「運動をやめさせよう」としていたわけです。といっても、本当に糖質がなくなったら死んでしまいますので、そこにはマージンがちゃんとあります。つまり、マージンの範囲内でなら脳を「だます」ことで走り続けることができる仕組みなのです。

当然ながらこれはリスクですから、きちんと給食を摂る必要性はいうまでもありませんが、脳に働きかけるには単に食べるだけではなく「味わう」ことも大事ということなのです。今回私はこの点をおろそかにして、後半倍返しを喰らったわけです。なにごとも基本は大事ですね。

ちなみに、脳のエネルギー消費率は、ネガティブ思考のとき一段と悪化することがわかっています。マラソンでいえば、「自分は一体何をしているのか」「もうだめだ」「あと何十キロも走りたくない」などと考えるほどブレーキが早くかかります。このため、トップランナーの方々はだいたい30km過ぎまではひたすら「無心」、割り込まれようが肘が当たろうが、極力何も考えず機械のように走ることを心がけるそうです。

そういえば、人間は悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しくなるのだと聞きました。つらい時こそ笑顔、次のレースからはスマイルラン!を肝に銘じて、ゴールまで快走したいものです。

ところで、脳と安全は密接な関係があります。次回以降でぜひその関わりを読み解いていきたいと思います。

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