2017年8月25日更新【第5話】おいしい水は安全な水?!
〜水のリスクを考える〜
残暑が厳しいのは日本だけにあらず。ここ、Pちゃんたちが住むピルツライヒ(ピルツ帝国)も、年々上昇する気温と湿度に悩まされていた。まぁ、ある程度の湿度の高さはキノコにとってはありがたいのだが、暑さは別だ。あまりの暑さにヤス先生は、「残暑が厳しいザンショ!」などと云い出す始末。。。(-_-) ヤス先生の脳みそも夏バテしているらしい。
そんな中、あたりに響き渡る元気なPちゃんの声が聞こえてきた。どうやらPちゃんは、夏男ならぬ「夏キノコ」のようだ。
ミネラルウォーターは安全なのか?
「水を買う」行為が当たり前になって、もうどのくらい経つでしょうか? 私の記憶が確かならば、昭和50年代の半ば頃まで、水を買う習慣など、なかったように思います。調べてみると、最初にミネラルウォーターとして登場したのは、1983年に発売されたハウス食品の「六甲のおいしい水」だそうで、それ以降大手飲料企業が次々とミネラルウォーター市場に参入し、現在のような一大市場が出来上がりました。
一般社団法人日本ミネラルウォーター協会の資料によると、1982年に87,00KLだったミネラルウォーターの国内生産量は、2016年には3,176,558KLにも増え(*1)、一人あたりのミネラルウォーター消費量においては、1997年(平成9年)の6.3リットル/年から、2016年には27.8リットル/年と、4倍以上も増えています(*2)。
とはいえ、「水」いう商品が市場に出回ってから、まだ30年くらいしか経っていないのですが、すでに私たちの中には、「おいしい」「カラダにいい」「安心して飲める」「地球にも優しい」といったイメージが定着しており、水道水よりもミネラルウォーターを無条件に選ぶ人も増えてます。
でも、本当にそれでいいのでしょうか? 水を買うことが「当たり前」になった今だからこそ、あえて立ち止まり「ミネラルウォータってどんな水?」「水道水はホントに危険なの?」という素朴な疑問を、ピルツ流に考えてみたいと思います。
最初にお断りしておきますが、私たちはミネラルウォーターを否定しているわけではありません。外出時に喉が渇いたときには、ありがたくその恩恵に預かっています。今日も美味しくいただきました。ここで言いたいのはイメージ先行で「◯◯らしい」と鵜呑みにするのではなく、ちゃんと考えてみようよ!ということだけなのです。
ミネラルって何?
「ミネラルウォーター」というくらいですから、「ミネラル成分」が含まれている水であることは間違いありません。ミネラルは人体を維持するために欠かせない必須栄養素で、有名どころではカルシウムや鉄、ナトリウムなどがあります。この断片的な知識をつなぎ合わせると、「ミネラルウォーターはカルシウムなど体に良い成分が含まれている」と思いがちですが、本当にそうなのでしょうか?
環境学の権威であり、独)科学技術振興機構・研究開発戦略センターシニアフェローにして東京大学名誉教授の安井至氏の言葉を借りれば、「水を飲むことで健康になるというのは幻想」であり、食べ物からミネラルを摂るのとは違い、ミネラルウォーターのミネラル分が体に取り込まれることはほとんど無く、そのまま排出されてしまうそうです(*3)。
また、同じく安井氏の講演録が掲載されている日本石鹸洗剤工業会のサイト(*4)を見ると、ミネラルは一般に考えられているカルシウム、マグネシウムに限ったわけではなく、発ガンリスクが高いと言われている「ヒ素」なども含まれているとのこと。そもそもヒ素は海底に多く存在する無機物で、海底でできた石灰岩にも多く含まれ、石灰岩地を流れてきた硬水にも多く含まれているのだそうです。なかなかにショッキングですよね。
また、少し前に話題になった「海洋深層水」も、まさにイメージ先行型のミネラルウォーターでした。平成13年に公正取引委員会から「飲用海洋深層水の表示について」のガイドラインが示されましたが、安井氏曰く、「結局は体に良いとか安全だというようなイメージをビジネスに利用しているだけ」と、ぴしゃりと言っています。
私たち現代人は「良いこと」にはすぐに反応し、素直に受け入れますが、マイナス要因、デメリットなど「都合の悪いモノ」は、あえて見ない、もしくは見て見ないフリをしてしまう傾向があるように思います。イメージありきだった「ミネラルウォーター神話」も、当たり前のこととするのではなく、もう一度「事実(科学的データ)」をもとに、考えてみるときに来ているのではないでしょうか?
日本の水道水はホントに危険?!
水道水についても偏ったイメージは今もついて回ります。冒頭のドラマでカタチダケが言っているように「水道水=塩素で消毒=塩素は有害=飲んではいけない」という安易な連鎖で危険視している人が多いように思います。
しかし、水道水の安全性は「水道法」で定められた厳しい基準をクリアしており、徹底した安全性や品質管理がなされています。多くの人が気にしている塩素(残留塩素)の量も、日本の基準はたったの「0.1〜1mg/L」。世界保健機関(WHO)の水質ガイドランが定める「5mg/L」を大幅に下回っています。
しかしながら、塩素と水分中の有機物が反応してできる発ガン性物質「トリハロメタン」や放射能などが水道水から発見されていることは事実としてあります。また、水道管やタンクなどの老朽化なども問題視されています。確かにそれらは危険因子であり、「影響が出る可能性」はありますが、どのくらいの量を、どのくらい長期間摂取すると人体に影響がでるのかは、誰にもわからないのです。
それなのに、なぜ水道水を飲まずにミネラルウォーターを飲むようになってしまったのか? ひとつは企業のイメージ戦略の勝利と言えるかもしれせんが、「危ないものが(微量でも)入っているから危ない」という、少々強引ともいえるイメージが定着してしまったがために、ミネラルウォーターという代替品へシフトしてしまったように思えてきます。
でも、ご存知でしょうか? 水道水とミネラルウォーターの基準を比べると、水道水の方が基準が緩い項目はひとつもない!のです。
先述のJSDAクリーンセミナーの安井氏の講演資料には、このような数字が挙がっていました。
ミネラルウォーターの方が緩い項目
・ヒ素(0.05mg/L)5倍
・フッ素(2mg/L)2.5倍
・ホウ素(〜5mg/L)5倍
・亜鉛(5mg/L)5倍
・マンガン(2mg/L)4倍
また、東京都水道局のWebサイトに、ミネラルウォーター類と水道水の水質規格の比較が掲載されています。ミネラルウォーター類の水質については、食品衛生法第11条に基づく「食品、添加物等の規格基準」によって、その安全性が確保されていますが、なかなか水道水と比べて見る機会もないと思いますので、このチャンスにぜひ、チェックしていただければ幸いです。
ちなみに、私たちがこの表を見て思ったことは、「東京の水道水、やるな」でした。あくまで個人の意見ですが。
[参考・出典・引用先]
*1:一般社団法人日本ミネラルウォーター協会「ミネラルウォーター類 国内生産、輸入の推移(PDF)」より
*2:同 「ミネラルウォーターの1人当り消費量の推移(PDF)」より
*3:All About[これでもまだ水を買い続けますか?【前篇】より
*4:JSDAクリーンセミナー「安全と安心はどう違うか ~安心できない市民へのメッセージ~」より
*5:東京都水道局「トピック第12回 ミネラルウォーター類」より
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