ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2018年9月20日更新「安全道場」訪問レポート

 去る8月20日、埼玉県川口市にある凸版印刷株式会社の「安全道場」に、裏ピルツ編集部の杉原がドイツ人研修生2名と技術部太田を連れ、取材に行ってまいりました。今年このコーナーで「はさまれ・巻き込まれ事故」の特集を組んでいることを知ったある親切な読者の方より、この道場のことを教えていただき、早速取材を申し込み、今回の取材が実現しました。

 「安全道場」は一言で言うと、機械の怖さを体感で学ぶ道場です。製造業に携わる方は社内で耳にタコができるほど、機械の危険性や安全な取り扱いの重要性について、管理者から聞かされていると思いますが、交通事故と同じで「自分だけは大丈夫」と言う根拠のない自信を持ってしまいがちです。実際には死亡事故も重篤災害も日本全国の事業所で毎年一定数発生している訳ですが、事故を身近に体験しない限り、他人事として捉えてしまいやすいのが実情です。

 この道場は2010年9月に開場され、今年で設立8年目を迎えます。トッパングループのホームページには、道場がオープンした直前である2010年6月に「安全衛生基本方針」が策定され、「事業活動を行うにあたり最優先すべきは安全である」と宣言されています。お話をお伺いしたところ、元々経営陣の安全への意識が高かったようですが、2009年に社内で大きな事故が発生し、何とかしなければと言う声が上がったのが設立の直接のきっかけになったそうです。

 師範の小林先生のお話によると、道場の目的は、「怖い思いをして感度を高めてもらい、意識や行動を変えてもらうこと」で、その後の具体的な取り組みは各事業所に任せているそうです。当日「体感」に参加した将来ピルツに勤務するドイツ人研修生も、今回初めて安全装置がどのような場面で使われるのか、もし適切に使用されなかった場合どうなるのか、ということを疑似体験できたことは大変有意義でした。

道場の開場後は、開場前と比較して事故が3割ほど減ったそうで、高い効果があったことがわかります。また、5年に1度、キャラバンに機材を積み込んで、「キャラバン安全道場」を日本全国で実施しているそうです。キャラバン安全道場はトッパン全社の全階層を巻き込んだ取り組みで、正社員のみならず、派遣社員も参加しています。

それでは、今回ピルツの研修生が参加したはさまれ・巻き込まれの「体感」をいくつか紹介します。使われた体感用のデモ機はどれも本物の何分の一かの大きさでコンパクトでしたが、事故が発生した時の怖さは十分伝わりました。

 

1.ローラー巻き込まれ

まず、「ローラー巻き込まれ体感」で研修生がローラーを清掃中に2つのローラーの間に手を挟まれる事故を体感しました。本来ならローラーが回転中は危険なので、扉を開けるとローラーは安全装置で停止されるはずです。しかし、清掃作業をスピーディーに終わらせたい作業者は、安全装置を意図的に無効化し、ローラーを低速で運転したまま雑巾で汚れたローラーをふき取る作業を行うと言う設定です。ありがちですね。低速なら機械が動いたまま作業をしても安全と思ってしまうのです。実際は、あれよ、あれよ、と言う間に、雑巾と一緒に手が巻き込まれてしまいました!

図1.ローラー巻き込まれ体感

2.プレスはさまれ

次に、プレス機に指が挟まれ、つぶされる事故を体感しました。人間はどんなに注意をしても、完全にミスを避けることは不可能です。集中力が落ちたとき、誤ってフットペダルを踏んでしまって金型の間に指をはさまれる事故が発生してしまいました。あ、痛い!気がついたときにはもう遅く、時間を元には戻せません。

プレス機械のように作業者がワークを機械に投入するような装置の場合は、作業者の手が塞がるように、両手操作機器を使用します。この両手操作機器の釦配置などの基準は国際規格や日本工業規格で定められておりますので、規格の要件を満たした機器を使用する必要があります。例えば、両手釦の2つの釦の距離が短く、片手での両手操作が可能な状態や、片方の釦をテープや割り箸等で押したままの状態を作り、片手で操作するような制御は事故の原因となります。

図2.プレスはさまれ体感

3.Vベルト・チェーン巻き込まれ

チェーンと回転体の間に割り箸を差し込んで、巻き込まれたときの衝撃を体感しました。私もやらせていただいたのですが、もしこれが割り箸ではなく自分の指だったら、と思うとぞっとします。デモ機の開口部から入れた割り箸は一瞬のうちにコンベアに巻き込まれてしまいました。

大規模な装置のメンテナンスなどの作業において、装置の中にオペレーターが入っていることを知らずに装置の運転を再開した場合、作業中のオペレーターが巻き込まれの事故に遭ってしまう恐れがあります。この様なケースを避けるためにも、作業者が装置の中に入っていることを他の作業者に知らせるためのロックアウト・タグアウトのシステムの導入が必要とされます。

図3.Vベルト・チェーン巻き込まれ体感

4.ボール盤巻き込まれ

軍手を作業で使用することは、労働安全衛生規則では危険防止のため禁止されているそうです。軍手は回転する機械に非常に巻き込まれやすいからです。この事を知っていながら軍手着用で作業をした結果事故が起こってしまったら、罰則も設けられているそうです。しかし、それにも関わらず使用した場合、どんなことが起こるのか見せていただきました。軍手だけでなく、袖の長い衣類も危険なのですね。これを見たら軍手をはめて作業しようとは思わないはずです。

図4. ボール盤巻き込まれ体感

この他にも、残圧はさまれ体感やチャッキングはさまれ体感に研修生が参加しました。記事や動画では実際の怖さや衝撃は完全には伝わらないので、やはり実際に体感するのが一番です。この記事を読んで興味を持っていただいた読者のみなさんは、ぜひ参加をご検討ください。

 

「安全道場」は元々、凸版印刷さんが社内の安全教育のためにオープンしたものですが、CSRのため、外部企業の方にも施設を利用していただけるそうです。今までに述べ30,000人の社員と外部企業416社から延べ3,500人が参加。近年参加希望者が増え、すぐには空きがないようですが、2、3ヶ月先なら予約できるそうですので、予定が決まりましたらお早めにお申し込みください。*お申し込みは凸版印刷ホームページの「安全道場」ページからできます。

 

*[参加のお申し込み方法について]

上記ページをほぼ一番下までスクロールしていただくと「地図・アクセス」が表示されますが、そのすぐ上にあるExcelとPDFのいずれかの申込書をダウンロードして必要事項を記入後、申込書に記載のメールアドレス宛にお送りください。

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