ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2019年2月27日更新真空管アンプ
~佐久間駿さんを偲んで~

 どうも、アラフィフおやじです。

 日本における真空管アンプ製作の第一人者である「佐久間駿(すすむ)」さんが、昨年12月13日に他界されました。心からご冥福をお祈りいたします。

 今日は、佐久間さんがこよなく愛された真空管アンプと佐久間さん自身について話をしたいと思います。

 

 佐久間駿さんは、1943年東京生まれ。館山で50年続いたハンバーグ専門のレストラン「コンコルド」の料理人でした。そして、知る人ぞ知る真空管アンプの製作家。あくまでも本業はレストランで、アンプ製作の方は趣味ということで販売はしていないものの、ファンの間では「佐久間式アンプ」と呼ばれ、ジャズやオーディオ業界では有名なお方です。佐久間さんはファンのために「佐久間式アンプ」を広い会場でデモンストレーションする「オーディオコンサート」(!)を定期的に開き、イタリアのミラノやアメリカのシアトルでも大勢の人の前で披露していたとのこと。なんともワールドワイドですね…。

 私が初めて佐久間さんのことを知ったのは、今から10年以上前。どこで知ったのかはっきり覚えていないのですが、おそらく雑誌「男の隠れ家」の連載ジャズ特集記事「ジャズを巡る旅 」(図1)で作家(兼ジャズ評論家兼政治運動家?)の平岡正明さんが書かれた3ページにわたる佐久間さんに関する特集記事(図2)を読んだのがキッカケだと思います。「ジャズを巡る旅」は2006年から2008年までの3年間で3冊出版されていますが、いずれの巻も非常に秀逸な内容。平岡正明は横浜の下町、野毛を拠点として、政治、革命、犯罪、アイドル、落語…そしてジャズと、非常に間口が広い作家で、2009年に亡くなるまでに約120冊の本を残しました。私が読んだのはその中のほんの3冊程度(図3)ですが、読むといつも平岡さんの該博な知識や深い洞察力、音楽への愛情の深さに圧倒されました。

 

図1.「男の隠れ家」

図2.特集記事

 

図3.平岡正明氏著書

 その平岡さんは、佐久間さんが誠文堂新光社出版の「MJ無線と実験」(図4)という雑誌で数十年にわたって連載していた真空管アンプの製作日記の愛読者でもあり、ある日コンコルドを訪れたところ佐久間さんと意気投合し、その後ほどなくして共著で本を出版することになります。「DJ」というタイトルのこの本は、佐久間さんと平岡さんがディスクジョッキーを務めたFM東京のラジオ番組「メシ食ってます」(エリック・ドルフィーのアルバム「Out to Lunch」を和訳したとのこと)での軽妙なトークの掛け合いを紙上に再現したもの。アラフィフおやじも手に入れて読んでみたところ、これが面白いのなんの…。「あの」平岡正明を相手に対等にトークできる人はそういないと思うのですが、佐久間さんは平岡さんの「該博な知識」に全く臆することなく、同じレベルで応戦するのです。しかも、単なる知識のひけらかし合戦ではなく、文章からはジャズや音楽に対する洞察や愛情、温かさが感じられます。トーク自体は表面上とても軽い感じなのですが、読後には深い満足感が残るのです。

図4.「MJ無線と実験」

 

 「DJ」を読んですっかり佐久間ファンになってしまったアラフィフおやじは、すぐに佐久間さんが書いたジャズや真空管アンプに関するエッセイ数冊(図5)を取り寄せて読んでみたのですが…どれも面白い本ばかり。佐久間さんの本は真空管アンプの回路図と専門用語だらけで読みにくいと言えば読みにくいのですが…不思議と言わんとするところはきちんと伝わってくるのです。あいにくアラフィフおやじは真空管アンプに関する技術的な面には少々弱いので、「MJ無線と実験」の誠文堂新光社が出版した教科書的な本(図6)も買って勉強中。専門用語も図面もきちんと理解できるようになればもっと面白く読めるのではないかと思っています。

図5.佐久間氏著書

図6. 真空管アンプ本

 佐久間さんが自作のアンプで奏でるのはジャズだけでなく、クラシックや演歌(!)など、バラエティに富んでいます。オーディオの世界では通常、原音に忠実な音や、低音から高音まで満遍なく出る音が好まれる傾向にありますが、佐久間さんの真空管アンプの音はそれとは真逆な世界で、帯域が狭い所謂「ナローレンジ」の古い音ですが、ナローレンジ(しかもモノラル再生!)ながら骨太な真実味のある音を追及されていたのだと思います。

 また、佐久間さんは音楽には「哀愁とエナジー」が無いとダメだと言い切り、それは演歌でもジャズでもクラシックでもジャンルを問わず同じとのこと。演歌では北島三郎の「兄弟仁義」が好きで、特に2番の歌詞の「あとはたのむと かけ出す露路に ふるはあの娘の なみだ雨」という歌詞が特にお気に入りのようで、エッセイやインタビューなどでは良くこの2番の歌詞について触れています。なんでも佐久間さんのモットーは「1曲1アンプ」とのことで、YouTubeではこの兄弟仁義を聴くためだけにVT51(通称841)と呼ばれる真空管を買い求め、専用のアンプを作る、というテレビの取材映像がアップされています。真空管や回路設計ごとに音の性質が異なることから、こういう発想でアンプを作るのも面白いなと感じました。佐久間さんの動画が見ることができる貴重な映像ですのでもし時間があったら是非ご覧ください。(https://www.youtube.com/watch?v=n_b4GpqNB7k

 平岡さんは、前述した「ジャズを巡る旅 Vol.3」の記事を書かれた翌年の2009年の7月、脳梗塞で帰らぬ人となりました。実は「DJ」は続編の出版が計画されていて、タイトルも「DJ2:again」と決まっていたようです。私も是非読みたいと思って期待していたのですが、平岡さんの死で出版はかなわないものになってしまいました。

 しかし一昨年前、アラフィフおやじは佐久間さんが平岡さんとの対話風エッセイ集である「再会」(図7)を自費出版されたという情報を得たので、ネットで取り寄せて早速読んでみました。自費出版なので装丁も最低限、ページ数も少ない本ではありましたが、平岡さんとの思い出話や、天国にいる平岡さんとの仮想のやり取りなどが記載され、二人の間の深い友情が感じられる素晴らしい本でした。

図7. 再会

 館山のレストラン「コンコルド」には、10年前からいつか行きたいと思いながら延び延びになっていましたが…佐久間さんが亡くなられたことで、この願いはかなわぬものになってしまいました。佐久間さんの作ったハンバーグを食べながら、ナローレンジでモノラル再生の古いレコードを聴くことが永遠にできなくなってしまったことで、私はダラダラと訪問を先延ばししてしまったことを心から後悔しました。「MJ無線と実験」のホームページには、2018年の11月11日(日)に予定されていたレストランコンコルドでの佐久間氏製作の真空管アンプの鑑賞会が、ご本人の体調不良のために中止になったとの記載がありました。この頃からずっと体調を崩されていたのかもしれません。

 結局一度もお会いすることができなかった佐久間さんですが、ファンの一人として心からご冥福をお祈りします。きっと佐久間さんは天国で平岡さんと「再会」し、ニコニコしながらジャズやオーディオ談義をしているのではないでしょうか。アラフィフおやじも、今宵は佐久間さんが好きだったBarbara Leaの「Nobody Else But Me」でも聞きながらゆっくりお酒でも飲みたいと思います。

 真空管アンプの伝説になった佐久間駿さんに…乾杯!

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