ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2020年5月19日更新PLEK(プレック)体験

どうも、アラフィフおやじです。
今日はギターのメンテナンスに関する話です。

 以前も何回かギターのメンテナンスについてこちらのコラムで触れましたが、ギターという楽器は、なかなかに手がかかる存在で、気持ちよく使い続けるには日々のメンテナンスに加えて必要に応じて都度リペアをしてやる必要があります。
 アラフィフおやじがもう25年近く使い続けているオベーションのAdamas(アダマス)というギター(図1)は、サイドとバックは通常の木ではなくガラス繊維強化樹脂を用いた「リラコード」と呼ばれる特殊素材(ヘリコプターのローター等で使用)で一体成型されており、トップにはカーボンと木材の複合素材を使っているというユニークな製品。以前は松山千春や尾崎豊等のアーチストも使っていて、1ドルが360円だったころは100万円近くする高級ギターでした。(ちなみにアラフィフおやじが購入した時は円高だったので30万円以下に下がっていました)

図1. オベーションAdamas

 このAdamas、非常に頑丈にできているので25年近くネックもボディも電気系統も全くトラブルがなく、手がかからないとってもいい子だったのですが、ここ数年少しだけ一部のフレットで音が詰まるような感じを覚えるようになりました。まあ、ライブ等での演奏にはほぼ影響はなかったので放っておいても良かったのですが…なんとなくずっと気になっていて…。
 ちなみに昨年度、こちらのアラフィフおやじのギター日記の「裏テクニカルセミナー(2019年6月)」のコラム内で「PLEK(プレック)」というドイツ製の秘密兵器(?)について触れたと思います。PLEKはネックのソリやネジレなどを1/1000㎜単位で計測可能な装置で、現在の楽器の状態、調整を終えた楽器の状態のそれぞれを数値やグラフで「見える化」してくれるという強力なツールです。実はアラフィフおやじはPLEKに非常に興味を持っていて、ちょっとだけ弾きにくくなってきたAdamasを一旦この装置にかけてみたいとずっと思っていいました。…で、今回それがとうとう実現したという話。
 元々このPLEKを教えてくれたのは宮城県女川のギターショップ「GLIDE(グライド)」の社長の梶屋さんで、「ギターを送ってくれればいつでもチェックしますよ!」という温かい言葉をいただいていたのですが…愛するギターを梱包して長旅に出すのがどうも不安で、ずっと二の足を踏んでいました。しかし、調べてみたら都内にもこのPLEKを取り扱っているお店があることを発見。持参すればPLEKが動作するところも見ることができる…ということで、梶屋社長には大変申し訳ないのですが、青山一丁目駅近くにある「Xotique(エキゾティーク)」というギターショップ兼リペアショップに愛機を持っていくこととしました。
 休日の青山一丁目はコロナウイルスの影響のせいか人もまばらで、目指すギターショップはちょっと入り組んだ住宅街の真ん中(図2)、場所は青山一丁目と赤坂のちょうど中間ぐらい。コンクリート打ちっぱなしのオシャレなビルの1階にそのお店はありました。

図2. Exotique外観

 実は「Xotique(エキゾティーク)」というお店では、以前こちらのコラムで紹介した「Allen Hinds(アレンハインズ)」が使用している「Xotic(エキゾティック)」というブランドのギターを中心に取り扱っており、微妙にスペルが違うのは、Xotic以外のギターも取り扱っているからとのこと。(ややこしい…)
 こちらのお店、1Fはギターショップになっているのですが、御茶ノ水あたりの楽器店とは違って、カフェのようなオシャレな内装に加え、まるでインテリアの一部のように壁にズラッと高級ギターが並んでいるので、非常に落ち着いた空間になっています(図3)。また、部屋の中央には革張りのソファがあり、そこでゆっくり珈琲などを飲みながらじっくりギターと向き合うことができます(図4)。そして地下はリペア工房のようなスペースになっていて、PLEKはそこに鎮座しています。

図3. Exotique店内

図4. Exotique店内(ソファのある空間)

 最初に店長の渡辺さんにギターを見てもらいながら、まずは簡単な問診。「2弦の1フレットあたりが少し押さえにくいのですが…」と説明したところ、渡辺さん曰く少しフレットが減ってナットの高さとのバランスが悪くなっているようだとのこと。まずはPLEKにセットして現状を確認することにしました(図5)

図5. PLEK診断中

 PLEKにかけたところ、ネックやフレットは25年も手をかけていなかった割には「とっても良い」状態だったようです。グラフを使って説明していただきましたが、向かって一番左側の黒くて太い線がナット、一番右側の黒くて太い線がブリッジ、ヘッドを左側にしてギターを寝かせて、横から眺めているイメージだそうです。ネックがずいぶん反っているように見えますが、軽く順方向(弦に引っ張られる方向)の反りがあるのが正常な状態らしいです。高音部はアダマス特有のデザイン的に付加されたフレットなのでそこは無視するとして、一部を除いて実際の指板・フレット(グレー部・オレンジ線)と理想の曲線(青線・緑線)がともにほぼ一致(図6)しており、このままでも演奏には支障ないとのこと。しかし、良く見ると一部のフレットの高さにミクロン単位のバラつきがあり、せっかくなのでネック全体を完璧な状態に調整してもらうこととしました。

図6. PLEK診断結果

 PLEKは、ネックの状態をスキャンして指板・フレットの高さを可視化するとともに、理想的なフレットの高さに合わせて自動的にフレットを研磨する機能も持っています。つまり、最終的な細かい仕上げを除けばこの機械だけで自動的に検査・調整ができてしまうというコト。なんちゅー優秀なヤツ…。
 渡辺さんによると、PLEKは1千万円以上する上に、けっこうランニングコストもかかるとのこと。やっぱり優秀なヤツはお金もかかるということで…でも、通常にリペアショップに出すのに比べると安い方(PLEKの検査と調整、フレットすり合わせコミで15,400円)だと思いますし、何と言ってもネックの状態が「見える化」「数値化」されることの納得感は大きいと思います。
 アラフィフおやじは過去何度もギターをリペアに出したことがあるのですが、リペアショップも様々で、こちらの要望以上に丁寧に仕上げてくれるところもあれば、雑な扱いを受けたり、納期がべらぼうにかかったり…いつも満足できるとは限りません。アラフィフおやじの経験では、腕のいいリペアマンほど謙虚で、こちらの要望に真摯に向き合いながら満足のいく結果を出してくれるような気がします。その逆で、中途半端なリペアマンは自分の腕や使用している機材の自慢、有名人の楽器のリペアをしたことがあるとかなんとか能書きタラタラ…という人が多く、そういう人に当たった時は心底がっかりしますし、実際に痛い目にあったこともあります。しかし本当に腕のいいリペアマンは、多くの注文が集中するので、新規のオーダーを受け付けていないことも多く…悩ましい所です。
 XotiqueのPLEKの場合、1週間で検査・調整の全工程が終わるので、納期に関しても全くストレスはありません。しかも「見える化」「数値化」に加え、渡辺店長による検査結果の丁寧な説明と、調整方針のすり合わせなど、何もかもが分かり易く進んでいくのが非常に素晴らしいと思います。弾き心地の問題のような感覚的な事ってなかなか上手く言語化できないこともあるのですが、PLEKであれば、ディスプレイに表示された検査結果を一緒に見ながらあーでもないこーでもないと意見交換が出来るので素晴らしいと思います。
 その後1週間が過ぎ、再度訪れたXotiqueで試奏させてもらったAdamasはフレットのすり合わせ、ナットの調整(計18,700円)を済ませて最高に弾き易い状態になっていました。イメージ的にいうと、今までとあまり弦高は変わっていないのに、今までの7~8割の力で弾けるような感じ。多少プラシーボ効果もあると思いますが、今回のように微妙なレベルの調整であってもPLEKする価値はあると感じました。
 最後にお店を出る時、渡辺さんから「Xotique」のお店のロゴがプリントされた珈琲の袋を一ついただきました(図7)。なんとお店のオリジナルブレンドだそうです。XotiqueはPLEKという「機械」を使ったリペアが売りのお店なんですが、居心地の良いカフェのような店内やこの珈琲から、店を訪れる人とのイイ関係を大事にしていることが良く分かります。やっぱ、最後はそこですよね~。

図7. Exotiqueオリジナルコーヒー

 アラフィフ世代のギタリストの皆様、長年連れ添ったギターをPLEKにかけて、リフレッシュしてあげるのはいかがでしょうか?ギターだって長年使っていれば疲れも溜まってきます。きっとPLEKでリフレッシュしたギターは、生涯の友として活躍してくれると思いますよ!

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