ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2018年7月18日更新ジプシージャズ

 どうも、アラフィフおやじです。

 今日は、多分「知らない人がほとんど」と思われるマニアックな音楽ジャンルである「ジプシージャズ」について書こうと思います。

 

 「ジプシージャズ」をインターネットで調べると、「ジプシースイング」「マヌーシュジャズ」などの類義語がヒットします。Wikipediaによると「1930年代にギタリストのジャンゴ・ラインハルト(図1)が始めたジプシーの伝統音楽とスウィング・ジャズを融合させた音楽」と書いてあります。

図1 ジャンゴ・ラインハルト

 …と言われても何が何だか分からん、とお思いでしょう。そもそもジャンゴ・ラインハルトやジプシーを知らないとこの先話が進まないので、ちょっと退屈ですが音楽の話の前に歴史の話から。

 ジャンゴ・ラインハルト (Django Reinhardt)は1910年に誕生したベルギー生まれのジャズ・ミュージシャン。両親はロマ(旅芸人:ジプシー)の一座で、幼少の頃から家族と共にヨーロッパ各地をキャラバンで旅して過ごし、ギターやヴァイオリンの演奏を身につけて育ったそうです。

 18歳になったとき、ジャンゴはキャラバンの火事を消そうとして、半身に大やけどを負ってしまいます。その結果、彼の右足は麻痺し、左手の薬指と小指には障害が残ってしまうのですが…普通はそこで楽器の演奏をあきらめることになりそうなのですが、ジャンゴは不屈の精神により残った人差し指と中指の2本だけでギターを弾く技を会得するのです。そして、ロマ音楽とジャズを融合した新しいジプシージャズというジャンルを開拓し、世界的に知られるギタリスト・作曲家となりました。もともとジャズはアメリカで広まった音楽ですが、その功績から「ヨーロッパ初の偉大なジャズ・ミュージシャン」と呼ばれていたそうです。

 ジャンゴの音楽を文章で説明するのは難しいのですが…私がジャンゴの音楽を初めて聴いたのは20ウン年前、ちょくちょく通っていた稲毛駅前の「フルハウス」というロックバーでマスターがギター好きの僕のためにBGMとしてレコードを聴かせてくれたのがきっかけでした。聞いた瞬間感じたのは「無声映画のBGMみたいな音楽だなぁ」ということだけで、曲の途中に出てくるアドリブによるギターソロもさほどスゴイとは感じることなく、ただ、なんとなくジャンゴという名前が記憶に残った程度でした。しかし、この後、アラサーだったアラフィフおやじはジャンゴと劇的な再会を果たすこととなり、ジプシージャズはアラフィフおやじの大好きなジャンルの一つとなったのです。

 アラサー時代のアラフィフおやじは、当時よく西新宿にある小さなライブハウス「ライブインピア」に出入りしており、客としてライブを見たり、アコースティックギターのDUOで出演したりしていました。当時よくライブインピアには「ツインズ」という30代後半位の双子の男性によるアコースティックギターのDUOが出演しており、アラフィフおやじも当時そのプレイスタイルに大きく影響を受けていました。彼らは良くアンコールで、フラメンコのようなリズミックなバッキングに哀愁漂うメロディラインが印象的な曲をプレイしていて…アラフィフおやじはその曲が大好きだったのですが、ずっと「誰の曲だろう」と思っていました。

 ところが、ある日たまたま入った千葉パルコのHMVのJAZZコーナーでたまたま視聴した「ビレリ・ラグレーン」というギタリスト(図2)の「アコースティック・モーメント」というCDの1曲目になんとその曲(「メイドインフランス」という曲)が入っていたのです! もちろんその場でそのCDを購入して帰ったのですが、後になってビレリはジプシージャズギタリストの第一人者であり、ジャンゴの息子から「オヤジのスタイルに一番近い」と太鼓判を押された、ジャンゴの正当な後継者の一人であるということを知ったのです。

図2 ビレリ・ラグレーン

 それからあらためてジャンゴのCDをちゃんと聞き直してみたのですが、以前軽く聞き流していたプレイが意外と運指的に難しいフレーズを連発していることが判明しました。キャッチーなフレーズなので、凄さが全く分からないのですが、自分のギターで再現しようと思うと…全く弾けない!しかもジャンゴはこの早いパッセージを2本指で弾いていたなんて…考えられません。

 ジャンゴ・フォロワーはビレリ以外にも大勢いるのですが、比較的多くのジプシーギタリストがジャンゴに比べると「頑張って速弾きしてマス!」的な印象を受けます。これは全くの主観ですが、ジャンゴの演奏を聴いていると、速弾き自体よりも「音楽」が全面に出てきており、テクニックの押し売り的な要素は薄いように感じます。ビレリのギターも確かにテクニック的にスゴイのですが、その中に「音楽的必然性」のようなものが感じられるため、そのあたりが「オヤジのスタイルに一番近い」と言われる所以なのかなと思いました。

 ちなみにジプシージャズはギターでジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッと、非常にリズミカルで特徴的なビートを刻みます。一般的なモダンジャズのノリとは異なり、フランスの民族音楽である「ミュゼット」のような軽快さを感じます。アンサンブルとしてはギター数本、あるいはベースとギター数本(時おりバイオリンやアコーディオン)というシンプルな構成ですが、リズムで一番表に出てくるのがギターです。モダンジャズにおいてはアンサンブルにおいてギターが全面に出ることは比較的少ないのですが、ジプシージャズにおいてはギターがメロディ・バッキングにおける「主役」です。

 で、その主役になるギターの話(実はここからが本番^^;)なのですが…非常にユニークな形状をしています。アコースティックギターの一種なのですが、このジャンル以外では使用されることはほぼなく、逆にジプシージャズの演奏においてはほぼこのタイプのギターに限定されるという、正真正銘「ジプシージャズ専門」のギターなのです。もともとジャンゴが使っていたオリジナルはサックスで有名な「セルマー製」のギターなのですが、セルマー社は非常に短期間しかこのタイプのギターを製作していなかったので、現存するジプシーギターのほとんどは「レプリカ」となります。フランス中心に欧州各地でこのセルマーのレプリカが作られているのですが、高級なものだと100万円を超えるようなものも存在し、非常にクオリティが高いです。一般的な製品でも30万円を超えるようなものが多く、用途が極めて限定されていることもあり、マニア向けと言った位置づけであったかと思います。

 最近では日本、中国、アメリカ等、世界中でセルマーのレプリカが製作されており、技術的にも徐々にレベルが上がってきているように思います。また、価格もこなれてきており、10万円未満でもかなり満足できるレベルの出来の製品が多く存在するため、マニア以外にもこのジャンルのギターが広がりつつあります。

 この手のギターは、通常の楽器店ではほとんど取り扱いがないので、購入できる楽器店はかなり限られてきます。何かの間違い(?)で1~2本通常の楽器屋でも見かけるケースもあるのですが、安定してそれなりの本数を常時扱っている店として特に私がおススメするのは、柏の「ギターショップタンタン」、阿佐ヶ谷の「ラストギター」、そして西日本のジプシーギター界の雄「ストリングフォニックス」の3店舗です。いずれのお店も駅から少し離れた雑居ビルの中で、地味にひっそりと(?)営業しています。

 私もタンタンでジプシーギター2本を購入させていただきました。いずれのお店もジプシーギターに対する造詣と愛情を持ったオーナーが、世界を飛び回って直接セレクトした選りすぐりのジプシーギターがそろっています。最初にタンタンで購入したのはサウンドホールが小さいスチール弦の「プティ・ブーシェ」(図3)の方で、その数か月後にサウンドホールが大きなD形のガット弦仕様の「Dホール」(図4)を購入しました。いずれも日本の大手ギターメーカーが中国の工場で作らせた10万円を切るリーズナブルな価格帯の製品ですが、音質やクオリティに関して言えば「全く問題ない」レベルであると思います。

図3 プティ・ブーシェ

図4 Dホール

 ジプシーギターの楽しみはもちろんそのギターでジプシージャズを演奏することなんですが、実はもう一つの楽しみとして「カスタマイズする」楽しみがあります。例えば、弦を巻き取る「ペグ」という部品があるのですが、精度の高い製品に変えると音が変わります。また、ギター本体に弦の振動を伝える「ブリッジ」という部品があるのですが、これも交換すると音が変わります。あと、テールピースと言われる弦をボディに固定するための部品も変えると音が変わります(図5)。

図5 ギター各部名称

私の場合は、最初に「ペグ」を黒檀を使用したシャーラー製に変え、次に「ブリッジ」をタンタンオリジナルのハンドメイド製に変えましたが、音は確実にグレードアップしました。「ペグ」の精度が上がることで「音程」や「弦振動」が安定し、「ブリッジ」が軽量化することでボディにその振動を確実に伝えることが可能となり、そのことによって倍音と低音の質感が向上するとともに音量が大きくなり、ギター自体のグレードが一つ上がったように感じます。自動車マニアの人がホイールを変えたり、エンジンをいじったりする感覚に近いかもしれませんね。音も変わりますが、見た目的にも高級感が増し、愛着も増すので非常にいい感じです。

 …ちなみに「テールピース」に関しては目下のところ購入時のものをそのまま使っています。このテールピースもピンキリで、2万円弱の製品に交換すれば更なるグレードアップが期待できます。しかし、そうなるとギター本体を購入した時の半額以上を部品交換に費やすことになってしまうので…交換すべきかどうか現在ちょっと考え中。そんなことなら最初からワンランク上のギターを買えば良かったのに…という声が聞こえてきそうですが…いじるのはいじるので別な楽しみがあるんですよね~。

 もともとジャズはポップスやロックに比べるとマイナーな音楽ジャンルですが、ジプシージャズはジャズの中でもさらにマイナーなジャンルなので、ジャズが好きな人にジプシージャズの話題を振っても、大抵は「何それ?」とか「ジャンゴは知ってるけど、ジプシージャズは聴いたことないなぁ…」とか、あまり手ごたえのある反応が得られないケースが多いのです。近年ではそのような現状を憂いて(?)、一部のジプシージャズのマニアや数少ない日本のジプシージャズプレーヤーの方々がボランティア的に集まって様々なイベントが行われています。

 2016年からは、日本のジプシージャズプレーヤーの方々が一堂に会する「ジャンゴ東京フェスティバル」というビッグイベントがスタートしました。初年度は私も最前列(!)で参加し、上野公園の野外ステージで夜風に吹かれながらビールを飲み、6時間以上ジプシージャズを満喫し、Tシャツやマグカップ、CDなどのグッズをたくさん購入することでジプシージャズの地位向上(?)に貢献させていただきました。昨年は参加できませんでしたが、今年はぜひ参加したいと思います。今年も10/20(土)上野公園野外ステージ、10/21(日)座・高円寺の2日間開催するようですので、裏ピルツ読者の皆さんもぜひ参加されてみてはいかがでしょうか(http://djangotokyofestival.com/)。

 日本でもこのジャンルが一日も早く日の目を見て、一つの音楽ジャンルとして多くの音楽ファンに認知されることをアラフィフおやじは願ってやみません。

 ジプシージャズ、これからも応援します!

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