ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2018年9月20日更新Gibson(ギブソン)

 どーも、アラフィフおやじです。

 今日は、バンド仲間の中でもちょくちょく話題になる、アメリカの有名なギターメーカー「Gibson(ギブソン)」についての話です。

 ギターを少しでもかじったことのある人であればだれもが憧れる、一流ギターメーカー「Gibson」。そのGibsonが経営不振となり、今年の5月1日、デラウェア州の裁判所に連邦破産法11条の適用を申請しました。Gibsonがどのような会社か、どういう経緯で破産に至ったかなどは報道で皆さんすでにご存じかと思いますので、今回こちらのコラムでは主にアラフィフおやじから見た「体験的Gibson論」を中心に書きたいと思います。

 アラフィフおやじがギターを始めたのは、中学2年生の頃でした。最初に手にしたギターは、「鈴木バイオリン」というバイオリンメーカーが作っていた「Blue Bell(ブルーベル)」というフォークギターで、価格は1万5千円程度。中学2年生にとってはこれでも十分に高価ですし、音にも十分満足していたのですが…楽器店のショーケースに並ぶ「モーリス」「キャッツアイ」「YAMAHA」「Takamine」等の一流国産ギターメーカーの5万~10万円くらいのフォークギターは、当時のアラフィフおやじにとってキラキラと輝く憧れの存在でした。そんな状態ですので…数十万円から百万円を超えるような「Gibson」や「Martin」、「Ovation」などの海外ギターメーカーは、それこそ憧れ以上の雲の上の存在でした。

 しかし、社会人になりある程度自分の自由になるお金が入ってくると、憧れ以上の存在であったハズの海外製ギターにも手が届くようになり、気が付いたら10本ものギターにアラフィフおやじの狭い書斎は占拠されていました。10本のギターはそれぞれがそれぞれに可愛い娘達(息子達?)なのですが、その中でもひときわ存在感を放っているのが2本のGibsonのギターです。1本が「ES-335」というセミアコ(図1:ギター内部が半分中空になっている)モデルで、もう一本が「Johnny Smith」というフルアコ(図2:ギター内部が完全に中空になっている)モデル。これらのギターは2本とも「楽器店での一目(一耳?)惚れ」により購入したものですが、これらのギターと長年付き合っていて感じることは、Gibsonというギターメーカーの「底力」です。

図1 ES-335

図2 Johnny Smith

 「ES-335」は「ミスター335」と呼ばれるフュージョン界の大物、ラリーカールトンや、同じくフュージョン界の「貴公子」と呼ばれるリー・リトナーが長年使用していることで有名なギターです。おそらくどんな音楽ジャンルでも違和感なく使用することが可能で、正にマルチパーパスなギター。

 アラフィフおやじのES-335はリトナーが使っているのと同じチェリーレッド。20ン年前、たまたま訪れた今は無き千葉パルコの楽器屋(島村楽器だったかな?)の壁に下がっていたのを試奏させてもらったのですが、あまりにも出てくる音が心地良かったので「絶対家に連れて帰りたい…」と思い、その場で衝動買いしてしまったものです。

 もう一本の「Johnny Smith」の方は、その名が示す通りジャズギタリストの「ジョニー・スミス」のシグネイチャー・モデルです。ジョニー・スミスは「ミュージシャンズ・ミュージシャン」と言われ、ミュージシャンからは評価が高いようですが、一般的には割と地味な印象のギタリストかと思います。

 このギターは、20年ほど前に大阪の「ギタートレック」というビンテージのフルアコ専門店で購入したものです。ES-335は持っていたものの、どうしてもあのブ厚いフルアコが欲しくてたまらず、いろいろと楽器屋を探し回っていたのですが、「これ」というものになかなか出会えずにいました。そんな時たまたま大阪出張の機会があったので、こちらのお店にフラッと立ち寄ったところ、「出会って」しまったというワケです。1979年製で、製造してからそれなりに年数が経っているにも関わらずクラックもほとんどなく、とても綺麗な個体でした。音はもちろん、とろけるような甘いトーン。目の玉が飛び出るような値段でしたが、夏のボーナスが出た直後ということもあって・・・思い切って買ってしまいました。帰りの新幹線の中では、嬉しくて何度もケースをナデナデ。口座の中は寂しくなりましたが、私の心の中はとっても充実感で満たされていました。いや~ギター買った時っていうのは本当に気分がいいんですよね・・・。

 ES-335にもJohnny Smithにも共通して言えるのは、必ずしも「作りが良い」というワケではないということです。塗装も割と簡単にクラックが入ったり、ボルトやナットが当たる部分がポロポロと欠けたり…値段が高い割にはアメリカ製らしく大雑把な感じ。特にJohnny Smithの方は配線やボリューム等の回路が錆でダメになって全部交換するハメになったし、ピックガードのプラスチック(セルロース?)が劣化してひび割れてきたので、サイズが同じモノを特注で作ってもらったり…とにかく、メンテが大変な「手がかかる子」でした。

 正直、ボディや塗装のクオリティだけで言ったら、国産のギターメーカーの方がよほど優秀だと思います。でもGibsonが多くのギタリストから愛される理由は別なところにあるのだと思います。

 Gibsonのギターの魅力は、なんといっても「ライブ現場での出音の良さ」にあると思います。もちろん自宅の小さなアンプで弾いても十分良い音ではありますが、ライブ会場で大音量でプレイした時の「音ヌケの良さ」と「艶っぽさ」と言ったら!・・・いろんな雑誌や本でGibsonのギターの素晴らしさをたたえる記事を目にしますが、個人的な体験で言えば「自分が弾いている音を聴いて鳥肌が立つ」ような体験をしたのはGibsonのギターが初めてです。上手く説明できないのですが、自分が意図しているレベルよりワンランク・ツーランク上の説得力を持った音が出てくる感覚とでも言いましょうか。弾いている自分自身が「おおっ!」となって思わず聞きほれてしまうような感じ。エレキギターの場合、通常は自宅のアンプで気持ち良い音が出ていても、大音量で音を出した途端に「あれれ?」となって調整に苦慮するケースが多いんですけど・・・そういう「現場での強さ」みたいなモノはさすがGibsonだと思いました。

 エレキギターはアコースティックギターと違い、生音ではなくアンプに通した音がメインですので、当然そのアンプ自体が持つキャラクターや、エフェクター等の「付帯音」によって原音は大きく影響を受けます。しかし、フルアコであっても、セミアコであっても、空洞部分の無いソリッドのギターであっても、やはり一番大事なのはアンプに繋ぐ前の、そのギター自身から出る「生音」であるように思います。私自身、エレキギターを買う時は、アコースティックギターを買う時と同じように、「アンプに繋がない」状態で生音を十分に確認することにしています。当然エレキですので、アンプからの出音が「主役」なのは間違いないのですが、良いエレキギターというのは生音でもそれなりに説得力をもった音が出てくるもの。ボディやネック全体を使って弦振動が拡大し「小音量だけど、イイ音」が出てくるかどうか、ここが大事なポイントになるように思います。こういうギターであれば、アンプやエフェクターに繋いでもそれらのキャラクターに負けることなく、きちんとそのギターの個性を出音に反映してくれると思います。

 良いギターを弾いていると、自分が少し上手くなったようないい気分になりますし、何より「もっと上達したい」という気持ちを引き出してくれます。家での練習や、ライブ等での体験がプレーヤーによって心地良いものになれば、次の一本を買おうかという気持ちにも繋がります。

 Gibsonという会社がどのような経緯で今回のように残念な結果になってしまったのか、本当のところは私も知りませんが、報道で言われているような「若者の音楽離れ」とか「電子楽器の台頭」などが破産の理由でナイ、ということだけははっきりと言えます。どの時代にもギターを愛する人達はいて、自分達の魂を震わせてくれるような楽器との出会いを待っているのです。Gibsonのように経営の多角化などに頼らずとも、本業のギター製作だけで立派に事業を継続させているギターメーカーも多く存在します。「経営」以前に、プレーヤーのことを甘く見ていなかったか、名声に胡坐をかいていなかったか・・・そこが気になるポイントです。

 日本では銀座にある「山野楽器」が以前はGibsonの代理店を務めていましたが、2006年12月31日に代理店契約を解消しています。契約解消した本当の理由は知りませんが、噂によるとアメリカ本国から送られてくるギターの品質のバラツキがあまりに酷く、山野楽器側が再三改善するよう要請したらしいのですが、Gibson側は聞く耳を持たなかったとか。もし、このことが事実であれば、この時点でGibsonの運命は決まっていたような気がします。百歩譲ってビジネス上の必然性があったとしても、ユーザーが求めているのは「ギターを通した素晴らしい体験」であって、それに値しないギターはどんなに有名なブランドの製品であっても顧みられることはありません。

 ギターのヘッドに刻まれた「Gibson」の文字は昔から全てのギター少年(中年もですが)の憧れの的であって、今でもそれは変わっていないと思います。以前コラムで書いた「万年筆」の市場がそうであったように、今後もデジタル化によってアナログ的な「モノ」の市場がシュリンクする可能性は否めないものの、ギター業界においては、今まで同様Gibsonにトップを走り続けて欲しいと切に願います。

 裏ピルツの読者の方々は、おそらくアラフィフおやじとあまり変わらない世代かと思いますが、昔ギターをやっていたけど、押さえ方が難しいFのコードで挫折した、なんて方も多いのではないでしょうか。もし「ギター愛」がまだ心の中でくすぶっているのであれば、Gibsonのギターを1本購入されてみてはいかがでしょうか。中古品でもコンディションが良ければ価値が下がることはあまりないですし、上手くいくと価格が上がる可能性もあります。Gibsonが売れないといってもそれは新品のギターの話であって、ビンテージ市場ではいまだにGibsonはトップクラスの知名度と人気を誇っていますので・・・。

 指先には多くの神経が集中し「脳のアンテナ」とも呼ばれています。指先を使うギターはボケ防止には最適ですし、仮に途中で再度挫折したとしても、クラシックなスタイルのセミアコやフルアコであればリビングのインテリアとしても最適です。ちなみに、アラフィフおやじは以前Johnny Smithを眺めながらよくウィスキーやワインを飲んでいました。音楽をかけながら部屋を暗くして、デスクライトなんぞを当てると最高です。

 投資対象にもインテリアにもお酒のおつまみにもなるGibsonのギター。この機会に一本いかがでしょうか?

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