ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2016年12月21日更新管理者研修の実践 ~第75回全国産業安全衛生大会(in 仙台)講演骨子~

1.参加者の多さ・熱心な聴講にビックリ

10月19日から21日にかけて、仙台で全国大会が実施されました。その中の教育分科会で「カイゼンを継続的に続ける人と組織づくり」と言うテーマで講演をしました。

今までも、「休業災害・重篤災害の下げ止まりの現象、大きな壁に当たっている安全活動」と課題を紹介してきましたが、それを打破するための一つの視点として「管理者教育の重要性」について話しました。各企業の指導をしていて「安全衛生に関する管理者教育」の時間の少なさ、内容の乏しさを痛切に感じて、実践方法などを指導してきました。その中で感じている点を提案しました。

会場は、500人程度の規模だったのですが、何重にも立っている方がいて、そして参加者が積極的に聴講している姿勢が印象的でした。事務局の提案で終了後、「著書を買った人にサイン会実施します」と冗談交じりで言うとなんと長蛇の列。30分かけてサインをしましたが、あっと言う間に在庫切れ。初めての体験でした(AKB48になった気分?)。熱心な参加者に感謝すると共に、勇気をもらいました。今回は、その時の講演の要旨を紹介します。

 

2.現場を守るのは管理者の仕事

いうまでもなく、現場で働いている人の命を守るのは管理者の責務です。その管理者が安全衛生に関する知識を得る機会が与えられていない、知識を持っていないとすれば、現場で働く人たちは“悲劇”と言っても良いでしょう。

私は、「部下は、自分の子供と思え!」と教えられてきました。自分の子供を守れなくてどうするのでしょうか。率直にを感じます。どの企業の基本理念にも「人間尊重」とあるのに誰に言っているのでしょうか。

現在発生している災害は、”ほぼ100%再発”と言って良いでしょう。どの企業でも(同じ業態と考えれば必ず)過去に辛い災害を経験していると思いますが、その時の教訓は、どのように継承され、活かされているのでしょうか。多くの企業は、1〜3時間を使って安全衛生法(最低基準)を中心に教育を実施しています。ナゼ、活動の背景や狙い(何のために、誰のために、いつ使うために)を継承しないのでしょうか? もっと先へ先へと進む活動の教育をしないのでしょうか?

私は、安全衛生活動の本質を理解していない人は管理者になってはいけないと思っています。「安全活動は、ヒトづくりであり、カイゼンの入口であり、管理者の基本となる考え方・活動」だからです。

 

3.管理者教育のポイント

① まず「基本となる考え方」が大切

安全衛生の諸活動は、それぞれ目的があります。前提となる考え方をトップから管理者、監督者まで同じように持っていなければなりません。そのためには、会社役員が熱く語ることが大切だと思います。教育が、活動のHow toばかりを教えるケースが多く、活動のノルマ化や形骸化につながっています。キーワードは、「災害は職場の問題の代表特性」「安全・品質・環境は企業活動の根幹」「安全活動はカイゼンの入口」「安全活動を通じたヒトづくり」等です。(それぞれの考え方の細部は別途、触れたいと思います)

② 「災害の起こし方」の研修

「災害を減らせ!」という前に、「どうしたら災害を起こせるか」という視点で過去の災害の発生原因を層別・分類(パターン化と言っている)して研修を進めることが大切だと思っています。さらに「災害の発生前の兆候の見方」を事例で教えていきます。

現場は、「生産第一」と言う考え方があって当然だと思います。そのためにムリな作業や知恵が出てきます。「誤った方法の成功体験」といっても良いかもしれません。これらを見抜く知識を持たねば現場で本当のコミュニケーションはとれないと思います。

③ 「機械・設備安全基準」の研修

災害をどのように防ぐかの答であり、環境づくりの基本といって良い「安全基準」の理解です。現実は、こうした基準が整備されていないケースも多く、大変遅れているという認識を持っています。グローバル化を目指す企業は特に、整備しておく必要があります。

また、各工業会がもっと積極的に取り組み、中小企業へもそうした考え方が浸透するような努力が必要と感じています。災害の真の要因には、設備の不具合が多く潜んでいます。これらの捉え方次第では、「止めやすく・復帰しやすく・修理しやすい」設備へとカイゼンしていくなど、多くのヒントがあります。

結果として、事前に災害の芽を摘むこともできるし、カイゼンが進めば生産も安定するし、品質も安定するというマネジメントに欠かせない活動だと考えて良いと思います。それだけに管理者研修の内容の充実をしないのは”もったいない”と思います。

④ 「非定常作業」に特化した活動

重篤な災害の中で7〜8割が非定常作業で発生していると言われています。中災防では、平成25〜27年度にかけて、鉄鋼設備、化学設備そして自動生産設備に関する非定常作業の安全についての調査研究を行ったことは先月号でも触れました。全体の災害が減少してきた中、非定常作業における災害が残っていると言うことです。”非”定常ですから、発生の仕方も一定ではないため、作業の洗い出し方、実態を把握すること、見える化が難しいのです。

しかし、過去の災害から学べば現場で起こることは想像できるはずです。管理者が現場に行って作業者達に非定常作業を想定した質問をしたり、作業方法の議論をしたりして聞き出すことが重要になります。紙だけでは絶対に出てきません。こうした活動の実践方法を教えていく教育が特に重要になっていると思います。

⑤ 「リスクアセスメント」の実践

私は、「最悪のことを想定する」活動を推進しています。”リスクアセスメント表づくりごっこ”は何も生み出しません。現場の人に紙とペンを持たせてムダな作業をさせているケースを多く見かけます。

本来、リスクアセスメントは、知識のある、上流の人たち(設計者、技術者、管理者など)が実施すべきとあります。そして重篤な災害につながる危険源を洗い出し、”スリーステップメソッド”という考え方で本質安全化、低推力化、防護措置対策を進め、残留リスクを現場へ提示します。

現場では、「変化点管理(機械の具合、作業者の変化、天候などの条件変化などによる”現場リスクアセスメント”)」を行います。そして管理者自らが現場で最悪の状態(”死に方”)を想定して現場の人と語りあい、充実をしていくという、この一連の流れと考え方をしっかり教えていかねばならないと思います。

 

 

4.安全スタッフの役割

① 教材づくり

上記3の②はソフト面、③はハード面、この2つのバランスが対策として重要になるので、教材として整備しておく必要があります。こうした教材づくりがなかなか進まないのも、教育が実践されない原因になっています。少なくとも安全スタッフが、組織を駆使して作成しなければなりません。最初は点で60点良いので、分かりやすさ(マンガや表、流れ図など)を考えて作成し、その後、実践しつつ充実を図れば良いのです。

② 安全スタッフが講師を担当すべき

もうひとつの課題が、安全担当部署が総務・人事部門にあることだと思います。どうしても機械・設備安全基準というハード的な内容になじめないという理由があり、教育を実施することを躊躇しがちです。技術者の力を活用すれば済む話しなのです。

“人の命”を大事にする活動です。安全活動を通じた“ヒトづくり”です。総務・人事部署の仕事そのものと言っても良いと思います。よって安全スタッフが“語り部”として講師を担当することが重要と考えています。

③ 「共育」と考える

私は、”教育”を”共育”と表現して進めてきました。教える側も教えられる側も“共に育つ”という意味です。

先日、入社早々のスタッフにも管理者研修を担当してもらいました。もちろん、一部分からです。講義終了後に、毎回、反省会を開き、どうしたら相手に伝わるかという指導を重ねてきました。

実際は、みんな冷や汗をかきながら実施しました。こういう経験を積みながら、講義の幅を広げていくと、3年くらいで成長し、しっかり話せるようになります。

スタッフの陣容も足りないことから、苦肉の策であったことも事実です。同じ会社の人間なのだから共に会社を発展させていくという考えの基、「教え教えられる風土」を作っていくことも良いと思います。そのためにも核となる人財を作っていくことも重要です。

私は、「教育は企業活動の命とも言える活動」と考えています。恐れず挑戦をしていって欲しいです。

 

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