2016年5月16日更新産業現場で起きている災害の現状と課題
はじめに
今回が私にとって初めてのブログ寄稿となります。
トヨタ自動車で安全衛生全社統括部署での災害対応や、中小企業の役員(総括安全衛生管理者)として経験したことから得た教訓を、少しでも分かり易い言葉で事例を用いながら紹介したいと思います。
トヨタ自動車は、なぜ世界一の生産ができる企業になったのでしょうか?
その要因のひとつに、労働安全活動から問題提起をして「カイゼン」に結び着けたことにあります。
安全活動は、災害を無くすためだけの活動ではなく、強い現場づくりにつながらなくては受け入れられません。
機械安全基準の整備がシンプル・スリムな生産設備づくりへつながり、活動全体が人づくりにつながったことが、大きな成果と言えます。
災害の背景要因は、多岐にわたります。
真の原因追究をして真の対策に結び着ける、つまり「5ナゼ活動」です。
全ての仕事領域にアプローチしていける唯一の仕事領域が安全衛生だと思います。
以降、活動のポイントを紹介します。読者からの、ご意見・ご要望をいただきながら進めていけたら良いなと思っています。
- 日本の現状~重篤な災害減少に壁!
まず、日本の労働安全はどうなっているか考えてみましょう。
昭和30年代に統計を取り始めてから、ここ5年ほど休業災害件数が上昇傾向にあります。これは、統計を取り始めてから初めてのことです。また死亡災害は千人台で横ばい状態にあります。
全国各地で現場指導をする中で5年以上前から異変に気づき、多くの場で発信をしてきましたが悪い予想が現実になってしまいました。企業の努力が求められています。
2.人に頼った活動の限界か
災害が減少しない原因は、複合的要因にありますが、まず就業形態の変化が大きいと感じています。非正規雇用の増大、ベテラン層の退社、危険感受性の低い新人の増加、危険な作業を含めた請負化などです。
現場では、職制が教育するにも限界があり、悲鳴を上げています。ゼロ災運動(一般に“危険予知”“ヒヤリハット”“指差呼称”など)も効果を上げてきましたが、現実は「やらされ感一杯の形骸化した活動」になっている事が多く従来型の人に頼った安全活動だけでは限界にきていると考えています。
3.現場目線の安全活動を進めよう
私が大事にしてきた言葉に「現場目線」があります。
製造現場で一生懸命働いている人が労働災害で命を失うことが絶対あってはなりません。重篤な災害は、本人・家族の辛さは勿論、職場の仲間、上司にも、一生の心の傷となって残ります。
特に重篤な災害を減少し、元気な人と職場をつくるためにも、まず安全を考えなくても生産ができる位の環境整備と、安全活動を整理して、現在の活動が“腹落ちする”よう”深化”させる展開が必要です。
「やらされ感」と共に「やらした感」を持っている管理者が多いことも問題です。まず自らが腹落ちするように努力することです。多くの企業で元気な職場づくりをしてきました。
今後のコラムにご期待下さい。
記事一覧
- 日本の明日は大丈夫?
- “話す力・伝える力”と“言葉の意味”を考えてみる
- 安全活動は足し算?引き算?
- コミュニケーション力向上の心構え
- 最近の関心事から“雑感”
- 安全教育を充実させていく“肝”
- 先人の偉業と教訓そして実践
- サッカーワールドカップと俯瞰力
- 安全衛生法制定50周年と今後のあり方考察
- 水の大切さと恐ろしさ
- 冬季オリンピックと平和を考える
- コロナ禍の教訓を労働安全活動に活かす ~2021全国産業安全大会・講演要旨~
- モノの見方・考え方を一考する ~本:“どうせ死ぬから言わせてもらう”から~
- 正直に生きる・語ることの大切さ ~“生き様”を振り返る~
- 新型コロナ禍の更なる課題・再考 ~件数・パフォーマンスより内容重視の活動へ~
- 安全衛生方針の重要項目と展開ポイント ~絞り込みと運用マニュアルの活用~
- “新型コロナ禍”から考える教訓-2 ~行動の変化~
- 思い込みの怖さと正しい判断・行動 ~ “新型コロナ禍”から考える教訓~
- “野村克也元監督”の教え・あれこれ ~人を育て残す事の大切さ~
- “ラグビーロス”とその後~“ラグビーワールドカップの感想と実践の大切さ“~
- “人間性(心の持ち方)”について考える~ラグビーワールドカップと“故・平尾誠二氏”の生き方~
- より・安全で、安心な時代“令和”をつくろう~“平成”を考えつつ~
- 継続と深掘り・“不断”の努力の大切さ~“東日本大震災”から丸8年~
- チームワークとリーダーの役割
~“大坂なおみ”全豪オープン優勝~ - ポジティブシンキングの実践 ~“箱根駅伝”の教訓~
- ”腹落ちさせる指導”について考えてみよう ~その4(最終回) 「足:踏み込む」について~
- ”腹落ちさせる指導”について考えてみよう ~その3「口:問う」について~
- ”腹落ちさせる指導”について考えてみよう ~その2「目:観る」について~
- ”腹落ちさせる指導”について考えてみよう ~その1「耳:聴く」について~
- ”環境”の大切さと人の行動 ~“命を脅かす”気候変動~
- まず”減災” 目ざせ”ゼロ災” ~大阪北部地震の教訓~
- “危険なタックル問題”から人の育て方を考える
- 作業標準書・作業手順書の作り方と活用法 ~“守・破・離”の心~
- 薬傷災害から活かし方・つなぎ方を再考する ~事後の百策より事前の一策~
- 気づかい・個のレベルアップとチームワーク ~平昌オリンピックの感動からの教訓~
- 後継者・人の育成を考える ~人の成長をどのようしてサポートするのか~
- 気づき・気がかり粗末にするな 気づいたらすぐ行動に移せ!
- 安全活動と品質活動の“根っこ”は同じである ~安全活動から“本音の活動”を深掘りしよう~
- 機械安全基準の制定と進め方 その2 ~安全・品質・環境は企業活動の根幹である~
- 機械安全基準の制定と進め方 その1 ~激しい向かい風の中を”航行”~
- 「そうだ、古澤先生に聞いてみよう」コーナーへのご投稿について
- 実践的なリスクアセスメントの進め方
~隔離対策のポイント~ - 新コーナー【そうだ、古澤先生に聞いてみよう!】いよいよスタート!
- 実践的なリスクアセスメントの進め方
~「現場リスクアセスメント」の進め方~ - 実践的なリスクアセスメントの進め方 ~重篤な災害に的を絞った洗い出し~
- 安全衛生方針の作り方・活用の仕方
~もっとわかり易く~ - 1年間を振り返って ~現場目線からの提案と報告~
- 非定常作業に特化した活動‥その4 ~重要な柱「ソフト対策」の進め方~
- 非定常作業に特化した活動‥その3 ~真の要因に対するハード対策の推進~
- 非定常作業に特化した活動‥その2 ~洗い出しのキーワードとカイゼンの実践~
- 非定常作業に特化した活動 その1 ~定義付けと洗い出しのポイント~
- 管理者研修の実践 ~第75回全国産業安全衛生大会(in 仙台)講演骨子~
- “新しい安全”「Safety 2.0」と言う考え方
- 重篤災害に的を絞った活動の勧め
- 人を育てる安全巡視の進め方
- 「みる」と「みえる」の違い
- 安全活動はカイゼンの入口と捉えてみよう
- 腹落ちした活動とするには「具体化」と「共有化」
- 産業現場で起きている災害の現状と課題
- 古澤 登(ふるさわ のぼる)プロフィール