ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2018年2月21日更新後継者・人の育成を考える ~人の成長をどのようしてサポートするのか~

1.安全衛生スタッフの後継者づくりと人づくり

⑴ 質問から

 ブログを読んでいろいろと質問をいただいていますが、その一つの概要(私流に言い換えています)を紹介します。

「工場ではいろいろな方がいますが、特に理解力、学力が低い方々が多い。安全に関していろいろと理解し、自ら危険を回避できる人などにつなげていくために、どのような教育をしたら良いのでしょうか」とありました。

 私が講習や現場指導をしている中で、安全衛生スタッフの後継者が育っていない、育てる人も確保できない、現場の人が安全を理解して自ら行動できないといった声はどこでも聞く深刻な課題です。

 では、自分はどのように成長してきたのでしょうか? どのように勉強して現在に至ったのでしょうか? 考えてみて下さい。必ず、”先生”(反面教師の上司・先輩も含め)がいたはずです。また、自分で知識をつけようという心構えや必然性を感じ学んだことがあったはずです。

 人は、生きていく中で、どんな場所にいようが何らかの影響を受けています。勿論、レベルの高い人たち・環境の中で育つことができれば、こんな幸せなことはありませんが、自分のレベルと違いすぎても、苦痛になるだけかもしれません。人も植物も動物も個性があり、一律では育ちません。環境に合わせて成長する方向性と方法を考えていかねばなりません。

 私は、「“いわれた事だけやる”タイプの方が多い」事は羨ましくも思います。言われてもやれない・やらない人の方が多いように感じています。高学歴の人たちのいる会社でもいつのまにか「指示待ち人間」を作っています。なぜでしょうか? これまででも書きましたが、安全衛生活動で言えば「やらせた感一杯のスタッフや管理者・本社機能」がその原因になっている事があります。

 どちらにしてもその気にさせていない指導者側の問題が大きいと思います。人の育成は、すぐに答えの出る問題ではありません。色々と考えてみましょう。

⑵人の成長には時間がかかる

 良く言われることですが、時間と共に「個性」ができてきます。人は、生きてきた環境によって判断力・感性ができ、人それぞれが違っているいるということが前提条件です。私は、新入社員などに対して「山、木、太陽の三つを絵にして下さい」と質問します(皆さんも書いてみて下さい)。

 山の形、木の位置、太陽の位置は人それぞれです。間違いではありません。おもしろいことが分かります。書いた人の育った土地の山であり、木の生え方であり、太陽の見え方が書かれます。私は、富士山の麓で育ったので、富士山それも雪のある富士山を書きます。木は中腹に書きます(5合目位までしか育ちません)。太陽は頂上の左端です(富士山の東に住んでいたので夕日です)。

 皆さん育った地域の景色を書きます。人は、育った環境・時間がもともと違うわけですから感性も違って当たり前ということです。奈良の薬師寺のお話しに「積重(しゃくじゅう)の心」という言葉がありました。過去の知識は変えられない。しかし、これからの人生は経験することで変えていけると言うものでした。

 私たちは、過去のことにこだわりすぎず、これからどうしたいのかを考えていくべきではないでしょうか。人は成長したい、良くなりたい、達成感を味わいたいものと言う気持ちを誰しも持っているものだと思います。そこにどう訴えかけることができるかが指導者の役割だと思います。

⑶「待つ」事も大事

 経験を積ませるわけですから、時間がかかります。私が大企業から中小企業に転籍したときに得た教訓の一つに「待つ」ということがありました。確かに、大企業の人たちは、仕事の指示をするとキチッと納期に間に合わせようと頑張ります(そういう経験を積んでいる)。

 しかし、中小規模の場合、教育を受ける機会も指導者も少ないことから、言われたことをすぐにキチッとやるという習慣?になく、訓練ができていないことが多いのです。答を全部言って聞かせるのではなく、3割程度の答え・方向性を示しつつ回答を「待つ」努力が必要です。

 あきらめてはいけません。良き社会人として・人間として・企業人として「育ててあげたい」という気持ちを忘れてはいけません。そして一つでも、少しでも自分の知恵を出して応えてきた場合には、「努力を褒め」「やればできる」ということをインプットしていくことだと思います。

 人は、達成感を得てはじめて成長していきます。小さな事からコツコツとです。いきなり大きいことはできません。育てる側の根気が試されていると言っても良いでしょう。これを最低3年位続けると人も組織も変わりはじめます。

 

2.「直感」を育てる?

⑴将棋界が明るい‥神童!か、藤井五段

 今、愛知県瀬戸市出身の中学3年生の話題が新聞の一面を飾っています。「中学生で初の五段誕生」です。引退してTVで人気者の「ひふみん」の記録を塗り替えました(当時とは規則が違うようですが)。このブログを読んでいる頃にはひょっとすると「六段」になっているかもしれません。子供の頃から将棋をやっている人は多いのでしょうが、藤井五段だけが特出している事はなぜか? 育て方より育ち方が何か違うのでしょう。”個性”の部分だと思います。ここまで来ると凡人には分かりません。

⑵谷川九段(日本将棋連盟棋士)の「直感」

 新聞のコラム欄に谷川九段の「直感と読み」と言う記事に目がとまりました。ポイントだけ紹介すると「直感とは、知識、情報、経験、個性などを集約して生み出されるものなので、それが大きく外れることは少ない。というより、直感の低い人ははじめからプロにはなれない」「読みとは直感が正しいかを検証する作業ともいえる」とありました。考えさせられる言葉だと思いました。

自分事で恐縮ですが、いろいろな企業に行って一時間程度経営者と話し合い、一時間程度現場をみるとその会社の実態が見えてくるようになりました。良い点と課題が見える(仮説立て)と言うことです。それから、いろいろと議論しつつ深掘りをして行きます。まさに直感を信じているわけで、大きく外れることはありません。

「知識、情報、経験、個性」の四つのキーワードをよく考えれば、プロを育てることができかもしれません。

 

3.人は育てるのではなく育つのだ

⑴静岡大学教授の教え‥一律のやり方では駄目

 静岡大・稲垣栄洋教授が新聞のコラム欄で「植物は“育っている”。育ちやすい環境を整え、成長に必要なものを与えるだけ‥。“作物は足音を聞いて育つ”“雑草はぶれない”」と書かれていました。結構、ズシっとくる言葉です。

 私は、家庭菜園を50年近くやっていますが、まず土作りに3年です。しっかりした土壌(人として企業人としての考え方・ベースづくり)を作れば、そこに苗を植え、種をまけば(実践)植物は自然に育ちます。時々、畑(現場)へ行って成長具合を確認し声をかけます。すると虫が付いていたり、水が足りなかったり、肥料が足りなかったりという課題が見えます。その時は、そっと手を差し伸べてやる(コミュニケーション・指導)と、野菜は元気に育ちます。

 雑草は、天変地異で環境が変わったときは、本来30cm位に伸びてから種をつけ、風や虫に子孫繁栄の手伝いをさせる場合でも、突然15cmで種をつけはじめることもあるそうです。

 最も大事な目的達成のために自ら変わろうとするのです。私たちも生き物ですから、大いに関係があると思います。

⑵教える側の努力は結果に比例

 人を育てるとか、教育する立場の人は、教えることの少なくとも十倍(多ければ多いほどよい)のネタを持ち、勉強しようと言っています。相手の考え方、判断力、経験などが違うわけですから、一律に話していれば良いなどと言うことはまずありません。

 講師が教科書をそのまま読んだり、読ませたりしますが、間違っているとは言いませんが、聞き手の心を打つことはないでしょう。相手に何を伝えたいのか、方法論なのかその背景にある考え方なのか、知識としてなのか教える側の整理も必要になります。事前の努力をどれだけ実施したかによって教育効果も違ってきます。

⑶OJTは大切、その前にしっかりした教育を実施

 「教育をやっていますか?」「当社はOJT(On-The-Job Training)を中心にやっています」 この会話も良く聞きます。間違ってはいないのですが、「OJTでやっています」と答えた会社の実態をみると、教育はできていないと言うことが多いです。

 まず基本となる教育は、集合教育などで実施すべだと思います。教える側のレベルが揃っていない中で任せると、当然内容にもバラツキが出ます。5-6割は、共通事項として教え、各職場の実態に合わせてOJTで指導と言うことが良い方向と思っています。

 

※ 先月号の「教育と訓練の重要性」「管理者の教育の重要性」も、もう一度読んでほしいです。奥が深いテーマです。安全衛生スタッフは、教育のプロであってほしいと願っています。

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