2017年8月25日更新実践的なリスクアセスメントの進め方
~「現場リスクアセスメント」の進め方~
1.「スリーステップメソッド」という考え方
横文字を使うと、受け手の理解が広がりすぎたり、偏ったりすることが多いのであまり使いたくないのですが、ここは、機械安全国際規格の中にでてくる言葉としてまず理解してください。リスク対策の進め方の基本として「リスクを低減する”手順や方法”をまとめた」ものです。現場へ”丸投げ”のリスクアセスメント活動が多いので、あえて大切な考え方を簡単に整理します。
リスク低減措置の手順は、 (1)→(2)→(3)です。
ステップ(1)設計や計画段階におけるリスク低減措置⇒本質的安全設計方策
まず「」とあります。「危険源を削減する、あるいは低減する方策」又は、「低推力化により危険の度合いを小さくする方策」などです。しかし、現場では、対策方法が思いつかず、思いついたとしても、設備改造や工程改善はなかなか難しく、人の教育訓練やルールを守るといった、人の行動に頼った安全活動になる事が多いと思います。ここが課題です。
上記の措置ができない場合は、「ステップ② 安全防護方策」をとることになります。人が危険区域に入ってしまう可能性がある場合は、防護柵やカバーの設置(隔離の原則)をして人が近づけないようにします。しかし、設備異常時や保全・修理・教示などで近づかなければならない場合があります。その場合には、ガードを開けると危険な設備は止まるようにしておかねばなりません。あるいは、回転している設備が停止しなければ開かないようにしなければなりません(停止の原則)。
「ステップ③ 使用上の情報開示によるリスク低減方策」になります。安全防護策を実施しても十分リスクをさげられない場合があります。保全・修理作業等では、電源を遮断することができない場合が生ずることもあります。「残留リスク」と言われるリスクです。設備の設計者や製造者が残留リスクを明確に示し、現場では、保護具(ヘルメット・命綱・手袋・目がねなど)の着用で対応したり、標準書・手順書を作成して、教育と訓練をします。これらが本来現場の出番です。
リスク低減方策は、①②③の順番で実施しなければならないと言うことを良く理解してください。この三つのステップを「スリーステップメソッド」と言います。(詳細は「機械の包括的な安全基準に関する指針」(厚生労働省)などを参照してください。)
2.現場リスクアセスメントの進め方・ポイント
前項で整理した事は、「はじめに設備に詳しい人、経験が豊富な知識を持った人がリスクアセスメントを行うこと」という大変重要なことを表しています。
既設設備に対するリスクアセスメントは、なかなかそういうステップを踏めないので、危険源が明確になっていない、設備に詳しい人がいない、改善するアイディアをもたない、費用もないなどの中で進めなければなりません。現場で実施するリスクアセスメントを「現場リスクアセスメント」と呼ぶことにして、できるだけ現実にあった進め方を考えてみましょう。
本来は、全ての設備について実施すべきですが、順番として、設備故障が多い、危険源(先月号に書いたエネルギー)が大きい設備、品質不良などで設備停止が多いなどの理由から順番をつけ、一台一台実施すると良いと思います。最初は、管理者・保全・技術員・監督者・作業者、できれば設備計画者をメンバーとして加え、危険源と人の接点を洗い出すことが理想的です。これが本来の「全員参加による現場リスクアセスメント」と言えるでしょう。
なかなかこれだけの人を集めて実施することは難しいとは思いますが、何度かこうした活動をしないで現場に”丸投げ”すると重篤な災害につながるリスクの見落としが考えられます。現場での危険源の洗いだし活動は、「定点観察と相互観察」の手法を取り入れると良いと思います。
3.「定点観察と相互観察」4つのポイント
[1] 観察は「最悪の状態を想定」します。「最悪とは」死亡災害もしくは、元に戻らない災害(重篤災害)をいいます。表現は、きついですが「どうしたらそうした災害を起こすことができるか、“死に方”を見つけよう」と言っています。とりあえず「程度」の高い状況の想定をしていくことです。
[2] その災害を想定した場合、具体的に対策ができているかいないかを判断します。言葉だけでなく、作業標準書や教育内容や記録なども確認できるといいでしょう。良い活動になっている点をまず探し褒めていきましょう。良い活動と対策内容は、他部署でも展開出来ます。まずこの点を参加者から一点ずつ提案してもらうこと。この場合は、「可能性」に正しい評価をしましょう。
[3] 最悪の状態を想定して、対策ができていない場合は、「程度」「可能性」共に、厳しく評価しましょう。そして、どうしたら災害を防止できるかアイディアを参加者で出し合い、現場で話し合うことが重要になります。「会議室へ帰ってから整理をする」と言うことを聞くことがありますが、現場で議論してある程度、方向性を示していくことで改善の方向が見えてくるし、現場の人にも腹落ちする形になると思います。対策は、「管理面」⇒「物的面」⇒「人的面」の順番で考えましよう。まず、管理者が何をしていれば災害を防げるかを考えます。その主な中身は、物的面と人的面となると思いますが、スリーステップメソッドの考え方を踏襲していくことが大切になります。
[4] 重篤な災害に特化した洗い出し表ができると思いますが、確認された項目を現場目線で「層別」して対策の順番を決めて行きましょう。現場として早く対策したい(してほしい)、対策が現場でできそう、現場の作業が楽になる・やりやすくなる等の視点で、まず3項目を選定する。そして期限を設定して一つずつ確実に対策を進めていきましょう。
4.対策の取り方~100点を目指すが、まず10点でも~
対策の進め方で大切なことは、リスクⅣ、Ⅲ(4段階評価の場合)が工場全体で何件あり、各部署で計画がどのように成されているかを把握することです。全体の把握は、工場全体をまとめている安全衛生などの総括部署がよいと思います。技術面の課題や、費用がかかり現場だけではできないケースが出てきます。その課題の中から、工場長や部長、課長が自らのテーマを具体的に持つことが大変重要になります。
多くの場合、工場長や部長がテーマを具体的に言えないことがあります。現場に丸投げでは現場のやる気に火がつきにくいのです。又、設備基準などの整備がない中では、何処までやれば(あるべき姿)良いのか分からず対策が進まないこと、実施しても二重投資になったり、ムダな投資になる事もあります。こうした、組織横断的な活動は、管理者やスタッフの仕事になります。
改善は、ⅣをⅢにⅢをⅡにとステップを踏んで下げていくことも大切です。役員や管理者は、危険源が洗い出されⅣがあると「すぐに100点をとれ!(すぐにⅠにせよ!)」と指示することが多々あります。現場は、知恵もない時間もない、100点は無理と考えて、手を付けなければ0点のままです。少しでも(10点でも)改善が進んだらまず認めましょう。
そして次のステップに向かって行くアイディアの提供をしましょう。すると現場では、方向性が見えて更にカイゼン活動を進めていくようになるはずです。60点程度がとれたら、残留リスクを明確にして、次のテーマに進んでも良いとしましょう。次から次へと改善をしていく中で知恵も経験も積まれ、元のテーマに戻ってきたときは、70点、80点と更なるカイゼンにつながっていくと思います。この過程が大変重要で、人を育てチームワークを向上していくことにつながります。
実践論で申し上げるとすれば、ひとつひとつのテーマに全員の意識が集中していて、同じ目標を全員が言えるようになっている職場は、大きな事故は発生しにくい職場です。かえってアレモコレモと一度に実施させようとすれば意識も希薄になり、現場にウソをつかせることにつながります。
既設設備は、歴史もあり、設置時の情勢も違う中でつくられた設備です。それだけに一律の対策は、難しく一件一様の対策になる事が多いです。是非、現場リスクアセスメントの進め方を皆さんで話し合って具体的な成果に結びつくような進め方を工夫してほしいと思います。
次号も実践論が続きます。お楽しみに。
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