2017年6月21日更新安全衛生方針の作り方・活用の仕方
~もっとわかり易く~
1.方針作成の現状と課題
ほとんどの会社は、安全衛生方針が設定されています。当然と言えば当然ですが、実施事項を多く書きすぎて、「管理者でさえ、方針を口頭で言えない」「そんなにできる訳ないと言わせている」「自主性もなくやらされ感一杯」「具体性がない」などの課題が目について仕方ありません。
安全活動は、災害の反省から多くの実施事項を上乗せしてきましたので、心理的になかなかやめられないと言うことも事実です。方針は、これから向かうべき方向性や課題を共有化する大切なものだと思います。その内容が、従来から変化なく項目の羅列になっていて形だけ整えているようではもったいないと思います。
災害発生状況は、これまでの活動の成果もあり、かなり低減してきましたが、ここ数年は横ばい状況に近く、今までの活動の進め方だけではこれ以上の進展が望めない所に来ていると思います。今までの良い活動をやめることはないのですが、すぐに災害が発生するような状況ではないので(確率論からすれば)、管理者・スタッフはもっと腹をくくって的を絞って一つひとつ真剣に取り組んで、一人ひとりに腹落ちさせていく活動の方が効果的だと思います。
特に年度方針は、もっと重点指向をしていくべきだと思います。最近の災害は、複合的要因(災害が減少したことによる管理者やスタッフなどの感性の低下、形骸化した活動の蔓延、雇用形態の変化、人に頼った安全活動の限界などなど)によるところが大きいこと、重篤な災害に占める割合は、非定常作業など日頃見えない作業による災害発生が相変わらず高く、非定常作業の洗い出しとカイゼン活動が大きな壁になっていることなどから進め方も変えていかなければならないと感じています。
今月は、より実践的で納得性のある方針作りのポイントについて述べたいと思います。
2.方針は重点指向で
⑴ 抽象的な項目の羅列が多い
3年または5年の中長期方針は、方向性(会社として向かうべき旗印)について書くことも多く「○○体制の構築」「○○のできる人財育成」「○○基準の確立」「本質安全化の推進」など、抽象的な表現が多くなるのは仕方ないと考えています。しかし、年度方針についても同様に、抽象的な言葉を羅列していることが多いのはどうしてでしょうか?
例えば、「リスクアセスメントと本質安全化の推進」と掲げられることも多く見受けられます。しかし、実施事項は、「リスクアセスメントの定期的な見直し」「リスクアセスメントを1回/月実施」「安全柵・カバーの設置」等と書かれているケースを多く見かけます。
リスクアセスメント活動は、活動の柱となっていて、かなり実施を重ねています。私が提案したいのは、リスクアセスメントの結果から明確になった課題の具体的な内容と改善計画の具体的な表明です。「○○作業・○○機械のリスクレベルⅣ30件の解消、又は、レベルⅢ以下へランクダウン」などです。
1年ではなかなかできないケースは、「今年度は半減」等として更には、「工場長・部長・課長の担当するテーマ」を明確にすることだと思っています。現場でのカイゼン活動は当然必要ですが、費用や技術・時間などから難しいカイゼンは進まないと思います。管理者が、取り組む姿勢を見せずに、現場へ丸投げしていては、このテーマは進まないと思います。
私は、管理者によく質問しますが、具体的なテーマや方針を言える人はほとんどいません。このような状態で方針を設定しても”絵に描いた餅”になってしまいますし、現場の人から具体的な言葉や行動として表れることは期待できないと思います。
少なくとも一緒になって考えていける具体的なテーマを共有化することが本来の方針だと思います。
⑵ 親企業・本社方針の丸写しが多い
上記の原因の一つ(大きな)に、親会社や本社(以下、本社機構)からの年度方針を、ほぼ丸写しにしていることがあります。「その通りやりなさい」と言う指示がある場合も多く、資本関係など弱い立場の人は「監査で指摘」されることはいやだからと、指示内容をそのまま方針にしています。また、関係会社・工場・事業所は、自らの進むべき方向や課題を明確にする努力をしていないと言うことも、要因としてあると思います。それぞれ、歴史も生産物も設備も人も違う会社が同じ項目でやること自体、おかしいと言わざるを得ませんし、それを当たり前と思っていることが信じられません。双方の努力が必要だと思います。
中小規模事業所などは、情報量も少ないし自ら考えるだけの力が備わっていないケースもあると思いますので、本社機構からの指示はありがたいと思っていることも事実だと思います。逆にいつまで経っても自ら考えようとせず、”楽”をしてしまっていることも問題だと思います。
そこで、本社機構は、方針作成と合わせ「推進マニュアル」を作成して大きな方向性と課題の捉え方・方針作成の考え方を示し、それぞれが咀嚼してより具体的な活動方針を作成して良いと言う指示を出してはどうでしょうか? 関係会社・工場・事業所は、自分達で考えた年度重点テーマを、3項目程度(まとめ方次第)設定してはどうでしょうか。これなら「今年の安全活動会社方針は?」と言う問いに答えられ、自職場のはっきりした目標とすることもでき、具体的な活動になっていくのではないかと思います。本社機構は、監査で「指示通りやっている」ことを問うのではなく、方向性の中で自主性を持ってやっているかどうかを監査・指導していくべきだと思います。
⑶ 日常的な活動も全てを書いている
年度方針に、年間活動計画を全て織り込んでいるケースもあり、方針の項目が多くなってしまっていますし、メリハリもついていません。例えば、安全衛生会議、定期パトロールの実施、健康診断、職長教育などの教育計画などなど、法的にも実施しなければならないことですが、定常的なルーティン業務は、別紙に「安全衛生年間活動計画表」としてまとめ、その中に、年度として特に重点を置くポイントを併記する程度で十分だと思います。
重点実施事項と定期的な活動との区別です。そうすれば、毎年大きな変更もない活動でもあり、作成する手間暇も減少するのではないでしょうか。重点実施項目の意味・重みを際立たせる方法を考えてみて下さい。
⑷ 目標の設定=災害ゼロのみも多い
会社目標は、災害件数を有効数字としては掲げにくく「災害ゼロ」しかないと思います。それは良いのですがゼロとするための具体的な目標がないのです。また、いまだに「休業災害」を目標に掲げているケースを見ます。
悪いことではないのですが、現在の活動の柱がリスクアセスメントになっていることから考えると少しずれていると思います。休業は結果です。災害を減少させるために「重篤災害に重点を置いた危険源の低減=未然防止活動」でなければなりません。つまり、危険源の減少が目標になるべきだと思っています。それが上記⑵に書いたことです。ゼロに近づけるために何をするかが問われていますし、重篤災害が最大のターゲットになっている時代です。
時に、「危険ゼロ」と言う目標も見ることがあります。格好はいいのですが、本気でゼロにできると思っているのでしょうか? 世の中(会社)から危険はなくなりません。危険源の具体化をしてまず共有化する、そして本質安全対策をし、できない場合は、保護方策をとり、最後は保護具や教育訓練でカバーするという流れだと思います。
「危険源ゼロへ向かって」と言う心だとは思いますが、「危険ゼロ」と言ったとたん現場の人たちは「何を考えているのか」と引いてしまわないでしょうか? リスクアセスメントは、PDCAを回し、ランクダウンをしましょう、リスク対策をしたとしても新たなリスクの発生があります、危険はゼロにはなりませんと言っています。危険を共有化してカイゼン活動につなげましょう、今は、「安全管理」ではなく「危険管理」を大切にしましょうと言うことが本質だと思います。「災害ゼロに向かって」より現実的な活動を方針にする事を実践してほしいと思います。
3.方針と日常活動をリンクさせる
安全活動は、特別な活動という意識が強くあります。「安全活動がマンネリ化するのですが良い解決策はありませんか」と聞かれることがあります。
「命を守る活動」がどうしてマンネリ化するのでしょうか? 表面的なことを繰り返しているだけではマンネリ化してしまいます。毎日3度の食事をマンネリ化すると言うでしょうか? 手を変え、品を変えて工夫をして、楽しく食事をして「命」を守っていますよね。
「生産活動が忙しいから安全活動は、やってれない」その声は理解できます。しかし、作業標準書の中には、安全も品質も守ってこそプロの仕事と書いてあると思います。仕事の中に組み込んでいく安全活動でなければならないと思います。例えば
①管理者・監督者は、現場を回る時、生産状況も品質管理もそして人の育成もすべてが大切です。安全のみの現場巡視ではなく、観察・指導項目の一つとして安全もあり、それらを見る知識を身につけておかねばなりません。
②遊び手を置く位置を決めて自然にできるような環境づくりと訓練をしなくてはなりません。これは、仕事をスムーズに実施することと安全確保が両立します。
③異常が発生したときには、知識がある人が処置をするように事前に教育と訓練をしておかねばなりません。KY能力も含め、作業訓練は全ての基礎となります。
④やりにくい作業やムリをしている作業は、常にカイゼンのテーマとして上がってこなければなりません。このことが、仕事を“楽”にする事につながり、安全性も向上して意欲向上にもつながります。
⑤部下への声かけは、良くやっていることに対してまず褒めて、更に成長を促すことを心がけましょう。特に、安全行動など“当たり前のことを当たり前に実施している”ことについても声かけしていくことは、人を育て、ルールを守る人づくりにもつながります。
などなど、災害を未然に防ごうとすれば、安全活動に特化した活動ではなく、日頃の全ての活動のベースに「人づくり」と「カイゼン活動の推進」ありです。
安全は特別な活動(時と場合によっては必要)ではなく、「全ての仕事の質の向上」をする中に存在します。品質・コスト・生産は、現場で目の前で起きていますから、管理者が言わずとも現場で取り組みます。しかし、安全は、管理者が口に出していかねば後回しとなっていきます。SQC(S=安全、Q=品質、C=コスト)という言葉をある役員に教えてもらいました。管理者の仕事に対する優先順位づけ(プライオリティ)を言ったものです。管理者は、まず「S=安全」を口に出して行動すると言う気持ちが大事だと思います。
安全活動・行動が自然に仕事の中に生きてくるようになるまで挑戦して欲しいと思います。
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