2017年3月15日更新非定常作業に特化した活動‥その3 ~真の要因に対するハード対策の推進~
1.「非定常作業」の洗い出しの実践を振り返る
2月号で、非定常作業における災害防止活動で最も重要な洗い出し活動のポイントを述べました。概要を整理してみると、
- 設備は必ず故障し、復帰操作のため人がエネルギー源に近づく。人はミスを犯し災害につながる
- 非定常作業が、繰り返し発生すれば、作業者は、生産第一を考え、「止めずに」「ルール を守らずに」作業をする事が増え、結果として受傷する確率が増える
- 「守れない・守らない作業」は、現場から洗い出されにくく、紙では出てこないと考える
- 「止めると出来ない・止めると面倒な作業」も「止めろ」と言われているので現場からは出にくいテーマである
- よって、管理者が現場へ行き、設備故障の実態や、小道具や足跡手跡チェックなど、災害の兆候を見つつ、作業者と話し合って非定常作業所の実態を洗い出すことが必要ということになる。
今月号は、洗い出された非定常作業に対して真の要因に対するハード対策をどのように進めるかについて事例を交え述べたいと思います。
2.対策は、まず「ハード」対策から
⑴ 必要最低限の防護策をしよう
作業のし易い(止めやすく、復帰しやすいなど)環境を整えない限り、非定常作業に対する確実な作業を期待してもなかなか災害はなくなりません。ただし、気をつけなければならないのは、がんじがらめに柵カバーをつけなさいと言っているのではありません。ポカよけとして危険源に対して防護策は必要ですが、原因を取り除かずに、柵カバーだけを設置して対策が完了したと思い込んでいるケースをよく見かけます。
時には、行程全体をひとつの可動範囲と見なして、後付けの柵をつけたものの、旧来あった部分的な柵を撤去せずそのまま放置。柵の中に柵、さらにカバーがあり、加工点や故障の兆候が見えなくなっていることもあります。
私自身、現場の職制とチームを組んで「柵レス・カバーレス活動」(ここだけ印象に残ると危険な言葉になりますが‥)を実施したことがあります。必要最小限の柵・カバーにするカイゼン活動です。
ひとつの事例ですが、”ナイアガラの滝”のように切削油をかけていたため、オイルミスト対策としてカバーをしているケース(柵の中にです)がありました。切削油は何のためにかけているのでしょう? 整理してみると、
- 部品をセットする座面の清掃
- 加工中の刃具を冷却する
- 切粉(きりこ)を洗い流す
の3つの目的があります。
ITなどを使い必要なときに必要な量の切削油をかける方法にカイゼン、それぞれの目的に合った“糸のような細さの切削油”をかけることで充分でした。結果としてカバー不要となり、そして加工点の見える化ができたことで、煙の出方や、切粉の状態から刃具の状態まで判断でき、不良品が出る前に手がうてるなどの品質向上にもつながる成果が出てきました。こうしたことを積み重ねていけばシンプルでわかり易い防護策となっていくと思います。
⑵ 真の原因に対する対策を実施
① 「柵カバー設置で生産性が落ちた、今までの作業がやりにくくなった」という苦情も良く聞きます。こういう声は、従来の方法と比較すればもっともだと思います。しかし、良く考えてください。危険源と人の接触を防止しようと対策したことが生産性を落としたと言われてはコンプライアンスなどお題目でしかありません。
それまで、生産性を上げるために、命をかけて仕事をさせていたことになります。皆さんは、自分の息子に「命をかけて仕事をしなさい」と言えますか? 人の子なら良いのですか? 良い訳がありません。
柵カバーなどの「隔離の原則」は、基本中の基本となる対策だと思います。ここからがカイゼン活動がスタートし、活動の本番!になるという訳です。「作業しやすい」状態へ工程を作り上げていく過程が大切です。
② 「挟まれ巻き込まれ」の多くが搬送機の異常(引っかかりなど)処置時に起きていました。在庫を持たないという考えに反するように、搬送機上に「工程間在庫(標準在庫と言っていた)」をたくさん持っているケースがありました。機械の故障で生産が止まらないために”標準”とつけて認めていました。
長い時間を要しましたが、コンベアなどの搬送機を短くするカイゼンを進めました。当然設備故障を減少する活動が重要になります。非定常作業時の災害を頻発させている設備から重点的に実施していきました。
最終的には、コンベアはロボットに変わり、”一個流し”ができる工程が増えてきました。つまり、故障が少なくなり生産が安定し、品質も安定し、非定常作業の大幅件数減になり、災害も減少するという好循環が生まれます。
③ 海外に工場を建設する段階で、車種が小型車だけだったため、日本の生産ラインそのものを持って行っては利益が出ないと言う課題に対する指示がトップ命令としてだされました。それというのも、安全衛生部署をヘッドにして「やりにくい、ムダな作業・設備をトコトンカイゼンせよ」と言われました。
生産技術者、保全専門職、現場技術員、現場職制などをメンバーとして、プロジェクトチームを発足しました。数百の課題をカイゼンすることにつながりました。結果として生産ラインの長さ、設備の高さが半分程度までになり、シンプル・スリムな生産ラインとすることができました。
②同様に、安全対策費も故障も減少、保全性もよくなり、生産が安定し、品質も安定し、非定常作業の大幅件数減になり、災害も減少するという結果につながって、利益を出せるモデルラインとしてよみがえったのです。
④ 粗型材部門は、設備も古く作業者のスキルに頼るウエィトが高い作業が多いことが課題でした。その頃、役員と私の2人で可動率が低い(非定常作業が多い)等の課題を抱えている場所を中心に現場巡視をしていました。
高所で足場も悪く、油も多く付着して転落の危険、挟まれ災害の危険もあります。型替作業は重量も重く、1回の作業時間が2時間を超えていました。「現場のスキルで何十年もやっています」という職制の説明に対して、「3ヶ月でカイゼンせよ。費用はいくらかかっても良い」と指示が出ました。
結果、半年近くを要しましたが、型交換作業は外段取り方式、ワンタッチクランプ方式へ変更し、10分の1の作業時間に短縮されました。この成功体験が、他の設備のシンプル・スリム化や低推力化と言ったキーワードで設備や工程の見直しが進み大幅な稼働率の向上につながりました。メーカや生産技術者などの支援協力はあったものの、現場の人たちの知恵と努力には、限界はないなと感じたものでした。
3.「安全活動はカイゼンの入口」と言う考え方
上記事例で紹介したように、安全活動は単に「災害を減少させるため」だけでなく、あらゆる課題を明確にでき、それら全てに対してカイゼンを進めていく大変有効な手段であると言うことです。まさに、「カイゼンの入口」です。
逆に言えば「カイゼンにつながらない安全活動」は一度見直す必要があると思います。生産阻害要因の非定常作業は、出来る限りなくさねばなりません。しかし、いままで述べてきたように、何でも言える人と職場づくりなどの組織としてのベースができていないと、どうしても課題が顕在化しません。
「森を見て木をみよう」そして「木を見て森を見直しましょう」。更には、トコトンこだわった活動を一つずつ積み重ねていく事が大切になります。
柵カバーと言った隔離方策をする事で、非定常作業等の課題を顕在化させていくことができます。そして、生産性が下がった段階からカイゼンをしていくことが始まります。
管理者は、「すぐやれ!」「スピードを持ってやれ!」という”べき論”だけを押しつけるのではなく、カイゼンの方向性を示し、一緒になって考えやっていく姿勢を持つべきだと思います。そうすれば、現場の人たちの取り組み姿勢が前向きになり、自主性も生まれてくるのではないでしょうか。
まず小さな成功体験を経験することで、いつの日か大きなカイゼンにつながっていくと信じて進めていってほしいと思います。非定常作業の対策は、まず本質的なハード対策からです。皆さんで議論してみてください。
記事一覧
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~隔離対策のポイント~ - 新コーナー【そうだ、古澤先生に聞いてみよう!】いよいよスタート!
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- 腹落ちした活動とするには「具体化」と「共有化」
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