2017年7月19日更新実践的なリスクアセスメントの進め方 ~重篤な災害に的を絞った洗い出し~
1.リスクアセスメントの究極の目的とは
多くの会社・事業所を指導させていただいていますが、活動の柱でもあるリスクアセスメントの進め方に多くの疑問を抱き続けています。「リスクアセスメントの究極の目的はなんですか?」と質問しても「災害を発生させないこと」「リスクを取り除くこと」などの抽象的な言葉が返ってきます。間違いではないのですが、私は「重篤な災害の未然防止」と答えています。
確かに全てのリスクを洗い出し、危険源を減少させて災害を防止することには間違いないのですが、あえてそのように強調しているのは、現実に洗い出されたリスクの中に、死に至るような危険源と作業が洗い出されていないことが多いからです。「滑った・転んだ」「切った・張った」のような内容がほとんどのケースもありました。ナゼそうなってしまったのだろうと考えると、
① ヒヤリハット活動が形骸化している原因である「天につば」の活動の延長にあること
② 「網羅的に洗い出しをすること」を強調しすぎる研修・指導が多いこと
③ 結果的に「死ねる作業がある」とは口がさけても言えないという雰囲気をつくってしまっていること
④ 「どうしたら重篤な災害を起こせるか」という教育をしていないこと(過去の災害が活かされていない残念な状態)
⑤ 設備内容に詳しくない現場の人たちに丸投げの活動になっていること
などがあげられます。そして結果として「リスクアセスメント表づくり”ごっこ”」になっているのです。
なんともったいない活動にしてしまっているのでしょうか!?
「最悪の状態に対する危険源の観方と見つけ方」を現場観察指導研修として進めていますが、現場を2時間程度、10人で観察研修をすると、多くの新たな危険源が見つかります。今までのリスクアセスメントは何だったのかと参加者は驚きます。そして改善すべき項目が見つかります。なぜ、そうした活動を展開していけないのでしょうか? 皆さんと一緒になって考えてみたいと思います。
2.現状の再認識
⑴ 災害の発生状態は、休業災害も死亡災害も大きな進展がみられない
災害統計の見方によっては、少しずつではありますが、改善傾向にあるとも言えます。しかし、横ばい状態か、やや上昇傾向にあるとも言えなくもないのです。全体としては良くなっていますが、個々の業態などでみると下げ止まりか、悪化している場合もあります。
昨年、特に製造業での死亡災害が通年では若干の増加にとどまりましたが、前半は急増してしまいました。隔離対策などができない設備が残されていること、対策が難しいがゆえに設備対策に遅れがあること、雇用形態の変化などにより、人に頼った安全活動に限界が来ていることなどが考えられ、複合要因によるものという大変厳しい状況にあることを今一度、認識しなければならないと考えています。
その対策推進の一環として今年3月に厚生労働省と経済産業省が、かつてない組織横断的な活動として「製造業安全対策官民協議会」が発足しています。ワーキンググループも発足しているようですので、踏み込んだ議論と検討に大いに期待したいと思います。
⑵ 安全活動の2Sも必要か
安全活動の本質を突いていると思うリスクアセスメントをもっと活かしていく必要があります。そのためには、従来から積み上げた活動も一旦、原点から考えみることも必要なのではないかと思います。
安全活動は、一度始めるとなかなかやめることができないことも現実だと思います。しかし、災害の減少も相まって、今までやっている活動だからと流れの中で続けているだけになっていないでしょうか?「何のために、誰のために、いつ使うために」やっている活動か説明できなくなっていないでしようか? ヒヤリハット、KY、指差呼称は良い活動なのですが、残念ながら形骸化して「やらされ感一杯」の活動になっていることをよく見かけます。
最近の日本陸上界では、100m競技の選手のレベルが上がって、いつ誰が9秒台で走るのか興味津々です。私たちの安全活動は、100m競技のように一直線に並んで”ヨーイドン!”のようなアレモコレモの活動をさせていないでしょうか?
まず活動の軸をリスクアセスメントに置いて、危険源を洗い出し、評価して、優先順位をつけて対策を打っていきます。本来は、設計者など上流の人たちがやるべき事なのですが、本質安全化(危険源の削減、軽量化とともに低推力化、止めやすく復帰しやすい設備へのカイゼンなど)設備側での対策をして、できないところは、防護対策(柵・カバーなど)をして、最終的には、残留リスクを提示して、現場の人たちに保護具などの着用と訓練などで対応してもらうという流れになります。
そして、危険源に対する低レベル化を図った内容をキチッと守ってもらうために、安全状態を常に指差呼称などで確認しつつ作業するという良き習慣化をつくり、できていることの確認のための巡視をして、それでもやりにくいことや守れないケースについては、ヒヤリハット提案をしてリスクアセスメントにつなげるというように、
400mリレーのように安全活動を一つずつつなげていき、流れをつくっていくことが大切 だと思っています。こうした整理をする事によって、安全活動が「腹落ちして」「自主的な活動」につながっていくのではないでしょうか。
3.重篤な災害に的を置いた洗い出し
⑴ 機械設備は故障し、人はミスを犯す
「決めたルールを守っていれば災害は発生しない」と思い込んでいる人たちが多くいることも事実です。ルールはつくり、守り守らせることが企業活動で重要なことは言うまでもありません。しかし、そのルールといえども常に改善対象なのです。
創業以来変わっていない作業標準などあるはずがないことも知っているはずです。ルールは、現段階で100点であったとしても、明日にはその保証もないのです。改善のためのベースと考える事が大切です。3年も5年も見直されないルールは果たして正しいのでしょうか?
中には、守り続けていくべきルールもあると思います。ここで言いたいのは、今年のはじめに連載した非定常作業などは、”非”であって必ず同じ事が起こるとは限らない内容もあります。
機械設備が故障したり、異常の発生があった場合に備え、教育訓練で知識を持った人を日頃から育てておくという事は大事です。しかし、設備対策が不十分なために人のポカミスを防ぐことができません。非定常作業が定常化してしまって、常に人が機械設備の回転部などへ近づける状態を残しておいてルールを守れ!では作業者に命をかけてやれ!と命じていることと同じだと思います。
まして、機械設備をしっかり「止めて」作業するような条件も整っていないのに「止めてやれ!」というだけではおかしいと思います。ここに「ルールを守っていれば災害は起きない」という言葉の問題が見えてきます。今一度、「機械設備は故障し、人はミスを犯す」と言う前提に立ってリスクアセスメントの深掘りをしてほしいと思います。
⑵ エネルギー源と人の接点
大変奥が深い話しをしていますが、文章では実践論を書くことは大変難しいです。言いたいことがうまく表現できず、この原稿を書いている間も悩みつつやっています。おそらく、この原稿を書いている時間を現場観察に向け現場で事例を見て解説すると、すぐに理解できるのではないかなと思います。次号で細部について触れていけたらいいなと思っています。
まずは、「現場リスクアセスメント」を「重篤な災害に的を絞って」やってほしいと思います。エネルギーと人との接触で重篤な災害になります。エネルギーは、電気、エアー、車両、重量物、位置、高温、騒音などと教科書に書いてあります。私は、現場観察で管理者に「あの回転体に頭を入れてください。フッとめまいがして倒れ込んだ姿勢をとってください」と投げかけます(本当にやったら大変なことになりますが‥)。誰しも「それはできません」と拒みます。
人は、本能として危険と思ったら手や身体を近づけません。しかし、一生懸命作業をしている人たちは、「大丈夫」と思ってやっていますので、KY等、頭の片隅にも出てきません。いつの間にか、気づかずに、命をかけて作業をしているかもしれません。そうした行動を想定することが、リスクアセスメントであるとも言えます。
現場へ丸投げをするのではなく、管理者や技術者そして安全衛生スタッフなど知識経験が豊富な人が、今一度「現場の人の立場」に立ってリスクを洗い出してほしいと願っています。「万々が一の災害」を防ぐ活動が要求されています。こだわってやってほしいと思います。
次号以降もお楽しみに‥‥。
記事一覧
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- “話す力・伝える力”と“言葉の意味”を考えてみる
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