2017年4月19日更新非定常作業に特化した活動‥その4 ~重要な柱「ソフト対策」の進め方~
1.対策の重要な柱「ソフト対策」の概要
今月号は、洗い出された非定常作業に対する「ハード対策」に次いで、重要な「ソフト対策」をどのように進めるかについて事例を交え述べたいと思います。
大きく分類すると次のようになります。
① 非定常作業の作業標準書の作成 ~要素作業別作業標準書の勧め~
② 作業標準書のない非定常作業に対応する標準書の作成
③ 非定常作業者の教育と訓練
④ 指名化などのしくみづくり
⑤ 自分の命を守るための手段「ロックアウトとタグアウト」
2.非定常作業(異常処置作業)の作業標準書の作成
なにせ厄介なのは、”非”定常作業なので、定常作業のような標準作業書(手順書)をつくることはなかなか難しいことです。とは言っても同じ非定常作業が繰り返し発生している場合もあるので、この場合は、極力、作業標準書を作成します。ただし、毎回同じ手順とはいかないのが「非定常作業」のややこしさであり、「作業手順書」の作成の難しさになります。発生原因が微妙に違っていて、勘違いによって災害につながる可能性が出てきます。
お勧めは、「要素作業別標準書」の作成です。これは、保全作業において実践されているやり方ですが、要素作業(単位作業)に分類して一件一様で作成する方法です。わかり易く紹介すると、作業前KY、脚立取り扱い、フォークリフト操作、動力遮断方法、工具取り扱い、エリア規制、起動時の合図など‥に区分をして作成することです。実際の作業時は、これらの要素作業を組み合わせて行うことになります。
組み合わせの判断は、現場の状況によって作業する人(あるいは責任者が決めるなど)が行います。保全作業は、特に決まった点検もありますが、機械故障が毎回同じようには起きませんので、その都度、違う手順でやることになります。こうした作業の整理と標準書作成、教育と訓練をしっかり実施してプロとして育成をしていきます。しかし、ラインマンが保全マンと同様の知識をもつことはなかなか困難です。
3.作業標準書のない非定常作業に対応する標準書の作成
どのような非定常作業が発生するか予測がつく場合は2項で対応できますが、作業標準書がなく、訓練もしていない非定常作業(異常)が発生することもあります。このときの対応方法を定めておくことも必要になります。
「突発的非定常作業?対応標準書」とでも名付けたら良いでしょうか。訓練を受けていていない、あるいは作業の許可が出ていない場合は、まず「作業をとめて」「上司(責任者)へ連絡」「具体的な指示を受ける」「上司と一緒になって処置をする」ということを決めておき、自己判断で絶対に作業をしない・させないようにしておくことが大切になります。
とはいっても、現場は生産第一ですから、「何とかしよう、何とかできる」と思ってしまいます。ここが今まで述べてきたように、非異常作業の災害防止の難しい点になります。日頃からの教育と訓練と共にコミュニケーションが大変重要になってきます。
4.非定常作業者の教育と訓練
どのような作業でも同じですが、仕事や設備に詳しくなければなりません。定常作業でも何度も何度も標準書による教育と身体に染みつくまでの訓練が成されると思います。それもひとつずつ作業単位で行われ、経験を積み重ねて技能を図り一人前になっていきます。
定常作業では、「命をかけてやる」作業はありません(とは言い切れませんが、あってはならない事です)が、非定常作業では、機械・設備の基礎知識がなければ、そして種々のケースに対応する能力がなければ「命をかける」ことにもなりかねません。それだけに専門教育と訓練が必要になります。多くの企業で、こうした教育システムを制定していないことが課題の一つだと思っています。
ラインマンを保全マンと同じ知識レベルに育成するには、ムリがありますが、基礎知識をつけなければ作業はできません。
重要なことは、動力(危険源)に対する基礎知識だと思います。動力遮断の正しい方法(前提として動力遮断に関する機械基準、制御基準が決まっていること)、エアー・油圧・位置エネルギーの正しい遮断の方法、隔離設備の取り外し方(前提として隔離に対する基準が決まっていること)と、機械・設備の止まり方(インターロック)、停止状態の維持の仕方(前提としてロックアウトやタグアウトの基準が決まっていること)などになると思います。
基礎知識の教育を専門的に実践する教育設備と時間が必要です。最低でも2日くらいは必要になるでしょう。更に、現実に発生する非定常作業に対して実践訓練をする必要があります。ここに先に述べた作業標準書が必要になってきます。できることから一つずつ訓練を積み重ねることが必要になります。
5.指名化などのしくみづくり
4項の教育と訓練を実施した上で、管理者が実践力(技能)を確認し、非定常作業者(異常処置作業者)としての指名(業務認定)をする必要があります。命をかけて実施することのないようしっかり管理者から「指名」意義と役割、権限委譲などの重要性をしっかり伝えることが必要です。管理者の強い思いがしっかり伝えられれば、大きな成果が期待できます。
ある例ですが、部下から一人も挟まれ巻き込まれ災害を出していない管理者(現場から昇格した人)がいました。その人は、指名するときに、後から述べる「命札」の裏面にそれぞれの人に対する思いを手書きして、直接「この札に命を吹き込んだ。守るべきことをしっかり守ってやって下さい」と強い思いを伝えていました。
現場巡視のたびに繰り返し同じことを語っていました。学ぶべき点があると思います。こうした非定常作業者(異常処置者)として育てていくしくみを、是非確立してほしいと思っています。
6.自分の命を守るための手段「ロックアウトとタグアウト」
動力(エネルギー)遮断をした状態を維持することは、自分の命を守ることであり、殺人者をつくらない事にもなる重要なことです。これまでの災害事例でも、設備内に人がいるのに、勘違いや勝手な判断で起動スイッチを入れてしまい、死亡災害につながっていることがあります。他人が間違ってスイッチを入れることのないように「ロックアウト(南京錠)、タグアウト(命札)」が効果的です。
タグアウトは、すぐにできる良い方法だと思います。設備を停止して作業をしていますよという表示で、「スイッチ入れるな」と言う言葉と「顔写真と名前」を入れます(個人持ちです)。更には、携帯電話番号も書くようにしていました。本人以外は、絶対外してはいけないという厳しいルールが必要です。外し忘れた場合は、本人を呼び出して本人に取り外しをさせるなどの厳しさが必要です。
かける場所も決めておく必要があります。基本は、起動釦の上か、非常停止釦(ロック機構のあるもの)の上になるようにかけます。時々、磁石でつけるような札も見かけますが、不安定であり、本気で人の命を守ろうとしているのか気になります。風や人が触っても落ちないようにしっかり掛けられる方法が必要です。
また、制御盤の横に、名前のない誰でも使用可能な札を置いてあり、”気軽に”使っているケースを見かけますが、これも、命を軽く見ている気がして、見直すべきと指導をしています。
札の場合、二人以上の共同作業では、重ねて掛ける場合が生じます。間違って2枚同時に取り外す可能性もあり、危険性があります。よって、更に良い方法として「ロックアウト(南京錠)」があります。欧米では、相当以前から実施されています。同じ鍵がほぼできない物が安全用として市販されています。
命を守る手段の提供は会社責任です。どちらにしても前提条件として「停止の原則」「隔離の原則」がしっかり決められた上でなければ効果を発揮されません。また、運用ルールも現場からいろんな意見が出てきます。これらを社内基準として制定してしっかり運用をしていくことが必要です。
重篤災害の7-8割は、「非定常作業」から発生しているとも言われています。「非定常作業に特化した活動」として4回にわたり事例などを交え紹介をしてきました。まだまだ奥が深い活動です。各社でプロジェクトチームを組むなどして”活動の深掘り”をしてほしいと思います。
そして多くの実践から共有化出来る情報をお寄せいただき、議論していけることを期待しています。
記事一覧
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