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2024年6月19日更新“話す力・伝える力”と“言葉の意味”を考えてみる

 人に意思を伝えることの難しさは多くの人が、いろいろな場面で体験していることではないでしょうか。皆さんも友人、恋人、パートナー、仕事相手などとの会話で失敗した、反省したと言う経験があると思います。一度口をついて出た言葉は元に戻りません。私は、安全講演や現場観察指導研修で毎年何千人もの人に話をすることを生業としていますが、相手が違い、場面が違うので相手の理解度を推し量りながら、相手の納得性を求めて毎回真剣勝負をしています。達成感のあるときもあれば、反省しきりで帰路の足が重いことも多々あります。常々、言葉の意味を深く考え、伝える努力、積み重ねこそが大切であり、経験値になっていくものだと思います。私も多くの失敗を経験しているので偉そうに言えることではないですが“話す力・伝える力”について考えてみましょう。(文責:古澤 いつもながら私見が入ります)

1. 講演・講義の基本

「古澤さんの話は3回聞くと理解できる」と受講者からよく言われる言葉です。1回目でもすごくわかりやすかった、元気をもらった、楽しかった等の声を多くもらえるので2回3回と呼んでいただけるのだが、3回聞くと理解できると言われるのは、限られた時間で話さねばならないので、初めは、大枠の話しが中心になるが(勿論、興味を引く事例も入れつつ)、徐々に細部の話しに入っていくからだと思う。もう一つの要因は、聴講した人が実践してみて、新たな疑問が出て更に理解が深まるという相乗効果なのかなと思っています。限られた時間内で伝えることはなかなか難しいですね。

(1)準備と実践の違い

講演などで準備した資料を全部話さなくてはという人、パワーポイントを順番通りに話していく人は失敗することが多い気がします。門外漢が知らない現場に行けば予想とは違った場面に遭遇することは当然であり、事前の打ち合わせや講演のつかみの時間(最初の10分程度)などで相手の期待値を感じることが大切だと思っています。そこで話しのストーリーを改めて考え順番や事例を描き、相手の興味を引き出し、こちらの伝えたいことを6割も話せたら成功と考えることにしています。

(2)講演・講義はキャッチボール

 以前も書いたかもしれませんが、著名な先生が言った言葉です。「タイトルと骨子のみ準備して壇上に立ってからその日の講演内容を組み立てていく。こちらが直球を投げても直球が返ってくるとは限らない。カーブだったりツーシームだったりする。こちらも変化球を投げて反応を見る。反応を見つつ相手の興味があるところから役立つ話しへつなげていく。これが講演だ」なかなかこの域に達するには場数が必要になりますが心がけていけばできるようになると思います。

2.曖昧な言葉づかいと解釈

(1)「不正」とは

 自動車各社が型式認定の「不正」発覚と新聞を賑わせています。自動車関連にいたOBの一人としては残念であり、何をやっているのかと怒りが湧いてきます。それ以前に、他社で同じ問題が起きた時に言ったトップの言葉「内部告発をしてくれた人に感謝。ありがとう」が空虚に聞こえたのが現実になったと思いました。その時も「違うだろう!内部告発をさせてしまうまで気づかなかったことは申し訳ない」ではないかと思ったものでした。責任ある地位の人は、発言にもっと責任を持つべきだと思う。認定基準どおりに試験をしなければならないのは当然です。もし現状に合わなければ、行政に提案をしなければ駄目でしょう。そのために自工会があるわけだから。しかし、認定ルールが時代に合わないままでは、企業競争に勝てない、もっと安全レベルを上げたいと思う気持ちはわかります。50kmで衝突試験をやりなさいという基準を60kmでやった結果を報告書へ記載してしまったのは「不正?」。正しくないという意味では不正なのだが、マスコミではやし立てている文脈では、表面しか見ていない批判に聞こえてしまうのは私だけだろうか。擁護するわけではないのだが、車のスピード制限を守っている人はどれくらいいるのだろうか?道路環境の改善が進んだ路線も増えて、車の性能も上がった現在、制限速度が変わらないのはどうなのかなと思う。第2東名の静岡あたりでは、最高速度が120kmに見直されたが良いことだと思う。今回の問題も背景をもっと伝えて欲しいし、何がこのような問題を起こしてしまったのかメーカを責めるだけでなく、行政も一緒になって解決策を考えなければ日本が立ちゆかなくなるような気がしてならない。言葉の意味を考えてしまいました。

(2)曖昧言葉は日本の文化?

①洋服に「フリーサイズ」とあるがその範囲は?といつも考えさせられます。胴回り何cmから何cmと表示してくれたらいいのにと思いませんか。

②リスクアセスメントの3ステップメソッド・ステップ1の「本質安全化」の言葉の意味を間違えている人たちが多くいます。顕著なのが「安全柵・カバーを取り付けること」となっていることです。これは、ステップ2ですよね。本社から言われたからと柵・カバーをすることが目的化しているケースを多く見ています。軽量化や低推力化、○○レス化等の改善をせずに柵・カバーをすると、今までできていたことができなくなり、現場にウソをつかせることになります。

③「注意表示」が現場に多く貼られています。対策の一つではありますが、貼りっぱなしで景色化しているケースが多いです。私は、「管理者の免罪符」と言っています。具体的にどうすれば良いのかを問い詰めますが、なかなか具体的に出てこないことや、バラバラな答えが返ってきます。だったら、具体的な言葉で表示してはどうかと提案しています。「注意表示」を安易に使い、対策をしたつもりになっては何の意味もありません。

④「KY(危険予知)活動で人を育てる」とよく使われています。正解でもあり不正解でもあります。新人にはKYTのやり方や体感教育は、有効と思いますが、体感したことが実作業でどの場面で起こるか言わせているケースが少ないです。と言うより、仕事の内容や機械設備などが詳しくない人がどうしたら怪我をできるかなど、なかなか考えられないのも事実です。KY活動は良い活動ですが、使い方が間違っているケースが多いと思います。KY能力の高い人は仕事の能力の高い人、経験を積んだ人なのです。技能習得制度等で技能を高めていくことが最も人づくりに繫がると思います。

3. 「話す力・伝える力」のレベルアップ

(1)言葉の意味や目的の深掘りと共有化

 2項で事例を挙げましたが、話す側が当たり前と思い込んでいる言葉が、意外と受け手の感覚からは違った言葉になることが多くあります。ここがコミュニケーションの難しさです。英語やアルファベットを使うとかっこよく見えたり聞こえたりすると思い込んでいませんか。勿論、端的に言い表せる場合もありますが極力、平易な言葉で、具体化して理解できる言葉を使っていく努力をして欲しいです。現場で納得して、腹落ちして、実践してこその安全活動です。もっともっと言葉の意味を深くしっかりと考えて欲しいと思います。

(2)受け止める力 決して否定しないこと

 「聞く力が得意?」と言った人がいますが自分の都合の良いことだけを聞くのでは全く話になりません。会社の幹部にもこうした人は存在します。嫌なこと、問題を言ってくれる部下・仲間を大事にした方が結果として良い職場になります。言葉をうまく表現できない人もいます。まず、相手がどういう背景を持ち、何を伝えようとしているかを理解する努力が必要だと思います。そのためにもどんな言葉も「なるほど!」など一度受け止めることから始めると良いと思います。すぐに相手の言葉を否定してから自分の主張をする人がいますが、こういう人とは付き合いたくないですね。

(3)連想ゲーム的な整理の仕方

 問題と答えを導き出す過程を短い言葉でつなぐことができていると、相手が言った言葉を広く捉える事が出き、「こういう事例があるけどどうかな?」とか相手の言いたいことを更に導き出すためにも有効な問いかけになると思います。

フォークリフト災害の兆候の一つとしてカウンターウエイトの傷を見つけたとき、なぜ?どこで?状況は?等を関係する人全員で話し合い、対策に結びつけることが大切と指導しています。どの会社でも必ず伝えます。責め合うのではなく、みんなで考え知恵を出す活動です。チームワークも上がり、人も育ちます。KY能力も向上します。この活動をしているところは、フォークリフト災害が激減しています。

物事を自分としてもわかりやすく整理する術を持てば、相手も納得・理解をしやすくなるはずです。こうした準備をしてこそ、話す力・伝える力がついていくと思っています。

  • 奥の深いテーマです。安全衛生スタッフ、管理者の皆さんは、話す機会が多いと思います。良いチームづくり、良い活動としていくためには、こちらの意図が伝わらねば成り立ちません。是非、みんなで話し合い、実践して欲しいです。

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