2022年6月15日更新水の大切さと恐ろしさ
「令和の大惨事?」と言うべき事故が身近で発生しました。愛知県豊田市を起点とする「明治用水」の「頭首工・大規模漏水」です。全国ニュースになっていると思いますが、中日新聞などマスコミ報道から水の大切さを改めて考えてみる機会としたいと思い労働安全とは離れますが、要点を紹介します。また、知床沖の観光船沈没事故では水の恐ろしさを思い知らされました。「安心と安全」を考えさせられました。どちらも現在進行中なのでこのブログを読まれる頃には新たな情報も入ってくると思います。(文責:古澤)
1.明治用水頭首工とは
明治用水とは、愛知県矢作川から農業用水や工業用水を取得する堰(せき)の施設です。江戸時代に地元の豪農・都築弥厚(やこう)が荒れた土地に新田開発を計画したが地元民などに反対され、夜間密かに測量を続けたが果たせぬまま借金を残し亡くなり、岡本兵松と伊豫田予八郎が意思を継いで農民を説得、出資者も確保したがこれまた財を費やし、破産などを招いたという。明治11年(1878年)にやっと許可がおり、明治14年に完成し「明治用水」と名付けられたとされています。そしてかつて「安城ヶ原と呼ばれた原野」で農地には不向きだった土地を、大正末期には安城周辺が「日本のデンマーク」(米のみならず、イチジク、養鶏、養豚、梨など)と呼ばれるまでになったのです。現在の頭首工は、昭和33年(1958年)に完成して八市、他に農業用水、工業用水、水道用水を供給しています。「山崎延吉 農本思想を問い直す」(安達生垣著)によると「農業は人間の生産活動の一番の基本。生産には三種あり、1生命を作り出す、2値打ちを作り出す、3効用を作り出す。農業は1、工業と商業は2と3である。故に農業は『生産』の第一義である。」と説かれています。今回は、最も大事な時期にその農業用水が来ないために田植えが終わった田が干からびている写真や、育苗中の苗が黄色くなりかかっている写真を見ると本当に忍びない。当たり前と思っていることが突然なくなると言うことがあることは頭の隅にあっても「大丈夫」と思っている(思いたい)ことが日常の中であることに対しての警鐘と捉えたいと思う。国が造成した同様の河川からの取水施設が全国約390カ所あるという。緊急点検をした結果は、現段階で問題なしと言っているが、和歌山市の水道橋崩落事故に見られるように年代物は同様の心配がないわけではなく、備えが必要と思います。
ウクライナの状況と重ね合わせると、私たちの日々の食料や水で代表される生活の安全や安心が努力なしでは得られないということ、先人たちの努力の積み重ねで得られていると言うことをもっと大事にせよと教えられているとも感じます。
2.大漏水事故の概要
5月15日に漏水を確認(堰の内側に小さな渦)。17日処置をするも止まらず水位低下し、取水ができなくなる。18日東海農政局が漏水を公表、農業用水の給水停止。工業用水は、131事業所へ供給していて、こちらにも影響が出てトヨタ自動車をはじめとする多くの企業の操業停止など制限がかかった工場もあります。24日ポンプアップした水を農地へ給水再開と発表、25日8日ぶりに試験的供給。26日には5月では記録的な50mm以上の雨が降り、乾いた田に水が張った状態になる。31日ポンプアップで水量確保、4地区4日に一度の分割供給開始で一息ついた状況です。
建設から64年が経過。堰のコンクリート基礎の下側に水のトンネルが出来て下流へ吹き出している状況は専門家の見解として簡単には修復はできないとあり、これからの梅雨時期や豪雨時にポンプアップが順調にできるのかなどまだ安心はできません。
実は、この頭首工と言われる所を私たちは「水源ダム」と言っています。家から3km南側にあり、公表された翌日ウォーキングのコースを少し延ばして確認に行きました(野次馬と言われても仕方ないですが‥‥。現地現物ということで)。TVなどマスコミの記者たち、多くの市民が集まっていました。私の若かりし頃、トヨタの本社グランドから水源ダム往復がランニグコースの一つでした。水源ダムの近くには水源公園があり、桜の名所です(最近は老木化して昔ほどではありませんが)。
上流の渦、下流の吹き出しと確認し自然の怖さを感じました。満々と水が張っている状態しか見ていないのに昔の堰の後や砂地が露出している姿は、当然見たことがありません。驚いたのは、すでに北陸などからポンプ車が届いていたことです。その後も官のみならず民間からの協力などでびっくりするくらいのポンプが集まってきました。最悪の事態への準備という点で感心しました。
矢作川のことを昔「御川」と言ったそうです。そして三河の由来とされているのが「男川、豊川、矢作川」の三つの川を表していることも改めて学びました。水は、昔から政争の種であり、洪水被害などへの人間の知恵との戦いとなってきた歴史でもあります。現代の人たちが知らずしらす先人たちの努力の恩恵を受けていることは他にも多くあると思います。時々、思いをはせてみることも大切なことかと思いました。また、この大漏水事故の影響がリニア新幹線の静岡県の水問題に影響があると考えるのも自然です。
世界中でこれほど安心してどこでも水が飲める国は少ないと思います。私たちはとても素晴らしい自然の中で活かされていることを肝に銘じて、自然との共生をこれからも大切にしていかねばならないと思いました。
3.水の怖さ「知床観光船沈没」
4月23日、知床で14名が亡くなり、12名がいまだに行方不明となっている事故が発生し、連日報道されています。事故原因は、これから究明されると報道されていますが、今回も多くの教訓を残してしまいました。最も大きいことは、トップマネジメントの欠如です。船や気候のことが詳しくない人がトップに立ち、利益追求のみを考えベテランをやめさせ、経験の浅い船長に無理な出航を指示したこと、出航中の連絡のための手段がなかったこと(無線設備が故障したまま)、運航管理者が不在にしていたことなどトップの資格が全くないことです。また、船体に穴が開いていたにもかかわらず(最も水が浸入する可能性がある場所)修理をしていなかったこと、瀬戸内海で使っていた船を外洋仕様にすることなく荒れた海上で使っていたこと(他の船長はFRPの上に鉄板を施工していると言っていた)、船室がすべて穴でつながっていて浸水すればすぐに沈没の危機になる可能性などハード的な問題、また、行政の検査を受けていたにもかかわらず上記のような問題を指摘できていないこと、事故後に行政が他社の立ち入りをしたときそこの船長が「書類のチェックだけやっても意味ないんだよ」「無線のチェックぐらいしたらどうだ」と声を荒らげて言っているニュースを見ました。
私たち安全活動審査をする時に、この事故同様に書類チェックなどの形式重視になっていないかと言うことです。本当に「最悪のことを想定した実践できる体制」となっているか、行動が伴っているかなどの確認をしていかねばならないと思います。事故はいつ起こるか分かりませんが、起こるべくして起きているとも言えます。事故や災害には原因が必ずあります。後からなら誰でも言えるようなことでなく、後から打つ手を先に打てと言うことです。最悪のことを想定して、未然防止につなげる活動をリスクアセスメントと言うわけです。悲しい事故が起こるたびに同じような対策だけが言われてテレビを見ていて悲しくなります。楽しみにしていた旅行で命を奪われた人たち、遺族の方々の無念さを思うと胸が締め付けられます。結果論ですが、今回の事故も防止できた事故ではなかったかと思います。自然相手ですから完璧なことはないのかもしれません。しかし、私たちは全力で命を守るための活動をしていかねばならないと改めて思います。亡くなった方のご冥福をお祈り致します。
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