2019年9月11日更新“人間性(心の持ち方)”について考える~ラグビーワールドカップと“故・平尾誠二氏”の生き方~
2019年9月20日から「ラグビーワールドカップ2019・日本大会」が全国12都市で開幕します。愛知県豊田市でも“4年に一度ではなく、一生に一度の体験を”と称して開催されます。多くの関係者のご努力で日本開催となったと思います。その開催を最も待っていた一人に「故・平尾誠二氏」がいました。ノーベル賞受賞者の山中伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所所長・以下、山中先生と表現させていただきます)が書かれた「友情」「友情2」を読み、“平尾誠二という人”に(以下、平尾さんと表現させていただきます)感動を覚え、人を指導する立場の人間(安全衛生スタッフ)として、そして一人の人間として必要なことを改めて考えさせられましたので、紹介したいと思います。
(以下、私個人の見解が多く入りますので、文責は古澤にあります。)
※ 著書の紹介「友情」‥2017年10月発行:(株)講談社 山中伸弥著
「友情2」‥2019年5月発行:(株)講談社 山中伸弥他14名著
1.平尾誠二さんの紹介(「友情巻末から」)
伏見工業高校では全国高校選手権大会優勝、同志社大学では史上初の大学選手権3連覇、神戸製鋼所では日本選手権7連覇、それぞれの立役者として活躍。史上最年少で日本代表に選出など素晴らしい戦績の持ち主です。また、1984年からTBS系で放送された、「スクール☆ウォーズ~泣き虫先生7年戦争」のモデルになった学園ドラマのキャプテンが平尾さんだそうです。私は、会ったこともないし、ラグビーに詳しいわけでもありません。そういう私でも名前は知っているし、有名人です。しかし、享年53才、日本ラグビーの将来を夢見つつ病に倒れてしまいました。
私的なことですが、私の現役時代の職場には、ラグビー全日本選手権優勝メンバーを初め、硬式野球、軟式野球、バレーボール、ソフトボールなど全日本で活躍するスポーツ選手がたくさんいました。私自身はテニスのローカルプレーヤーでしたが、先輩にはデビスカップ候補選手もいました。それぞれの道を極めた人達に多くの影響を受けたことを今でも懐かしく思い出します。ラグビーで神戸製鋼所に勝てなくなり、悔しい思いを抱いたことも昨日のように思い出します。神戸製鋼所はスーパースターが多くいました。その中の一人が平尾さんだったのです。
2.多くの人がたたえる平尾さんの人間性
⑴ 平尾さんと山中先生との出会い
山中先生は、平尾さんにあこがれて大学でラグビーを始めたそうです。40才台になって対談の機会があり、その時に「とても心の優しい人、話しの端々にいろいろな人に対する思いやりが滲み出ていた」と感じ、急速に仲良くなられたそうです。お互いに違った分野でも共感できる、通ずるものがあったのだと思います。山中先生は、「ラグビーそのものの話題より、コーチ論や組織論、人間関係などのテーマの話しが多く、それを聞くのが楽しみでした」と語っています。
この点だけでも、一つのスポーツや仕事に縛られることなく、幅広く物事を捉えて考えていくことのできる人でありたいと、改めて思いました。
⑵ 平尾さんの日本ラグビーに対する思い
同志社大時代の同級生であり、元サントリーの監督・日本代表コーチの土田雅人氏が「友情2」で以下のような紹介をしています。
平尾さんが1997年にラグビー日本代表監督に就任、就任記者会見で「日本ラグビー百年の計」を宣言したそうです。当時、世界ではオープン化という名目でプロ化が進みつつあり、「このままでは日本は置いていかれるばかりだ」と言う危機感を持っていて、既成概念にとらわれることなくチーム作りをしていくという決意として話されたそうです。そして2015年イングランドで行われたワールドカップで、日本代表が世界の強豪国・南アフリカに勝利して、日本中が熱狂に包まれた後に「日本代表を強くすることが、日本ラグビーの進む道である。そのことがこの勝利ではっきりと証明された」と理事会で発言したそうです。「個が強くならなければ、強い組織は作れない」「個人を”点”、チームを点の集積によってつくられる”線”だとすれば、点が大きくなれば線は太くなる。だから点を大きく、強くすることが最優先で取り組むべき」ともいったそうです。
手前味噌ですが、私が安全スタッフを担当して思ったことがこの言葉でした。
「一人ひとりを大切にして、個のレベルを上げなければチームとしての力は上がらない。点を強くし線にして更に面にする。そして5人の集団を元気にできれば、どんな組織でも元気になる」
と、考えてやってきたことに通ずると思い、心強くなりました。
⑶ 世界で戦える“チームジャパン”づくり
日本代表は、それまで勝てなかったサモアやアルゼンチンに勝利し、環太平洋のパシフィック・リム選手権でも優勝するなど手応えを感じつつも、1999年のワールドカップでは三戦全敗で終わり、平尾さんは監督を解任されてしまいます。しかし、平尾さんの奥様が「友情2」に書かれています。
「4年後のワールドカップを見据えて改革を試みた結果であり、“志なかば”と言う言葉が当てはまるように思います。“僕のしていることは間違っていない。ナショナルチームを育てるのには時間もお金もかかる。誰かが気づいてくれたらええことや” と平尾さんが語っていた」と‥。
また、前述:土田雅人氏が「今のトップリーグの誕生(2003年)につながっているのは、平尾さんの功績である。平尾さんは、常に先を見据えて行動する人だったと‥」とも言っています。山中先生が「友情2」の帯に書いてある「平尾誠二と日本開催のワールドカップを見たかった‥」この言葉こそが平尾さんを知っている人たちの共通の思いなのかもしれません。平尾さんは、日本で初めて(今世紀では最後?)のラグビーワールドカップ日本開催を誰よりも待ち望んでいた人だったのではないでしょうか。結果は分かりませんが、日本代表の選手の健闘を心から願わずにはいられません。
⑷ 「自由自在」と言う言葉
平尾さんのお墓には、自筆の「自由自在」と言う言葉が刻まれているそうです。「何をやっても良いと言うことではなく(これでは自分勝手)、自分を律し、人を思いやる境地だと思います」「想像もつかないくらい厳しく自己を律し、ご家族をはじめ周囲人たちに常に思いやりを持って接しておられた。その積み重ねの末に到達したのが”自由自在”だったと思う」と山中先生が書いています。
安全活動の中に「自主性を重視して‥」と言う言葉が良く出てきます。大切な考え方なのですが、中身の多くは、「丸投げ」に近いことがあります。組織としての目標や、やるべきことの教育・訓練があっての自主性だと言うことを考えさせられました。
⑸ レジリエンスと言う言葉
山中先生が中学時代の柔道の先生「西濱先生」の言葉として紹介している。
「レジリエンスというのは、辛い出来事があったときでも、しなやかに適応して生き延びる力のことだ。震災後でも、希望を失わず気丈に立ち直り、前向きに生きている人もいる。その強さがレジリエンスだ」
「レジリエンスは生まれつき備わっているものではない。鍛えれば身につけることができる。その秘訣は、感謝することだ」。
「平尾さんは、癌に冒されて闘病生活をしていてもご家族を初めとする周囲への人たちへの感謝の念が、非常に強い人でした。そして周りの人たちからもとても感謝されていました。”感謝のし合い”が彼の周囲にはたくさんあったと思います」。と山中先生が語っています。
安全活動でも、不測の事態や、変化点に対する対応力を鍛えていかねばなりません。最悪の事態への対応力であり、非定常作業への対応訓練であったりすると思います。また、現場で働く人たち、正規社員であれ、非正規社員であれ、請負関係者であれ、工事関係者であれ、皆さん目標に向かって一生懸命だと思います。上から目線でなく、常に感謝の気持ちを持って接することがいかに大切かを考えさせられます。
3.みんなで平尾誠二を分けるしかない
「友情2」で平尾さんの奥様が、編集者の松岡正剛さんが「感謝の集い」で展示した言葉を紹介しています。
イメージをマネージした男 あまりに才能があふれていた。
とてつもない判断力と洞察力に富んでいた。
何でも同時に思いつき どんなことでも仲間に伝えられた。
それは日本ラグビーの可能性のすべてだった。
そういう平尾誠二に、ずっと好きなことをやらせたかった。
こういう男はもう出現しない。
みんなで平尾誠二を分けるしかない。
山中先生がまとめられた「友情」「友情2」を是非読んで欲しいと思います。
誠に手前味噌ですが、自分が安全活動を進めてきた考え方と共通する事も多く、(勿論、足下にも及びませんが‥)ほんの一部ですが紹介をさせていただきました。
多くの企業で「現場観察指導」を僅か3時間程度実施した後に、受講生から「ありがとうございました」「元気をもらいました」と言ってもらえるのは何故か? 外部講師という点を差し引いても、相手が何かを感じてくれたことの結果だと受け止めています。
「相手の立場」「現場目線」を大切にやってきたこと、「人間性」と言う中身はうまく表現できませんが「心の持ち方」で自身の人生も、そして接した人たちも大きく変わっていくと信じています。
日々の努力の積み重ねだと思います。このブログが一つでも参考になれば嬉しいです。
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