2020年3月18日更新“野村克也元監督”の教え・あれこれ ~人を育て残す事の大切さ~
プロ野球ヤクルト・阪神・楽天で監督をした野村克也氏が84才で亡くなりました。テレビの追悼番組や新聞などで多くの功績・教訓を紹介していたので皆さんも共感することが多かったのではないでしょうか。哀悼の意を表しつつ、私もその一人として、安全衛生活動と照らし合わせて共感部分の活かし方を考えてみたいと思います(中日新聞やテレビ追悼番組などから引用)。
1.「勝ちに不思議な勝ちあり。負けに不思議な負け無し」
私が安全活動をはじめた頃だったか記憶が定かではありませんが、講義などで上記の言葉をひねって「ゼロ災に不思議あり。災害に不思議なし」と使っていたことを思い出します。
昔の話です。12工場の中で、唯一ゼロ災を続けている工場があり、素晴らしいと思っていました。その工場は、歴代の工場長が素晴らしい考えの持ち主であり、尊敬していました。安全衛生事務所も工場の真ん中につくり、部課長が現場へ行った帰りには、必ず安全衛生を訪れ、情報交換をする姿がありました。3,000人程度の工場で活動も浸透していたように感じて”流石!”と思ってしまいました。ところが災害ゼロが10ヶ月くらい続いていた夜中に、電話で起こされました。その電話は、死亡災害が発生したという内容で、すぐに工場へ向かいました。非定常作業でベテランの職制が処置をしているさなかに搬送機に挟まれてしまったのです。
その後、調べていくと、異常があることを現場は知っていました。しかし、自分が処置をするのだからと上に上げなかったようなのです。管理者も良い報告だけを聞くようになっていました。
また、同じような課題が他にも多くある事も分かりました。”一方通行”コミュニケーションだったのです。それ以来、私はゼロ災であってもたまたまであって、災害の目はなくならないと思うようになりました。まさに「ゼロ災に不思議あり。災害に不思議なし」だったのです。
小集団として、何か一つでも自信を持ってやっている活動があり、全員が同じことを言える職場からは重大な災害は起きないのですが、結果の数値だけを重視して追いかけている職場は、確率としていつか大きな災害が発生すると思っています。「勝って兜の緒を締めよ」と言う言葉もあるように、良いときこそ足下を見つめ、強い点、弱い点を共有化して弱いところの強化をしっかりやっていく(野球のキャンプであり、反復練習など)ことの重要性を教えていると思います。
災害ゼロが続いていたとしても、ある日突然災害が発生すると、本社や事業所トップが「ちゃぶ台返し」のような対策をしいることもよく見かけます。何が足りなかったのかと言う視点で議論すればやるべきことが見えてきます。「災害に不思議なし」です。アレモコレモと欲張り、バタバタすると、逆効果で災害が連続して災害が発生する事は良く経験しています。肝に銘じて欲しいものです。
※「勝ちに不思議な勝ちあり。負けに不思議な負け無し」は、江戸時代の肥前平戸藩主・松浦静山の剣術書から引用してしばしば使ったと言われている。とありました。
2.「僕はひっそりと咲く月見草」
自分をしっかり捉えている言葉だと思います。当時のプロ野球は、王、長嶋(ON時代)全盛期でした(私自身は長嶋ファンでした)。セリーグに比べ人気のなかったパリーグで戦後初の三冠王をとっても、ホームラン王になっても人気では勝てなかったことへの悔しさからの言葉だったかもしれません。しかし、ヤクルト監督で四度のリーグ優勝、三度の日本一に輝き、阪神、楽天の監督としての実績を見れば、ON以上に実績を残したと言っても良いと思います。マスコミや巨人軍に対して自虐的に表現したのだと思います。
私たち安全衛生スタッフは、ややもすれば目立たない仕事をしていると思う人も多いと思います。ある意味で「月見草」なのかもしれません。
私がリーダーに就いた時は、災害も多く、対策に追われ日々で「災害が起きてからなら誰でも言える。楽な仕事だな」と現場の人に言われたことも事実でした。その時「よし見ていろ、災害が起こる前にものが言える安全衛生にしてやる。胸を張って歩ける仕事と言えるようにしてやる」と心に秘めたことを思い出します。
それから「未然防止」に力点を置き、役員にも、部課長にもそして現場にもいろいろなことを提案して、「現場の人たちが”楽”になるためのカイゼン」をトコトンやってきました(詳細は前号までのブログや著書で紹介)。その結果、胸を張って「安全活動を活かすには‥」と語ることができるようになったと思います。10年位かかったように思います。何を成し得るにも「なにくそ!と言うハングリー精神」は大切な事と野村さんは教えてくれました。
3.「財を残すは下、仕事を残すは中、人を残すを上とする」
野村さんの真骨頂とも言える言葉だと思います。監督最後の試合を終えて「野球界に人を残す事ができて、少しは貢献できたかな」と言ったそうです。多くの教え子たちが、今のプロ野球を盛り上げていると思います。ヤクルトのキャッチャーだった古田敦也さんは、「ID野球の申し子」と言われます。古田さんは、プロから声がかからず、トヨタでアマチュア野球をやっていました。「眼鏡をかけたキャッチャーは大成しない」とも言われていたと記憶しています。しかし、野村さんは、その古田さんをとり、育てました。人の素質を見抜き、長所を活かすことに長けた人でもあったと思います。
また、元中日の山﨑武司さんは、オリックスを戦力外になり、創設直後の楽天に移籍。やんちゃな性格を自認する山﨑さんは、当初、絶対合わない人だなと思ったそうです。しかし、話していく内に、「考える野球」をたたき込まれ、38才の時に11年ぶりの本塁打王、初の打点王になりました。野村さんは、自分をさらけ出し、相手に気づかせていくことにも長けていたのだと思います。「ぼやき節」とも言われますが、一言・一言が計算された愛情のある言葉だったのだと思います。「野村再生工場」と言われる由縁だと思います。
私の講演の柱は、「安全活動を活用した人づくり」です。良く管理者にお話しすることですが「給料の半分は、部下の育成にかけて欲しい。自分の位置まで引き上げる努力をして欲しい」と申し上げています。人が育てば、自ずと安全成績のみならず、会社の成績も良くなるはずです。
私は、安全活動を通じて指導をさせてもらう以上は「元気な人と職場をつくる」ことにつながると信じて、やりがいを感じてやってきました。「モノづくりは ヒトづくり」そのものの考え方です。
野村さんの言葉は、「”極端な”利益至上主義」を進める経営者が増えてしまい、品質トラブルやそれに伴う内部告発の頻発、労働災害の下げ止まりなどにつながっている現状に対する警鐘ともとれるような気もします。
4.「トコトン考え抜く」
“トコトン”と言う言葉は、私はよく使います。野村語録を読んでいると、この言葉とダブります。私たち安全衛生スタッフは、時代や環境の変化などを敏感に受け止め、3年後・5年後にどう言う姿を描けるかが大切だと思っています。
今日・明日のことは、現場がしっかりやってくれると思います。私たちは、経営の一端を担っているのだという強い信念を持って中長期の戦略を持ってやっていかなければならないと思います。野村元監督の本を再度読み込んでみようと思います。
(追記)
「新型コロナウィルス」で世界中が大変なことになっています。政治も専門家もこの主のことが起きることは予想していたはずです(予想していなかったとすれば大問題です)。最悪の事態への対応を常日頃考えていなければ、いざという時の初期初動を失敗して取り返しのつかないことになる事も想像できます。
起きてみないと分からないことも多くある事は分かりますが、皆さんも感じているようにクルーズ船の初期対応や、検査態勢の問題など後手・後手になっている事は、リスクマネジメントの失敗と言えるかもしれません。収束後になるのかもしれませんが、教訓としていかねばなりません。
今からでもできることはあります。デマなどに踊らされずに、「森を見て木をみる。木をみて森を見る」ことを心がけて一人ひとりが正しい方向に向かって行動して、一刻も早い収束に向かうことを祈らざるを得ません。
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