ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2018年1月24日更新気づき・気がかり粗末にするな 気づいたらすぐ行動に移せ!

1.「新幹線のぞみ34号の重大インシデント発生」の教訓

 またまた品質問題勃発です。今度は、日本の“安全神話”(神話などはないのだが‥)とも言われている新幹線で、あわや大惨事寸前と言う大問題が発生しました。私たちは野次馬根性でなく、「現場で何が起きているのか」をしっかり考え、教訓としていかなければならないと思います。

 600人以上の死傷者を出した尼崎脱線事故以来、JR西日本の体制が大きく変わったと認識していましたが(TVや関係者の言葉から)、今回の様なことが発生すると全く変わっていないとみられてしまい、遺族の方々と社員が一体となって進めてきた今までの努力が、一瞬にして水泡と化してしまいます。私は、仕事で新幹線をよく使いますが、“まな板の鯉”の気持ちで乗っています(と言ってもほとんど仕事の準備か寝ていますが‥)。以下、私見を交え考えてみたいと思います。

2.「5つの兆候」がある

 私は、大きな事故や災害を見聞きする中で、結果には必ず原因があり、後から考えれば大きな5つくらいの兆候があること、そしてその一つでも気づいた段階で何らかの手を打っていれば大きな災害に至らなかった(または減災となる)という事を学び、講義で必ず話しています。

 韓国の高校生295名の命を失ったセウル号沈没事故、先ほど触れたJR西日本の尼崎脱線事故、古くは、大西洋を横断する”不沈潜”と言われたタイタニック号の1,200名以上の死亡者を出した沈没事故、そして挟まれ巻き込まれに代表される労働災害(死亡)などなど、歴史が多くの教訓を残しています。理論としても「スイスチーズモデル」でも同様の考え方が述べられています。

 私は実践論者ですから、こうした兆候をどのように観きるか、現場観察の仕方や気づいたときの行動の取り方、特に現場から上がってきた声の受け止め方と対処の仕方が重要だと考え指導をしてきました。

 

 今回も新聞情報などから、異音、異臭の確認、そして煙の確認をしていながら新幹線を止めて確認する作業を怠り、現場の状況報告を受けた指令室が運転可の指示を出したとありました。JR東海へ引き継ぐ大阪で、「異音異臭などがあったが問題なし」と引き継いだとされています。良かったのは、JR東海がやはりおかしいことに気づき、名古屋で点検することを決断したことでした。

 

 5つめの兆候を確認した段階で車両運行を止めたことで1,000人以上の乗客の命、いやそれ以上の大惨事を防ぐことにつながりました。

 もし、このまま走行していれば間違いなく大惨事で、日本中が大混乱になっていたでしょう。

3.「気づき・気がかり粗末にするな、気づいたらすぐ行動に移せ」

 この言葉は、私が設備メーカの総括安全衛生管理者だった時に使っていた言葉です。ハイリスク99%の仕事と言っていた会社です(高所作業・重量物取り扱い作業・重機作業などが主体であったことから)。

 気づきというのは人によって経験によって違います。この経験がものを言うのが現場です。大切なのは「いつもと違う」「決めていたことと違う」と言う感覚です。この感覚をつけるために時間を掛けて訓練をしているはずです。

 団塊の世代と言われた経験を積んだ人たちがいなくなり、深い経験が無いまま任されている作業員の増加、その間に技能の伝承に力を注いでこなかった経営陣、利益至上主義(少し言いすぎかと思いますが)の考えが強くなりすぎて、定時運航・生産第一が大前提になっていたのではないかという全体の意識の問題などが頭をよぎります。

 いろいろなケースがありますが、私は、「変な感じがする」と感じたら「一旦作業をとめよ」「関係者を集めて全員に話しをさせよ」、その中から一つを決めて守らせ、守れないときは再度止めよと言ってきました。この作業を止める勇気、そして責任は常に上司(責任者)にあることを機会があるごとに言ってきました

 上司・司令室などは一旦現場の声を受け止め、最悪の事態を想定して判断をすべきだと思います。その訓練が足りないと大惨事の後で後悔することになります。しかし、それでも作業者は納期やコストを重んじます。だから事故がなくならないのです。

 挟まれ巻き込まれ災害の多くが「止めず災害」である事が、このことを表していると思います。難しい問題である事は事実です。それだけに飽くなき挑戦をしていかねばならないと思います。

 五感に頼った検査も大変有効だと思っています。ハンマーで打音を聞くことで異常の発見ができることは多くあります。ドライバー(正式な道具もあるが)でモーターの異音を聞くことも保全マンはやっています。問題は、何処の部位のどういう異常を想定して実施しているかという事です。重要な部位、過去の補修履歴、事故履歴などから実践的な訓練が必要になります。

 しかし、人に頼った活動に限界のある事も事実です。検査機器の技術的な発展などで人の技量の低下や見落としがカバーできる事もやっていかねばなりません。高速エレベーターでは、常時監視が進んでいると言うことも聞きます。「安全は技術」と言う言葉をもう一度かみしめ、更なる研究をしていかねばならないと感じました。

4.教育と訓練の重要性

 人を育てるのには、時間がかかります。企業経営には難題も多く、人財育成に時間が割けていないという実態もあります。私の勤めていた会社では、現場の人を一人前にするには、17年かかると言われてきました。18歳で入社した人を、第一選抜で職長にする為に要する時間を言っています。全ての行程が理解でき、異常処置もでき、人に教え・育てることができ、上司・技術者にも意見が言える人にする事です。これは子供が生まれてから社会人として羽ばたく時間に似ています。

 モノづくりは人づくりです。このことができない会社は淘汰されていくのではないのでしょうか。そして安全活動は、結果として人づくりに最も適した活動と考えてやってきました。

5.管理者の教育の重要性

 このことも先のブログで述べていますが、多くの企業で現場指導をしている中で、現場を知らない管理者が増えている感覚があります。災害経験も少なくなり(良いことなのですが‥)、実感として災害が想定出来ない、上司や本社を観て仕事をする人たちの増加(そうさせているトップの問題も大きい)、意見を言っても聞いてもらえない感覚から、受け身の仕事をする人たちの増加などまさに”忖度”(必ずしも悪いことではないのだが、使い方が問題)が、はびこっている事などどこから手をつけていけば良いのかという感じです。 

 大事なことは、人の命は何よりも大事だと言うことです。今まで何回も触れてきましたが「最悪の事態の想定」「重篤災害に特化した活動」を積み重ねて実践していくことが大切だと思います。

6.チャンスを与えられている時

 品質問題が頻発している現状をどう捉えるかです。幸いにも事故や人的被害が出ていないのが不幸中の幸いです。この時だからこそ、思い切った議論ができるのではないでしょうか。

 やった人が悪いという事で終わるのではなく、真の原因と対策をみんなで考えていかなければ、今度は大惨事が発生してしまいそうで心配です

 過去の戦争もいくつかの兆候があったが止められなかったと言われています。日本は何処に向かって進むのでしょうか? 私たちの次の世代へのバトンタッチはどのようにしていけば良いのでしょうか。皆さんと共に考え、一つでも実践出来ることからやっていきましょう。

 

 

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