2024年3月19日更新安全活動は足し算?引き算?
今年は、1月1日の能登半島地震、1月2日の羽田空港での飛行機事故という大変大きな災害・事故からのスタートとなってしまいました。二つとも複合的な難しい要因を抱えているだけに、軽々しいコメントなどをすべきではないと思います。しかし、私たちは、こうした災害・事故の教訓を考え今後に活かしていく事も大切なことだと思います。「活かし・つなぐ実践的な安全活動」を提唱してきた者として労働災害の未然防止への活かす視点・教訓を考えました。一つでも共有でき、実践に移していただければ嬉しいです。(文責:古澤 主に報道などから引用。私見も入ります)
1.“減災”のための活動の大切さ
能登半島地震は、1~2千年に一度しか動かないとされていた活断層のずれが300年ほどしか経っていない中で発生したとのこと。人は、自然災害、特に地震・津波・大雨などに勝てないと言うことを思い知らされることが近年多くなっている気がします。人類が誕生してから今日まで、これらとの戦いの歴史だったのだとも思います。今まで英知を結集し対策をとってきたからこそ何もしない時に比べ、大きく減災がなされていると思います。阪神淡路大震災(1925年1月)では、倒壊した家具の下敷きになって亡くなった人が多かった(死者の約80%とも)と言われた事から私は、家具に全て突っ張り棒をし、逃げるための靴をベッドの下に置く、食料備蓄などの対策をやってきました。また、市の調査で耐震基準に合わなかったので、家を建て替えガスをやめてオール電化にもしました(最近電気代が高くなって困ってますが‧‧‧。豊田市の住宅の耐震化率=95%と報道がありました。)。しかし、今回の能登半島地震のすさまじさを映像で見たらその程度では、とても耐えられないことを自覚しました。しかし、減災のためにできることはしなければと思います。家そのものの倒壊があれば無意味になってしまいますが家具は、ワイヤーなどで再固定しようと考えています。
今後30年の間に70%の発生確率と言われている南海トラフの動きから発生する東海南地震は、約30万人の死者、160兆円超の損害が発生すると予測されています。「最悪のことを想定」して何らかの対策をとっていこうと労働災害未然防止活動でも言っていますが、能登半島地震を見ても、とても難しいことがわかります。能登半島地震は、“半島”で発生したこと(救助に向かう道路の寸断などで孤立集落の発生などへの影響)、年配者が多いこと、震源地が陸に近く津波の来る時間が早かったこと、珠洲市への原発設置案の影響とも言われるが、M7.1程度の地震が発生するという調査はあったものの確定されず、情報の発信もされなかったこと(報道による)、その影響もあり、耐震調査や対応ができていないことから家屋の倒壊が多かったこと、水道・電気などのインフラ整備も十分とはいえないことなど、内陸での災害とは状況が違っていたとも報道されています。逆にコミュニティがしっかりしていたことで高台への避難が早かったことや、避難所での混乱が少なかったと言うことも報道されました。東海南地震の研究会の提言にもありますが、個々人がまず何らかの行動(家具の固定、食料の備蓄、避難訓練など)をとることで想定の1/10の被害にすること(減災)は可能と言っています。新たに活動を追加する(足し算)というよりは、従来から言われている活動を地域・環境に合わせて(引き算して)“シンプル”に決め個々人そして自治体などが実行すべきだと思います。ゼロ災にはなりませんが、“減災”につなげる努力は必要だと思います。
2.人はミスをする動物と言う視点
1月2日の羽田空港でのJALと海保機の衝突事故では海保機の5名が亡くなるという大変残念な事故になってしまいました。飛行機事故で死亡する確率は、自動車事故で死亡する確率の1/2000と資料にありました。今まで、航空に関係する多くの人たちの努力(設備・システムなどの安全技術+運営・訓練など)が積み重なっての結果だと思います。しかし、飛行機事故は、一度発生すると大変多くの命を落としかねません。今回は、JALの乗客・乗員379名全員が脱出できたことは奇跡とも報じられています。機長をはじめCAそして乗客の冷静な行動・判断が素晴らしかったと思います。
労働災害に活かせるキーワードは、次のようになるのではないかと思います。
①共同(協同)作業時の“合図の具体化”と人の“勘違い”
原因の一つとして、「ナンバーワン」と言う言葉のやり取りが報道されました。管制塔とJAL、海保機、他の飛行機との連絡・連携で離発着をコントロールしているわけですが、海保機が能登半島地震への対応として物資を運ぶため通常のスケジュールへ割り込む形になっていたこと。つまり、飛行場としては“非定常作業”が発生したことになります。海保機としては、「早く飛び立たねば」「早く能登へ向かわなければ(能登へ向かうのは3回目)」と考えたとしても当然だと思います。同じ環境・目的を共有している場合の相互注意は不可と言う現実です。優秀な人たちだと聞いています。指示は「“ネクスト”ナンバーワン」だったようです。滑走路前で待機する復唱復命もしましたが、滑走路へ進入しても誰も間違っていると思わなかったのです。防ぎようのない“勘違い”は起こると言うことです。災害が発生すると「ヒューマンエラー」とか「なぜミスを防げなかったのか」など結果論を論じる人が多くいますが、「背景要因」は単純ではないと言うことを知るべきだと思います。「合図」のあり方を考えてみてください。
②責任追及より、原因追及を優先することが大事
報道にもありましたが、「日本は、すぐに警察が調査に入る。これでは真実が出なくなる恐れあり」と。次へ活かすためにも、もっと「原因調査に重点を置くべきである」とありました。私は、「その通り。同感」と思います。「責任追及より、原因追求(特に背景要因分析)が大切」なのですが労働災害分析でも多くの企業が間違っています。「やったやつが悪い」という分析では事故はなくなりませんし再発につながっています。マスコミも、もっと調査結果をしっかり報道すべきだと常々思っています。
③監視を人任せにすることは危険、でも最後は人
対策の一つとして、「滑走路への誤進入検知の画面を監視する人を追加する(管制塔)」がありました(足し算)。私は、愚策だと思います。昔、「ロボットのティーチング作業時は監視人をつけること」とありましたが、私は、「殺人者をつくるルールは反対」と考えました。人は、連続して一つのことに集中することはできないとヒューマンエラーの研究者も言っています。ほとんど問題のない状況で瞬時に非常停止ボタンを押せと言われても、目を離した瞬間に事故が発生したらその人の責任になるというのはどう考えてもやりたくない作業です。今は、イネーブルスイッチを持って自分の身は自分で守るようになっているはずです(安全は技術でカバー)。飛行機の場合は、世界との兼ね合いもあり大変難しいテーマだと思いますので、対策のための対策ではなく、現場をよく知っている関係者の意見をしっかり聞いて対策をとってほしいです。
④“多忙”は人のミスを誘発する
今回の事故は、最も離発着の多い時間帯と言うことも背景要因にあります。「忙(心をなくす)しい、急げ」と考えたときほど「今やるべき事を一つあげるとすれば‧‧‧」という思考ができるような訓練も必要だと思います。最近の品質問題も「短期間・短納期」がキーワードになっていて、手抜きを“させて”しまっています。難しいテーマですが、特に与える側の経営者・管理者・発注者は、知恵を絞って「最悪の事態の想定と対応」をより深く考え、実践したいものです。
3.災害が発生すると足し算が多くなる
災害を起こしたくて起こす人はいません。特に重篤な災害を発生させた人たちは、将来を期待されていた人たちが多いです。災害は複合的な要因で発生しますし、対策も難しくなっています。ところが多くの企業の指導をしている中で感ずることは、災害が発生するたびに「ルールが増えていき(足し算)、訳がわからない状況」になっていることです。安全活動は、負の遺産なのでやめるわけにはいかないと言う声も多く聞きます。結果的に、形だけのルールになり、管理者(発注者)の免罪符ルールになっています。また、形式的な活動を延々と続けることにもなっています。わかりにくいルールや活動を、もっと統合してシンプルにしてより守りやすく、理解しやすいルールへカイゼンをする、重点指向の活動へつくり直す努力(引き算、分かり易さへのカイゼン)をなぜしないのか不思議でなりません。足し算だけでは、現場の人たちは「ネガティブ思考」になってしまいます。もっと「前向き思考」にしていくためにも、多くの事故・災害をより良いものへしていく機会と捉えられる展開を期待したいです。私も微力ながらこうした考え方を広めていきます。
※軽々には言えませんが、震災前にいやそれ以上の復活・復興を心から願っています。多くの人たちが支援に入られています。時間がかかっても必ずできると思います。また、能登へ向かう中で、飛行機事故に遭われた海保の皆さん、ご家族の心中も少しずつ日常を取り戻されることを願っています。
記事一覧
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