2016年6月15日更新腹落ちした活動とするには「具体化」と「共有化」
1.形骸化した活動からの脱却
⑴ 危険予知活動の効果と課題
先月、災害低減に効果を上げてきた活動(危険予知活動、ヒヤリハット活動、指差呼称など)が災害の減少や就業形態の変化などから、形骸化が進んでいると書きました。
危険予知活動は、安全に対する感受性の低い新人や、仕事に対する経験の浅い人がベテランと一緒になって実施することで、仕事に対する知識を身につけ、感受性向上へとつながっていくものです。
では、場面としては、どのような時に有効なのでしょうか。
例えば、作業要領書のない作業が生じた時、非定常作業(具体的な作業区分・定義が必要……別途触れます)が発生した時などに、関係者が集まって、危険な作業と注意ポイントを確認する際には有効です。
しかし、新聞に載っていたニュースには、町のそば屋で大きな器に入っていた天かすが蓄熱して油に火がつき、大火事になった例や、購入したばかりの洗濯機に子供が入り、フタが閉まり窒息死した事故、さらにはパウダーをまき散らすコンサートでの粉じん爆発事故など、深い専門知識がなければ危険予知できないことを物語っています。
また、最近企業で発生している大きな事故では、爆発に対する知識を持った人たちが「措置をしたから大丈夫」と思って作業をしていて、爆発し多くの死傷者を出している例もあります。
人は、自分が大丈夫と思った段階で、危険予知力が働かなくなります。これは、危険予知活動の限界ともいえるでしょう。危険予知力を高めるためには、より具体的に専門知識を身につける教育・訓練がとても大切です。しかしながら、人の育成には時間がかかるのも、また現実なのであります。
⑵ 工事における危険予知活動の進め方
工事現場では、一般的に朝一番でTBM(ツールボックスミーティング)を全員で実施し、一日の作業の中で、最も危険な作業と防止ポイントを絞り込み、全員で確認しサインをするなどの活動をしています。
ある建築現場を巡視している時のことです。その現場では、「安全帯着用ヨシ!」というテーマが決まっているのですが、安全帯は床に置いたままです。「いつ安全帯をするのか?」と聞くと、「午後から高所作業なので、午後から実施します」という回答が返ってきました。これこそが形骸化した活動の典型で、これでは確認作業する意味がありません。
そこで、8時、10時、13時、15時、17時と、1日に2時間単位で重篤災害につながる作業内容を一つ決めさせることにしました。
休憩の都度、全員でより現実的で具体的なテーマに細分化することで、全員が同じ意識になり、行動に結びつきやすくなりました。そして全員が行動に対して同じことを言えるようになったのです。
この「共有化」と「具体化」こそが重要であり、危険予知活動の訓練から実践へとステップアップできた良い例だといえるでしょう。
⑶ リスクアセスメントの課題と進め方
危険予知活動は、最後に危険な作業を一つに絞り、徹底する活動でもあります。アレモコレモ決めてもなかなか守れないので、この方法は有効です。
しかしながら、重篤な災害につながる要素は複数あります。それなのに「一つに絞り込んで良いのか?」と言う疑問も残っていました。
もちろん、危険予知活動を否定するつもりは毛頭ありません。とはいえ、重篤災害を減らすためには、「リスクアセスメント」が最も有効な活動ではないかと思うのです。
リスクアセスメントは、重篤な災害を漏らさないために「網羅的に洗い出す」ことが求められています。しかし現実は、多く洗い出されているのは、“滑った・転んだ”レベルの危険に留まり、肝心な重篤災害が洗い出されていない現実に直面することが多いのです。
それは、ヒヤリハットと同じ問題背景があるように思います。すぐに対策が打てないのに、重篤度の高い作業を洗い出してしまうと、自分自身に負担がのしかかるからである(”天につば”の活動にしてしまっている)。まさに「リスクアセスメント表づくりごっこ」活動になってしまっているのです。
では、どうしたら有効な活動にしていけるのでしょうか? そこで私は、「最悪の事態」に絞った洗い出し訓練を推奨しています。
最悪の事態とは、命を失うこと。また、命こそ助かったとしても、重い障害が残ってしまうようなケースです。それを常に頭に置きながら、“どうしたら死ねるか”、“どうしたら障害災害になるか”、“災害を起こすにはどうすれば良いか“と言う逆転の視点と発想で、作業を見る訓練をすることが重要なのです。
現在起きている災害は、ほぼ100%再発(企業内、業界内)と考えて良いので、過去の災害事例を自社・自職場に置き換えて設定すると良いでしょう。過去の災害の発生要因分類をして「パターン化」する事が、洗い出しにつながっていきます。
例えば、挟まれ巻き込まれ災害なら15パターン程度になります。自分や自分の仲間が、命を落としたり、障害が残る災害にあうことは絶対にあってはなりません。より具体化をして、本気で取り組む環境を作らなくてはなりませんが、管理者は、重篤な災害対策に対して即100点を求めないことも大切です。
一つの改善テーマに対して、60点くらいとれたら次のテーマへ移っても良いとします。そして又、改善を進め60点取ったら次のテーマに‥と続け、又元のテーマに戻ると今度は70-80点とれることが良くあります。一つのテーマにかかりっきりで100点を求めていくと他のテーマはその時点ではゼロ点なのです。トータルで前進できる方法を考えてみて下さい。
PDCAのサイクル(※1)を回し、まず「減災」が進むようにすることを、第一の目標とします。そしてひとつずつ改善の達成感を感じられるような指導をすることが、次の改善につながって行くのです。
※1 PDCAサイクル:(PDCA cycle、plan-do-check-act cycle)は、事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法の一つで、 Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4 段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する。
2.具体化して共有化する事で腹落ちする活動に
多くの企業を指導する中で私が感じることは、安全衛生に関する会社方針や部・課方針がきれい事だけが羅列され、具体的内容がないケースです。
現在は、どの企業でもリスクアセスメントを実施しています。その中から会社として、部・課としてリスクの高い作業・設備に対して、具体的にどのような改善をしていくのかを明確にする必要があります。命を失ったりケガをするのは、現場で一生懸命働いている人です。
ターゲットを具体化して、そして一緒になって考え、実践出来ることから具体的に改善を推進していく活動を進めれば、「腹落ちした活動」になって、人の成長にもつながり、成果に結びつくはずです。
形骸化した活動から、腹落ちする活動へと変革していかなければなりません。
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