ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2025年6月18日更新安全衛生推進者の役割について~そのⅡ~

 「五月晴れ」私が大好きな季節です。私が住む愛知県豊田市は、総面積の約7割が森林(山)です。この季節は特に山の方へのドライブが増えます。しかし、今年は、この爽やかな5月は真夏日だったり寒くなったり、雨の多いまるで走り梅雨のようであったりと様変わりしています。少し寂しさも感じています。「目に青葉‧‧‧」と言うように5月の山々は新芽がとても美しく眩しく感じます。この時期の若葉の色はなかなか絵の具などでは表せないと聞いたことがあります。まさに自然の美しさですね。

 さて、先回のコラムいかがでしたか?考えるきっかけになっていれば嬉しいです。コラムは、反応がなかなか感じられず講演のようにはいきませんが、今回は、続きを書いてみます。

1.「言葉の大切さ」

(1) “優しく分かりやすく”が大前提

以前にもコラムで触れたかと思います。言葉は意思を伝えていく大切な道具です。その使い方に問題を感じています。多くの現場で抽象的な言葉を使いすぎていることです。特に気になるのは、「注意表示」です。「言語明瞭意味不明」と言ったところです。「挟まれ注意」「高温注意」「足下注意」等多くの表示が現場にありますが、実際に行動について問うと答がバラバラです。表示することが目的化しているのです。注意の具体化・具体的表現が必要です。表示そのものを管理者やスタッフの免罪符としてはいけません。また、貼りっぱなしは景色化してしまい何ら役に立っていません。うまい活用法もあるのにもったいないです。また、安全衛生方針を作成する場合、英語や造語は極力避けた方が良いと思っています。目新しさの追求のため?英語などを使うことが多く見受けられますが、これも具体的行動には結びつきにくいです。「リスクアセスメントの目的は?」と講義で問いかけても分かりやすい答えが出ないのですから。先回も「腹落ちしてナンボ!」と書きました。現場の人たちが腹落ちしてこそ災害の未然防止につながり、活動の成果・落としどころが見えてくると思います。同じ職場で同じ言葉が出るようであれば大きな災害はでにくいのです。

(2) 時と場を考えて

 「米は買ったことがない、売るほどある」と言った大臣が更迭されました。分かり易さと受け狙いだったのでしょうが、タイミングが悪い、立場が違う、多人数の前‧‧‧など時と場を考えず話したこと、もっと言えば心に思っていることがでてしまったことがもっと問題なのです。政治家が失言とされる言葉は頭に「た」がつくことが多いと紹介されていました。私たちも気をつけたいですね。

管理者が、現場の人に丁寧語で語っても相手に響きません。命令口調も良くないです。相手によって言葉遣いを考えていかねばコミュニケーションは深まりません。私の実践経験で言えば、「現場目線」「現場言葉」を心がけてきました。部下であっても年上の人への声かけは、その人の人生を尊重して、職人には、職人言葉で語りかけていました。多人数の場合と一対一の場合とは話し方を変えています。気持ちが通じなければどのようなテクニックも通じないことは当然ですので、日頃からの自分の人間性などを磨く努力が必要と言うことになります。そういう私も多くの失敗があり、今があります。じたばたしながら、悩みながら経験を積んでいきましょう。 

(3) 案衛法の展開

 スタッフの皆さん!「法を盾にとって‧‧‧」語っていませんか?犯しがちのミスの事例です。「なぜこんなことをやらなければいけないんだ」と問われたとき、答えに窮して「法で決まっているから」と言っていませんか?それでは相手は黙ってしまい会話が続きません。

「案衛法は、過去の災害の教訓」と私は思っています。50年前に制定されたものです。守るべきものですがその通りやらねばならないものでもないと思っています。行政も「法は最低限のこと」が書いてあるといっています。全ての企業に当てはまるというものでもありません。時代と共に、また、企業規模によっても、職場環境によってもやり方は違っても良いはずです。より良い活動を展開することも駄目とは言っていません。大切なのは、「法の心・何を言いたいのか」と言うことを理解することだと思っています。一言で言えば安全衛生活動は「命を守る活動」であり、「未然防止をすること」が事業者に課せられていると言うことです。先回書いた「何のため・誰のため・いつ使うため」の活動であるかと言うことに対してまず、自分自身が腹落ちさせることがいかに大事かと言うことだと思います。「難しいことを分かりやすく伝える」努力をしましょう。

2.改善活動につながらない活動は一旦やめてみる

(1) 安全活動が企業体質強化につながっているか

 災害には、「背後要因」があると書きました。未然防止活動が重要であり、起きてからなら誰でも言えるのです。そのために仮の災害を想定し(どうしたら災害を起こせるか)、そして対策として「何をしていれば良かったか」を整理することが必要です。対策の取り方の順番は、「管理面(管理者として)⇒物的面⇒人的面」として欲しいです。災害が発生したときの報告様式が「人⇒物」の順になっていることが多いです。そのために「やった奴が悪い」と言う報告書になってしまいがちです。対策が、人に対する「再教育・再徹底」と言うだけでは解決しません。その背後要因を特定して真の問題を追及して具体化しなければなりません。

管理者、スタッフは「自分の娘・息子の命」を預かっているのです。ルールを守らない奴が悪いのではなく「守れない(守りにくい)状況」があったのです。「設備のチョコ停」が多かったり、人が足りなかったり、雇用形態が変化していたり、技能教育がしてなかったり‧‧‧等など職場の課題が顕在化した物が災害なのです。管理者(親の立場)側がまず反省をして部下(子供)を守るための環境づくりをしていく策を示していかねば、現場はついてきません。結論としては、それらの問題を解決することは、生産活動そのものを改善することにつながります。改善に結びつかない安全活動は一度やめてみても良いと思います。

(2) 人づくり・チームワークづくり

 上記の改善活動を続けていけば「成功体験をする」ことができて、次のテーマへ挑戦する意欲が湧きます。そして日本の企業の得意とする小集団活動でチームワークが良くなっていきます。ドジャースの大谷選手・ベッツ選手・フリーマン選手だけでは、チームは強くなれません。個々人のレベルを引き上げていくことで、回りが更に引き上げられていくことにつながり、チームとして強くなっていくのだと思います。人は、活動の過程で育ちます。改善活動発表を聞いていると「改善前と改善後。特に結果重視」になっていることが多くなっているように思います。役員などから「結果だけで良い、事実だけ述べよ」等の指示が出ることも影響していると思います。私は、「過程こそが人を育てる」と思っています。もったいないです。いきなり成功する事例は少なく、失敗して失敗してやっと成功に至る訳なので、どういう視点でやったら成功したのか失敗事例と共に苦労した内容を発表し、聞いてもらえることが、他の人にも勉強になるし、実施者本人も達成感がより強くなると考えています。このことは、安全活動が、人づくりに繫がることと考えることだと思います。

3.組織・人を動かす

 安全衛生部署は、「命を守る」活動の推進部署であり、「事業者」から業務を委託されている訳ですから「全ての領域にものを言って良い唯一の領域」なのです。「私は機械のことは分からない、電気のことは分からない、現場のことは分からない」と言い訳をするのではなく、目的に向かって知識を持っている人をどのように巻き込むのかを考えて企画すべきです。

昔、ある役員に教えてもらった内容を紹介します。「私が上司(社長)に自分の考えた方向の発言をして欲しいと考えた時、挨拶文などの原稿に自分の考えを織り込んで提案した」「方針作りにどう織り込むかを真剣に考えた」と言っていたことを思い出します。安全衛生スタッフは、会社トップと近い関係にもあり特別な職務なのです。トップを動かし現場を動かす。そして問題解決を進めるわけですので「安全はマネジメントそのもの」の推進役と言って良いでしょう。力をつけていかねばなりません。テーマを決め、挑戦をして、経験を積みましょう。きっと「安全衛生スタッフは面白い」と感ずるときが来ると思います。更なる「ファイト!」を期待しています。

 

  • 今回もさらっと触れましたが、安全衛生は奥が深いです。2回にわたって書いた内容を皆さんと深く考え、一つずつ実践していく討議をすればどれだけの時間が必要でしょうか?是非、活かしていただけることを願っています。意見・質問・実践したときの苦労などコメントをいただけると更に嬉しいです。

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