2019年6月19日更新より・安全で、安心な時代“令和”をつくろう~“平成”を考えつつ~
元号改元フィーバー?は、いかがでしたか?時と共に日常が戻ってきています。時の経つのが早く感じられる今日この頃です(年齢がそうさせるのか?新しいことが頭に入らないからか?)。皆さんも新しい時代へ何かを期待して、心が少し踊っていたのではないでしょうか?安全・品質・環境という切り口で平成を振り返りつつ新しい時代“令和”をどのようにつくり、未来へ残すべきなのか少し触れたいと思います。(以下、私個人の見解が多く入りますので、文責は古澤にあります。)
1.戦争の無かった時代”平成”
素晴らしい事だと思います。世界のどこかで人と人が殺し合っている中で日本は、戦争が無く、戦いで亡くなる人もいなかったことは素晴らしいと思います。平成天皇は、戦争の傷を少しでも埋め、将来の平和を願ったご活動が多かったと思います。多くの国のトップが自己中心的な人が増え、いつ何が起きてもおかしくない状況に感じているだけに、この国にいる私たちがこの誇れることを大事にしていかねばならないと思います。
2.大きい事故が発生した時代
⑴ JR西日本尼崎事故を考える
全てがすぐに出てこないほど、事故や災害が多かった時代でもあったように思います。私の記憶に焼き付けられている鉄道事故の中では「600人以上の死傷者を出したJR西日本で起きた尼崎事故」です。先日、時間がとれたので、あの事故現場に建設された「祈りの杜」(是非皆さんも一度は訪れて欲しい場所です)を訪問してきました。過去の痛ましい教訓を後世に残し二度と同じ事故を発生させないという誓いから遺族とJR西日本が話し合ってできたとのことです。資料館には、無くなった家族や友達からのメッセージも展示されています。読んでいて涙が出てきます。突然、家族や友人を失った喪失感から出てくる言葉は心に刺さりました。資料館を安全スタッフ目線で見ましたが、私の感覚としては、若い運転手の過失という点が少し強くでていたかなと思います。あのカーブを(見学中に何度も電車が通過しましたが‥)40kmものスピード超過で走った事が主原因ではありますが、その前に発生していたいくつかの兆候(異常)が活かされなかったこと。何故、事前に防ぐことができなかったか、人のミスを防止する設備的な措置(ATS=自動列車停止装置の設置)が何故もっと早くできなかったのか、こうした教訓を鉄道だけでなく多くの企業が「活かす」事ができる内容をもっと強調して欲しかったなと思いました(短時間で見た範囲の個人的感想です)。何でも話し合える職場風土づくりの大切さや、懲罰の強調をする責任追求型から原因(真因)追求型の活動とすべき運営方法、アレモコレモの対策よりできること・やれることを一つでも実施して”減災”につなげていくことの重要性などが私は大事な教訓だと思います。
⑵ 福島第一原発事故を考える
津波という自然災害が直接的な原因とは言え、いまだに先の見えない、帰ることのできない土地をつくってしまった原発事故(環境汚染)、現段階では人間の技術では何ともできない現実を突きつけられています。「最悪の事態の想定」が、企業活動にとっても、安全活動にとっても大変重要なことは今更言うことではありません。安全活動にとって、最も重要な柱であるリスクアセスメントの本質の実践ができなかったことが今でも悔やまれます。津波の予想ができていたが「費用対効果」の判断で手を打たなかったこと、最悪のこと(メルトダウン)への技術検討もされていたが、最後まで実践できていないこと等が課題として残ったと思います。原子力の有効活用技術の研究は、今後も続けるべきだと思います。人類に役立つ技術として確立をして欲しいという願いは持っています。人間がコントロールできるように英知を結集していくことが世界規模で必要でしょう。ただし、現段階では、これだけ毎年のように、日本全国で地震が発生している事を考えると怖さもある事も事実です。最悪のことを想定して一つでも手を打つという教訓が活かされているという実感が出ていないのは私だけでしょうか。各企業が相変わらず”リスクアセスメント表づくりごっこ”から脱却できていない現実はこの教訓が活かされているとは思えないのですが‥。
⑶ 品質不祥事問題を考える
平成の終わりには、”はしか”のごとく流行してしまった品質問題は、日本のものづくりの危機と言っても言い過ぎではないと思っています。ほとんどの事案が、内部告発でしか解決できない企業体質を生んだ原因は、複雑で複合的問題を含んでいます。しかし、一つ言えることは、「利益至上主義と保身」に走った経営者・管理者がいたということです。各社とも問題に気づいていたこと、現場から声も上がっていたことです。そのことを中間管理職以上の役職者が判断を間違えたことです。人の命に関わる製品データが改ざんされていたことに今でも怒りを覚えます。誰のための会社なのでしょうか。企業は「社会の公器と思え」と教えられてきました。お客様を欺く企業が存在し続けることはないでしょうし、あってはならないと思います。社内で自由な発言ができない企業、発言しても無視されてしまう企業、CSとかコンプライアンスだとか、うたい文句は言うものの現実は、かけ離れている構造になっている企業と言う姿が浮かび上がってきます。組織的問題と言ってしまうと大きく捉えすぎですが、一人ひとりが「仕事の質を地道に継続的に向上していける集団づくり」を進めていかねば、「メイドインジャパン」は、過去のものとなってしまいます。「終身雇用維持困難発言」も経済界のトップからでています。組織は人、人は財産、モノをつくるのは人だから、人をつくらねばモノはできないと言う考え方をもう一度考えてみたいと思います。
3.令和に入って
⑴ 大津の自動車事故を考える
直進車と右折車両が衝突した弾みに、園児の輪の中に車が突っ込み死傷者を出すと言う大変悲惨な事故が起きました。残された家族の何とも言いようのない心の傷は、消えることはないでしょう。加害者となった人・家族も大変な重荷を背負っていく人生になるでしょう。
TVに映し出されるその後の交差点の映像を見ても右折車両が、何事もなかったように前車について右折しているのを見ると、他人事で終わっているなと思います。交通KYシートに必ずでてくると言って良い事例で、右折時の注意事項(直進車両の陰にはバイクや人がいるかも。必ず目視してから発信しよう)です。日頃の「良き習慣化」を継続して身につけねばこうしたことを招きます。一秒二秒の一呼吸をおくだけの習慣化は、多くの場面で活かす事ができます。
⑵ 横浜の新交通システムの暴走事故
労働災害の下げ止まりの原因は、「人に頼った安全活動の限界」と言っています。人は、エラーするという前提、ミスをしても事故にならないハード的な対策が必要と言ってきました。その究極の対策の一つが今回事故を起こした自動運転システムであったかもしれません。この原稿を書いている時には、「システムには異常なし・運転手をつけて再開」と新聞に載っていますが、では何故逆走したのでしょうか?想定出来なかったシステム異常があったことは間違いないと思います。分析に1年かかるとも書いてありました。距離が短くスピードも低かったことで大惨事は免れましたが、大問題です。鉄道の運行システムは、安全面でも最も進んでいると私自身思っていただけにショックでもあります。多くの自動運転システムの見直しが迫られています。車も自動運転の方向のニュースが競争のように流れますが、条件限定でしかやってはいけないと以前から思っています。「自動」の安全確保と定義付けをしっかりする課題が提起されたと思います。
4.教訓と方向性‥ハード面とソフト面のバランスをとった対策の推進
IOTやAIといった技術は、これからドンドン日常生活や、職場に入ってくると思います。しかし、私は、人の苦手な部分・エラーを防止するなどに対する補助程度にしておき、人間としての感性を磨く訓練や人の持つ能力・良さをもっと引き出す活動をやっていかねば、もっと大きなしっぺ返しが来るのではと思っています。技術の探求は大切だと思います。プラスチックゴミの海洋汚染問題などは、以前に起きたフロンガスのオゾン層破壊問題、PCBや断熱材のアスベストなどの人体への影響、時の夢の発明品などと言われた便利な物質は、結局最悪の物質指定になりました。なかなか難しいことですが、便利さの追求だけではなく、人としての良さを引き出せるように学校教育から家庭環境から企業内の教育など見直して行くことも必要になってきていると思います。ハードとソフトのバランスを常に考えつつ「安全で」「安心して」働けて、そして暮らせる世の中をつくっていきたいですね。一人ひとりがこうしたことを考えていくことが必ず住みよい社会をつくっていくことになると思うのですが読者の皆さんいかがでしょうか‥。
記事一覧
- 日本の明日は大丈夫?
- “話す力・伝える力”と“言葉の意味”を考えてみる
- 安全活動は足し算?引き算?
- コミュニケーション力向上の心構え
- 最近の関心事から“雑感”
- 安全教育を充実させていく“肝”
- 先人の偉業と教訓そして実践
- サッカーワールドカップと俯瞰力
- 安全衛生法制定50周年と今後のあり方考察
- 水の大切さと恐ろしさ
- 冬季オリンピックと平和を考える
- コロナ禍の教訓を労働安全活動に活かす ~2021全国産業安全大会・講演要旨~
- モノの見方・考え方を一考する ~本:“どうせ死ぬから言わせてもらう”から~
- 正直に生きる・語ることの大切さ ~“生き様”を振り返る~
- 新型コロナ禍の更なる課題・再考 ~件数・パフォーマンスより内容重視の活動へ~
- 安全衛生方針の重要項目と展開ポイント ~絞り込みと運用マニュアルの活用~
- “新型コロナ禍”から考える教訓-2 ~行動の変化~
- 思い込みの怖さと正しい判断・行動 ~ “新型コロナ禍”から考える教訓~
- “野村克也元監督”の教え・あれこれ ~人を育て残す事の大切さ~
- “ラグビーロス”とその後~“ラグビーワールドカップの感想と実践の大切さ“~
- “人間性(心の持ち方)”について考える~ラグビーワールドカップと“故・平尾誠二氏”の生き方~
- より・安全で、安心な時代“令和”をつくろう~“平成”を考えつつ~
- 継続と深掘り・“不断”の努力の大切さ~“東日本大震災”から丸8年~
- チームワークとリーダーの役割
~“大坂なおみ”全豪オープン優勝~ - ポジティブシンキングの実践 ~“箱根駅伝”の教訓~
- ”腹落ちさせる指導”について考えてみよう ~その4(最終回) 「足:踏み込む」について~
- ”腹落ちさせる指導”について考えてみよう ~その3「口:問う」について~
- ”腹落ちさせる指導”について考えてみよう ~その2「目:観る」について~
- ”腹落ちさせる指導”について考えてみよう ~その1「耳:聴く」について~
- ”環境”の大切さと人の行動 ~“命を脅かす”気候変動~
- まず”減災” 目ざせ”ゼロ災” ~大阪北部地震の教訓~
- “危険なタックル問題”から人の育て方を考える
- 作業標準書・作業手順書の作り方と活用法 ~“守・破・離”の心~
- 薬傷災害から活かし方・つなぎ方を再考する ~事後の百策より事前の一策~
- 気づかい・個のレベルアップとチームワーク ~平昌オリンピックの感動からの教訓~
- 後継者・人の育成を考える ~人の成長をどのようしてサポートするのか~
- 気づき・気がかり粗末にするな 気づいたらすぐ行動に移せ!
- 安全活動と品質活動の“根っこ”は同じである ~安全活動から“本音の活動”を深掘りしよう~
- 機械安全基準の制定と進め方 その2 ~安全・品質・環境は企業活動の根幹である~
- 機械安全基準の制定と進め方 その1 ~激しい向かい風の中を”航行”~
- 「そうだ、古澤先生に聞いてみよう」コーナーへのご投稿について
- 実践的なリスクアセスメントの進め方
~隔離対策のポイント~ - 新コーナー【そうだ、古澤先生に聞いてみよう!】いよいよスタート!
- 実践的なリスクアセスメントの進め方
~「現場リスクアセスメント」の進め方~ - 実践的なリスクアセスメントの進め方 ~重篤な災害に的を絞った洗い出し~
- 安全衛生方針の作り方・活用の仕方
~もっとわかり易く~ - 1年間を振り返って ~現場目線からの提案と報告~
- 非定常作業に特化した活動‥その4 ~重要な柱「ソフト対策」の進め方~
- 非定常作業に特化した活動‥その3 ~真の要因に対するハード対策の推進~
- 非定常作業に特化した活動‥その2 ~洗い出しのキーワードとカイゼンの実践~
- 非定常作業に特化した活動 その1 ~定義付けと洗い出しのポイント~
- 管理者研修の実践 ~第75回全国産業安全衛生大会(in 仙台)講演骨子~
- “新しい安全”「Safety 2.0」と言う考え方
- 重篤災害に的を絞った活動の勧め
- 人を育てる安全巡視の進め方
- 「みる」と「みえる」の違い
- 安全活動はカイゼンの入口と捉えてみよう
- 腹落ちした活動とするには「具体化」と「共有化」
- 産業現場で起きている災害の現状と課題
- 古澤 登(ふるさわ のぼる)プロフィール