ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2023年6月21日更新安全教育を充実させていく“肝”

 「教育は企業活動の命とも言える活動」と考え実践してきました。また、指導をさせていただいている企業への落としどころの一つとしてきました。数年前、「安全に対する管理者教育を実施しているか」というアンケート結果が発表されました。結果は、25%程度の企業が実施していると回答があったと記憶しています。しかし、その中身までの言及には至りませんでした。私が多くの企業を回った実感は、やっていても1-3時間程度、それも安全衛生法のさわり程度が多いと感じています。また、外部講習に頼りすぎという点も気になっています。どうして企業の中で積み上げてきた活動や方向性をトップからそして安全スタッフから継続的に話すことをしないのか不思議で仕方ありません。安全活動は「人づくり」「企業体質の向上」と考えれば、「誰も反対しない有効なテーマ」を使いこなせていないのはなぜだろう?と思います。私は、多くの企業で実践的な管理者研修を提案して、構築してもらってきました。奥が深い活動なのでこのコラムですべてをお伝えできませんが、ポイントを書いてみますので、議論してほしいです。

 

1.資料提供

 日本能率協会主催「第45回 産業安全対策シンポジウム」が2月に開催され、話す機会がありました。その時の資料を参考までに添付させていただきます。(失敗しない教育を企画・推進するための心構え(ポイント))時間も短く、3人のスピーカーが話したセッションの一部と言う背景をご理解の上、読んでみてください。(※ 尚、このシンポジウムは、今年で終了することが決定されました。私が外部講演のデビューした場所であり、そこで多くの先生や企業の人たちと知り合うことができた貴重な場所であっただけに残念であり、寂しさを感じています。)

2.管理者研修の重要性

 今までのコラムでも何度か書いたように思いますが、「部下の命を守る立場」の管理者へ現場経験の無い状態で就くと大変“危険性”があります(私の経験から言えることですが、災害が起きた対策会議でトップから“もっと早く教えてほしかった”と言われたことが心に刺さっています)。知識を与えられないまま職務を全うせよと言われる管理者が、大きな悲劇を生むかもしれないのです。自分自身の一生を台無しにしてしまうかもしれないのです。現場は生き物です。多くの設備があり、必ず故障します。そして人が手を出します。知識の無い人たちが問題の本質を見極めず指示を出すことなど絶対させてはいけないと思います。活動を積み重ねていて、情報を多く持ち、これからどうしていきたいかを指示している安全衛生スタッフの重要な責務の一つが教育だと言えます。しかし、現実は、先ほど書いた「法律のさわり程度」の内容だったり、「“安全活動”を進める形だけ」教える内容では逆に弊害を生みます。教育内容が重要だと言うことです。

 「災害は職場の問題の代表特性」と捉え、災害が発生する前にいかに真の問題をつかみ、未然防止活動をするかが管理者の仕事であるはずです。「災害が起きてからなら誰でも言える」のです。災害が発生する前にどれだけ手を打てたかが大切なことは言うまでもありません。結果として、ムダな作業やムダな設備の改善が進み、生産が安定し、品質も安定し、生産性が向上します。最終的には「人づくり」に繫がるはずです。特に重篤な災害は誰も望まないし、安全な職場づくりのキーワードとして誰も反対しない有効なテーマだと考えるべきです。「安全は、マネジメントそのもの」という考え方を、具体的事例を用いてしっかり伝えることが必要です。そうした内容を語るための教科書づくりと講師育成が大切になります。

3.教科書づくりと講師育成の大切さ

(1) 教えるためのベース

 「先人達の血と汗の結晶」をまとめて教材としましょう。なぜルールが決まったのか、その背景にはどのような出来事があったのか?という歴史を知らずして未然防止活動はありません。課題の見つけ方(災害の起こし方パターン化)、災害対策の手段(あるべき姿の設備安全対策、非定常作業の訓練)等は代表的な教科書です。会社によって歴史も背景も違いますので、各社が工夫してつくってほしいのですが、実践が少ないのが現状だと思います。

(2) 作り方のポイント

 文字を並べるだけの教科書はいりません。ポンチ絵を使ったり事例を入れたりフロー図を多用したり、わかりやすさを基本に60点主義でつくりましょう。皆さんは、あまりにも完成形を求めすぎ、作業が進まないと言うことはありませんか?やりながら追加・修正をしていけば良いのです。私は、「共育」と言う言葉を使ってきました。安全スタッフがすべてを知っているなどと言うことはありません。現場の人たちは現場のことをよく知っています。お互いに知り得る知識をぶっつけ合って作り上げるのが「共育(教育) ≓ 互いに学び合うこと」ではないでしょうか?本当に専門的に設備安全基準や法の詳細を知りたい人のために、ページごとの欄外にそれらを紐付けすることでより勉強したい人は進んでやっていくでしょう。まずは、興味を持たせ、安全活動の有効な進め方を腹落ちさせていくことが大切だと思います。

(3) 講師育成のポイント

 人前で話すことが最初から得意という人はいません。私自身、今ではどのような場面でもほぼ対応できる域にまできていますが(自我自賛ですみません)、それまでどれくらいの失敗を経験したか人には語れないくらいあります(実は今でもついつい熱が入って厳しくやり過ぎて嫌われることは結構あります。自覚はあってもこれは治りません)。一つひとつの「経験」が今の自分を作り上げていることは事実です。同じ事は求めませんが、勇気を持って話す機会(仕組み)を提案して実践する場をつくることです。安全衛生スタッフには、現場経験を多く積んだ人がいます。うまく話そうと考えず、現場言葉で良いのです。気持ちが伝わる方が大事だと思います。私は、管理者教育でも新人に話しをする機会をつくりました。まずは一部分を任せます。勿論、私が部屋に待機はしていますが、よっぽど困るまで口は出しませんでした。毎回毎回、反省会を実施します。自ら相手に伝わったと思うことを言わせ、伝わらなかったのはなぜかアドバイスをして次回につなげます。そして徐々に担当範囲を広げていくと、2-3年で自信を持って話せるようになっていきます。

4.絶対つくってほしい教育とテキスト概要

(1) 管理者研修

 ① 安全活動の捉え方とカイゼン活動の進め方

 ② 重篤災害の原因別発生パターン化(災害の起こし方と対策の取り方)

 ③ 設備安全基準の概要(安全柵・カバー、非常停止ボタン、プラグ、光電管、ロックアウト装置などの安全装置のあり方やそれぞれの目的)

(2) 非定常作業教育

 全国で発生している重篤災害の70-80%は、非定常作業で発生していると言われています。“非”定常だけにどのように発生するか分からないので厄介なのです。設備・作業に詳しくない人が手を出せば、たちまち災害に繫がる危険性があります。業務規定などに定めるべきなのです。安全衛生法で言う特別教育と同等かそれ以上の仕組みが必要だと思っています。非定常作業に就かせる前にどのような知識教育をして、どのような非定常作業を実施することを管理者が許可(指示)していくか仕組みが重要なのですが、現場に丸投げ(任せっぱなし)になっている現状が多いと思います。

①定義づけと責務

  「定常作業の定義≓生産計画に沿って作業標準通り生産している場合」、「非定常作業≓定常作業以外の作業」とすると良いと思います。細部は企業にあった内容に分類して、現場から問題点が上がってくるようにします。とはいえ、現場は、慣れすぎていますので言わないケースが多く、災害が発生してから洗い出されていない課題が判明します。よって管理者が現場に行って作業者と一緒になって洗い出しと改善案を考えることが必要になります。このような進め方まで含めてまとめます。

②カイゼンに結びつける

  理想の設備・ラインはどうあるべきか、構想を話し合い、トコトンムダな設備や、やりにくい作業をカイゼンしていかねばなりません。勿論すぐにはできなくとも、その目標に向かってできることから積み上げていく事こそ生産性向上につながり、品質も安定し、設備故障があっても止めやすく、復帰しやすくなれば結果として災害は発生しないことになります。そして、究極は、カイゼンをやり続ける人と組織づくりに繫がるという素晴らしい活動になります。強い現場づくり活動といっても良いと思います。安全活動をすることが目的ではなく、「安全活動はカイゼンの入り口」と考えマネジメントを遂行するという趣旨の教科書がほしいのです。

 

  • 紙面が足りなくなりましたので中途半端ですが終わります。皆さんにしっかり考えていただけるための問題提起と受け止めてほしいです。質問があればいつでもお受けします。

 

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