ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2019年3月26日更新継続と深掘り・“不断”の努力の大切さ~“東日本大震災”から丸8年~

 阪神・淡路大震災(1月17日)、東日本大震災(3月11日)の発生した日が近づくと記憶がよみがえり、どれだけ時間が経っても心が痛みます。新聞に東日本大震災の津波で亡くした園児の母親が語っている記事がありました。「命の上に成り立つ教訓なんて、あってはならない。だけど、首都直下地震や南海トラフ地震が近いと言われる中、まだ被災していない『未災地』の人に教訓を伝えたい」と。

 労働災害の中でも重篤災害は、下げ止まっています。過去に受傷した人たちや家族・仲間の苦しさを同じように味わうことを繰り返しいることとダブって聞こえてしまいます。今一度、災害の教訓をどう活かして “不断”の努力をしていくのかをこの機会に考えてみたいと思います。

1.まずは「重篤災害未然防止に的を絞った活動」を

(1) 「現場観察・巡視方法の研修」を通じて感じること

 これまでのブログでも全国各地の企業を回って感じた共通課題を紹介してきました。重点指向の重要性、重篤災害に的を絞る活動、それぞれの活動の進め方などを取り上げてきました。

 今回はその中の一つとして、安全衛生方針の立て方・捉え方の課題から話したいと思います。安全衛生方針の目標に災害件数のみを掲げて、結果評価に力点を置いている企業が多くあります。安全衛生活動は、「災害ゼロを“目ざす”活動」と考えていますので結果も大切だと理解していますが、数値管理に力点を置いている場合は、経験則として決して良くなりません。現在の災害の原因は複合的になっていて、難しいテーマが残り、一筋縄ではいかず、下げ止まっているのです。

 結果論だけの議論でなく、未然防止の具体的な活動と目標が掲げられ、災害が発生した場合は、その方針に照らし合わせて、「発生する前にどれだけの対策を打つことができたか」「何をしていれば防止できたか」「何が足りなかったのか」などを分析して議論につなげ、活動へ活かしていくことが重要になります。

起きてしまったことは、元に戻りません。これからの活動への活かし方に力点を置くベきと考えています。

 
(2) 無くしたい災害の提示

 2018年は、日本各地で自然災害が多く発生しました。災害を無くすことはできなくとも、被害を小さくすることはできるはずです。労働災害も同様に設備がある以上、人が接する機会がある以上、災害をゼロにすることは難しいと思いますが、減災は可能だと思います。災害に重い・軽いと差をつける気はありませんが、まずは、人を不幸のどん底におとしめる重篤災害だけは、絶対に未然防止をすると考えて、方針や活動を整理すべきと思うことが良くあります。

 たとえ不休災害・ヒヤリであっても、その災害の延長線上に重篤災害につながる要因・原因が含まれていれば、問題を大きく捉え、活動を推進するといった重点指向が必要だと思います。件数を追っている場合は、「不休災害で良かった」とか「休業は何が何でもだめだ」など極端になりがちです。機械に挟まれて指を骨折しても不休災害・軽微の災害としているケースをよく見かけますが、数値を気にするあまり、結果を小さく見せるようになると労災隠しにつながる恐れも出てきます。最も怖いのは、作業をする人たちが安全衛生活動に向かう気持ちが後退していくことに気づかないことです。

 過去の災害を具体的に分析して、無くしたい災害を要因・原因から具体的にわかり易く分類をして、共有化するための教材・進め方など作成をする作業が必要になります。例えて言えば、車両災害でどうしたら死ねるか、手足の切断に至るかということを10パターン程度設定することです。他に挟まれ・巻き込まれ災害、重量物取り扱い災害、墜転落災害、感電災害などでそれぞれ10パターン程度に整理ができてこそ、具体的な活動継承と危険源を観きることが出来るようになるのです。

 この内容は、各社・事業体で違ってくると思います。各企業で作成を提案しますが実態はなかなか進みません。「過去災を活かす」という言葉は出ますが具体策が見えません。60点程度の出来でも良いので整理にトライして読者の皆さんから紹介をして欲しいと思います。

 労災発生の現状から従来の活動を踏襲しているだけでは減少しないレベルにあり、重篤災害に対する活動を従来以上に「深掘り」できているかが重要になっています。安全活動は、「命を守る活動」であり、「減災活動」であり、震災の反省からの活動と重篤災害未然防止活動と重なるところがあります。このことは、リスクアセスメント活動そのものです。

 

(3) “不断”の努力を惜しまず実践

 冒頭に「命の上に成り立つ教訓なんて、あってはならない」と言う言葉を引用しましたが、残念ながら発生してしまった事故・災害は、元には戻りません。今“生かされている私たち”が教訓をなんとしても言い伝え、そして行動して次世代につなげていかねばこの言葉には至りません。

 私が自分で言うもおかしいですが、指導を依頼された多くの企業は、3〜5年(もっと長期のケースもありますが‥)現場観察指導研修などを継続実施しています。勿論、1回だけの実施においても危険源の観方が鋭くなり、改善が進み、意識の変化などが見られ、多くの人が元気になります。しかし、研修後に実践してみてなかなか思うようにいかないという声も多く聞きます。そして課題もはっきりしてきます。

 私が常に口にしている「実践なくして成果なし」ということですが、実践してこそ分かることが多くあります。その段階で、再度、改善事例に沿って具体的にどうすればもっと良くなるかを話し合い、一緒になって考えます。講師の立場として、“ポーン”と背中を押すわけです。同じようなことを繰り返し、繰り返し実践してこそ、活動に“深化”の傾向が出て、更なる成果につながります。方針や活動の整理し、腹落ちするのに最低3年はかかります。「継続こそ力なり」でもあります。

 指導する時の心構えとして、初めから高い理想論や法律だけの活動を無理矢理推し進めると、あきらめ感につながり、腹落ちしない結果、期待値が下がり、コミュニケーションがとれなくなります。あるべき姿を持ちつつ、現状から120点程度の目標と改善方法案を提示していくことが肝心だと思っています。

 こうしたことを継続的に企画して実施することで、多くの人たちが安全に対する意識が変わり、会社全体として間違いなく良くなります。人は急に成長しません(赤ちゃんが1年で18歳にはならないことと同じです)。まさに“不断の努力”が成長のためには欠かせないと言うことです。企業活動をしている間は、安全活動は永遠に続きますので、こうした活動の基本の構築をしっかりつくらねば、その後の応用動作へもつながりません。

 
(4) 災害分析と反省はシンプルかつ重点指向で!

 重篤災害が発生した場合、対外的な問題も出てきますので、会社を守るためにも最低1年は「やらされ感一杯」でもトコトンやらざるを得ません。まさにアレモコレモの活動になってしまいますが、今までの足らざる点を検証しているのだと前向きに捉え活動しましょう。これを乗り越えた時、効果的と思われる活動を整理して、継続的に実施すべき活動を実施頻度・間隔(一つの考え方として3年を一区切りとして)などを含め、自社のしくみとして残し、継続する事です。この活動こそが未然防止の「勘とコツ」になります。言い方を変えるとマネジメントシステムの診断項目になっていくと言うことだと思います。

 失敗事例としては、特別な活動として実施したことを、延々と方針として展開していくことです。現場の活動がマンネリ化して、やったふりをするようになりますので気をつけたい点です。

 

2.活動の流れをつくろう

 安全衛生活動は奥が深く、複合的要因だけにどうしても活動が多くなってしまいます。風呂敷を広げた上に並べるだけでは、どうこなして良いか分からなくなり、やらされ感一杯になっている職場が多くあります。その対策の一例として活動の柱づくりと流れ(フロー図として)を整理することを提案しています。下記はその一例です。

①自職場で該当する重篤災害を絞りこむ(10〜15パターンになるはずです)
②現地現物で「定点観察と相互観察」を実施。挟まれ・巻き込まれ災害であれば「非定常作業」に絞り、リスクを洗い出し、結果をリスクアセスメント表に記載する。同時に管理者は、改善・対策の方向性を一緒になって考える(2〜3割のヒント提示)。優先順位をつけ、3項目を絞り込む。3項目から、一つずつ改善活動を進める。改善活動が行き詰まったら、課題を明確にすると同時にメンバー間で共有化する。そして次のテーマに移る。この時もテーマは次のテーマを加え、3項目を常に言えるようにすること
③対策は、ハード対策を優先として、ソフト対策(異常処置者教育・訓練と指名など)とのバランスとった対策とする(ソフト対策だけでは、リスクアセスメントの評価項目「災害の程度」は減少しない。可能性が減少する)
④巡視や現場観察指導会で、改善実施状況の把握と更なるアドバイスを行う(“相方向”コミュニケーションであり、良いことはほめ、改善提案のヒントを一緒になって考える)
⑤改善の“自慢大会”をして水平展開をはかり、切磋琢磨、会社全体の財産として共有化
⑥改善結果を「標準書・規格書・手順書など」へ反映して財産とする
⑦上記を繰り返して実施‥PDCAのサイクルを回す
⑧全体を通して
(イ) 安全衛生教育の実施(階層別教育として設定。特に職長と課長などの中間管理職は必須とする)
(ロ) テキスト・カリキュラムの作成(機械設備安全基準マニュアル、重篤災害発生パターンと教訓、異常処置者としての知識と設備個別の異常処置手順書)
(ハ) KY、指差呼称、ヒヤリハットなどは上記フローの中に織り込み、“日常業務へ織り込む”と良い
(ニ) 作業手順書の見直しなどは、巡視や管理者・監督者の現地現物活動の中へ組み込む

 

3.ハード対策とソフト対策のバランス

 対策の進め方で、それまで対策をしてこなかった反省からか、災害が発生すると、安全柵やカバーの設置を急に進めるようになるケースがあります。重要な対策の一つであることは間違いないのですが、「動力停止基準」「隔離対策基準」「他人の誤操作基準」などの対策基準が不明確のまま実施すると、それまでできていた作業ができなくなる、場合によっては、生産性が10〜20%落ちることもあります。

 安全柵・カバーの設置は、ポカよけには有効で安心感もあります。しかし、改善が伴わないケースでは、対策としては正しくとも、時間経過と共に撤去されるケースを見てきました。安全柵・カバー設置は「改善のスタート」と考えるべきだと思います。

 東北大震災の対策として、防潮堤の設置や、土地のかさ上げ、住宅建設など様々なハード対策がテレビなどで紹介されています。しかし、一方で丸8年も経過すると元の場所へ戻るという人たちは3割程度となっていること、また、仮設住宅とはいえコミュニティができてきたのに、また初めから作り直すことになる精神的な問題も報道されています。ここでもハード対策だけでは十分でなく、人に関わるソフト対策があってこその復興という難しい現実を突きつけられています。

 労働現場でも同じようなことが言えると思います。短期・長期に分けて作業する人たちが腹落ちする対策としていくためには、ハード対策とソフト対策のバランスが必要だと言うことです。「既設設備対策」を進める時は、工場・事業所の生い立ちと環境、一設備一様の対策が必要となる事をしっかり心にとめて進めることが成功に近づく肝だと思います。

 

4.実践なくして成果なし

 私は、阪神・淡路大震災後、会社で地震対策を進めたこともあり、自宅は、タンスや食器棚などは、全て転倒防止をしていますし、ベッドの下には避難用の履きものが置いてあります。また、アウトドア好きだったこともあり、テントや飯ごう、七輪、水を入れるポリタンクなどの備品が物置に置いてあります。安全衛生活動の推進者の皆さんもきっと何らかの準備をされ、減災に備える活動をしていることと思います。自然災害でも労働災害でも、人の命は何事にも変えられません。お互いできることから実践しましょう。

 

 この原稿を作成している週に、福島で講義をする事になっています。海岸沿いの研修所から眺める朝の海は素晴らしいのですが、昨年も漁船の姿がありませんでした。悲しくなります。しかし、受講者の皆さんはとても元気ですし、私が元気をもらっています。今年も少しでも元気づけができる話しをしてきたいと思います。

 

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