ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2016年10月19日更新重篤災害に的を絞った活動の勧め

1.前年比36%増となった死亡災害

製造業における本年1-6月の死亡災害は、6月末現在で前年同期比36%増と大幅に増加し、厚生労働省労働基準局から各都道府県労働局長宛に通達(基安発0715第1号 平成28年7月15日)が出されています。同時に日本機械工業連合会、中央労働災害防止協会や代表業界団体へ活動の一層の推進が要請されています。経済産業省も重大な事案として、両省の連携の基に重篤災害防止に取り組む姿勢を打ち出しています。

昨年は、初めて全産業における死亡者数が1,000人(平成10年に初めて2,000人を切った)を切り、972名となりました。しかし、平成21年~26年の間、1,000人台を横ばい状態でした。

私は、大きな壁に当たっていると捉えて活動を推進してきました。災害は、複合的な要因によって発生します。それだけに対策も難しくなっています。私たちは、身の回りで災害発生確率が下がったことによって他人事のように感じて活動が低下していないでしょうか。

絶対安全はありません。そして、いつ起きてもおかしくない要素は、どの職場にも潜んでいます。今一度、現在の安全活動を真剣にそして重篤災害に的を絞った活動を見直してみましょう。

2.なぜ?繰り返されるのか

現在発生している災害は、ほぼ100%再発(少なくとも業界内で過去に発生している災害が繰り返されている)と言って良いでしょう。ナゼ、過去の災害の教訓が活かされないのでしょうか?

企業活動が続く限り、安全活動にも終わりはありません。かけがえのない“人財”の命を守れない企業が、今後も存続するとは考えられません。

「従来通りやっているから良い」のではなく、活動の維持は相対的に停滞、もしくは後退であると考えて、課題に取り組んでいく必要があると思います。複合的な要因に対する活動が必要と述べましたが、現場を回っていて感じた代表的な要因は、次のように考えています。

  1. 災害が減少したことによって安全スタッフ・管理者の意識が後退‥教育機会が少なく、実施していても内容が浅い
  2. 安全活動の形骸化‥活動は「何のため・誰のため」にやっているのかが言えない。言われたことをやっていれば良いと言う考え方の人が増加
  3. 危険な作業の外注化‥発注者側の改善努力が足りない、協力会社の災害が増加
  4. 非正規社員、一人作業の増加‥効率化を求めるあまり、正社員が減少して現場の勘・コツの伝承がされにくくなった
  5. 既存設備に対する機械安全の推進が進まない‥人に頼った活動が中心のまま、危険な作業が残る。対策もとりにくい設備が残る

多くの企業を指導して感ずることは、活動項目はほぼ十分といえるので、新たな項目を追加する必要はないと思います。大切なことは、一つひとつの活動を「誰のため・何のため・いつやれば良いのか・目的はどこにあるか」など”深掘り”をしていくことだと思っています。

わかり易い事例で言えば、災害やヒヤリハットの分析が相変わらず甘いと言うことです。ナゼやった人だけを責めるのでしょうか? ルールを守らなかった人も悪いのですが、ナゼ、ルールが守れなかったのかなど、真の要因まで至らず対策したつもりになっていることです。

私は、「自分の部下は自分の子供と思え」と鍛えられてきました。「企業人として、社会人としてそして人間として」成長していってほしいという気持ちを根底に持ち、自律できるまで繰り返し・繰り返し教え、ミスを起こさせないような環境に改善して行かなければならないと思います。組織(管理者・監督者)、環境(機械・設備安全)、作業(人づくり)が一体となって課題に取り組んでいかねばならないと思います。

3. 対策はハードとソフトのバランス

 安全診断を実施した結果から効果的な安全対策のステップが見えてきました。

[1]まずは、環境整備をすること(ハード対策)

まさに機械安全をキチッと整備することに尽きます。一つの例として「自転車は軽車両なので、歩道ではなく車道を通ること」とありますが、整備されていない道路で、大型トラックなどが横をビュンビュン通っていく場所を、自転車で通ることは危険であり、歩道を通りたくなる心境は分かります。ところが歩道を走るときはゆっくり行けば良いのに、スピードを出すので、歩行者からすれば迷惑となります。

ルールを守れという前に、守れる環境にすべきと言うことです。機械は壊れるという前提で考えれば、「止めやすく・直しやすい機械とすること」だと思います。現在の死亡災害の発生場所・原因は、回転体などのエネルギーを持っている設備にいつでも近づける状態にあること、日常的に回転体に近づいて作業することが必要不可欠になっていること、長大な設備で止めると生産復帰に相当な時間と費用を要すること、などがあげられます。なかなか設備対策が難しいことは事実です。

ここで大切なことは、機械安全基準があったとしてもなかなか100%の対策が難しいケースの進め方です。どんな山登りでもいくつかのルートがあるはずです。そして1合目、2合目と一歩一歩頂上を目指します。機械安全も同様に考え、最善の策がとれなくとも、今できる次善の策を考え実施することです。

100点を取ろうとして何もしなければ0点のままです。回転体に近づいて「危ない!」と思ったときにとっさに引ける「非常停止ワイヤー」が目の前にあれば、機械を止めることが出来ます。回転体に巻き込まれれば死亡災害になりますが、とっさに止めることが出来れば、死亡に至らないことになります。安全装置は、いろいろな場面を想定して進歩しています。是非、専門メーカに相談してほしいと思います。

[2]教育・訓練の実施(ソフト対策)

環境が整った状態で、人は何をすれば良いのでしょうか? 機械設備に対する知識がない人は、安全な作業はできません。まず知識教育をする事です。

しかし、保全マンのようなプロを育成するには時間がかかりすぎます(当然、プロは育成していかねばなりませんが‥)。現実は、現場で簡単な処置ができる人を育成する必要があります。

現在の多くの重篤災害は、「非定常作業」で発生しています。回転体に近づく作業は、本来定常作業ではなく、非定常作業なのですが、あまりにも日常的になってくると定常作業となり、当たり前になってしまいます。結果として災害の分類上は「定常作業時の災害」となっているかもしれません。

非定常作業の定義付けをしっかりして、その時に作業できる人を限定すべきだと思っています。限定した人たちに対して行う教育体制をしっかり整備していくことが必要になります。しかし、なかなか整備されていない企業が多いことも現実です。それは、「命をかけてやってくれ」と言っていることと同じだと思います。

教育と訓練は違います。知識教育を行った後は、実践出来ることが重要になります。一般的基礎知識に加え、実際の設備で実践出来る訓練が必要です。ここまで行って管理者から「作業ができる人として”指名”」する事が重要になります。

注)非定常作業の災害防止については、中央労働災害防止協会で調査研究(鉄鋼設備・化学設備・自動生産設備)をしています。又、厚労省からガイドラインも出されていますので勉強して活動の深掘りをしてください。

4. 組織的取り組みが必要

 上記3項の具体的な活動のあり方は、また機会があれば触れたいと思います。それぞれ奥が深い活動です。とりあえずハード対策は、「JISB9700」や「機械の包括的な安全基準に関する指針(厚労省)」を入口として勉強してほしいと思います。

企業の中で安全担当が総務・人事部門に属する場合が多く、機械安全基準というと少し、尻込みをしてしまうところがあります。しかし、ここがキチッとできていない組織は、災害を繰り返してしまいます。人の命に関わる問題として”組織横断的”に取り組んでいくしくみを作ってほしいと思います。

結論だけを言えば、機械安全をしっかり深掘りできれば、災害防止につながるだけでなく、生産設備や作業改善につながり、品質向上や生産性向上に必ずつながり、体質強化になると言うことです(多くの企業で実践して成果につながっています)。

教育に関しても、非定常作業のできる人づくりのみならず、管理者の教育も実施しなければなりません。過去の災害の教訓、災害の発生のパターンや危険源の見つけ方、安全活動の活かし方、人づくりにつなげる安全活動の実践方法などを、一過性でなく組織として継続的に実施していくしくみを作らねばなりません。教育活動は「企業活動の命とも言える活動」です。

5. 執念を持った人が必要

今回のテーマは、今年になって死亡災害が急増している現状から取り上げました。まず、重篤災害に的を絞った活動が求められています。今まで多くの活動を展開して成果にも結びついていますが、残された課題は、一朝一夕には片づかない難しい要素を含んでいます。今一度、それぞれの活動に対して管理者から作業者まで「納得してやっているか、自分なりに腹落ちしているか」など「活動の深掘り」をしてほしいと思います。

これらを進めるためには、「死亡災害は絶対に発生させない」という執念を持った人が必要だと思っています。9月号で書いたように「考え方」をしっかり持って安全活動を進める人が企業にとって重要と言えます。実は、このことは、経営そのものと言っても良いと思います。

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