ピルツジャパンのブログ「月刊 裏ピルツ新聞」

2018年4月18日更新薬傷災害から活かし方・つなぎ方を再考する  ~事後の百策より事前の一策~

1.ブログ「裏ピルツ新聞」「古澤登の《安全力向上》コラム」丸2年

 ブログにコラムを書き始め2年が経ちます。私の記事を楽しみに読んでくださる人たちにまずは「感謝」です。少しでも参考になっていれば嬉しいです。実践していれば更に嬉しいです。これからも知恵を振り絞って「現場目線」を大事にして書いていければと思います。

 読者の皆さんは、すでに私のコラムの特徴をつかんでいることと思います。例えば、一つのタイトルの中に、大変多くのキーワードが入っていることです。そのキーワードは、以前にも違うテーマでも何度も何度も使っていることが多くあります。これは、一つの課題に対して一つの考え方や答だけで解決すると言う時代ではなくなっていることを表していると思います。いろいろな情報や考え方を複合的に組み合わせ謎解きのように整理していくことで、結果として読者の人たちが腹落ちする事になるのではないかと思っています。

読者から、「古澤さんの記事は、1回のブログに何回も書ける内容が入っていてもったいない」と言うアドバイスをいただきます。それでもスタイルは変えられないのです。全ての記事に目を通している人は少ないと思いますし、読者とは一期一会でもあり、一話完結のつもりで書いています。この方法は、現場観察指導や講演でも同様です。

一つの質問に対して、見方や考え方をいくつかの方向から説明し、事例も使います。自身の経験も加えます。そうすることによって「なるほど!」ということになり、何となくでも理解されていくのだと思っています。このことを繰り返して積み重ねて初めて聞く人自身の財産になっていくと思っています。懲りずにお付き合い下さい。

 昨年も読者の方にお願いしましたが「こういうテーマで書いてほしい」とか、「繰り返しでも良いのでテーマの深掘りをして」などの声を聞かせていただけると、私の頭の中からフッと文章が出るかもしれないので今年もお願いすることにします。ご提案、ご要望をよろしくお願いします。

2.「薬傷災害」に共通する事

(1) 「薬傷災害」に関するテーマが続いている

 私に指導依頼がくる内容に傾向があります。それは、その時々の課題が業界、業種、対象者などで共通のテーマが続くことです。詳しくは依頼者の事になりますので言えませんが、一般的に言えば、「挟まれ巻き込まれ災害が多発」、「最近災害が減少しない」「災害が連続して発生する」「ほとんどの災害が再発」などなどです。

 件数は少ないのですが最近は、「アルカリ液が目に入った」「薬液を運搬中に共同作業者に掛けてしまった」「保護具なしで補充作業していて薬液が身体にかかった」等です。化学物質は多種多様にわたり、専門家でも全てを理解することは難しい。それ故に、化学物質のリスクアセスメントは、メーカーでしっかり実施して現場へは、情報の開示をすることが大事です。

(2) 知識教育と訓練の実施

 その情報を得て現場では、“現場的”リスクアセスメントを実施するのですが、まず、知識教育で危険性と、いざという時の対処方法を学び・訓練しておきましょう。現場では、薬品=有害物質と考えれば良いでしょう。そして適正な保護具の装着です。この点については、なかなかやってくれないとこぼす職制がいますがルールを教えるだけでなく、もし目に入ったら、皮膚にかかったら、身体の中に入ったらどう言う影響を身体に及ぼすかを目でみて分かる教材を使い「なぜ?」と言う背景を教えていくことが重要です。

 アルカリ液が目に入ると角膜が溶けてしまいます。文章で教えるより写真や絵が何倍も印象に残ります。作業場にその写真を貼っておけば言わなくても保護眼鏡はするでしょう。(新人には、少し厳しいですが”感電災害”で皮膚が焼けただれ、肉まで焦げてしまった写真はとても強烈です)今は、ケガをして覚えろという時代ではないのでこうした教材を使っていくことの検討も必要です。そして最後は、特殊健診で問題ないことを確認することです。

(3) 正常状態の見える化と相互注意活動

 人は、ミスをする動物です。特に化学薬品は、一瞬で災害につながります。取り扱い容器の構造に問題があり災害につながったケースがあります。蓋のない容器で薬液を運搬したり、補充したりすることが行われていることもあります。液が跳ねただけで災害になります。毎日やっているとどうしても危険性に対する感性が薄れてしまいます。「異常作業の正常化」が発生します。不安全行動が当たり前の行動になり、誰も注意しなくなり、災害が発生してからバタバタすることになります。職場単位で正しい作業方法(正常状態)を決め、それから外れていたら注意し合うことを繰り返し確認しましょう。「小さな声かけ大きな成果」ですし、「相互注意できる職場風土づくり」にもつながっていきます。

 研究所や、分析センターといった場所では、容器の管理・保管方法が課題になります。作業が終了しても机の上に薬液が入った容器が”無造作に”置かれていることも見かけます。「やりじまい」と言う言葉があります。終了したら指定の場所に保管することを習慣化しなければなりません。(法的にも必要なものが多いです)薬液の入った蓋の置き方も大切になります。蓋についていた薬液が机などについてしまい、保護具を外した後で、薬液に触れてしまう危険性があります。

(4) ”化学薬品”は怖い

 一つの事故事例を紹介します。使用済み廃液(多種類に及ぶ薬液)をドラム缶に回収するケースでの事故です。実験や分析に使用した薬液を一つのドラム缶の中に回収して処理をする作業工程です。ドラム缶が満杯になったので蓋をして保管しておいたドラム缶が化学反応によってガスが発生してドラム缶の底が抜けて突如、空中を飛んだのです。幸いけが人はいなかったのですが「化学薬品」の混合でどのように反応してどうなるのか誰が分かるのでしょうか。これは、”現場的”リスクアセスメントでは出てこないでしょう。化学薬品は、”バケル“性質を持っています。同種廃液毎の正しい処分方法を事前に、知識を持った者が決めなくては防止できません。

(5) 「減災」の為の準備行動

 薬液をかぶってしまったときの緊急処置として、洗顔器やシャワーが作業場のすぐ近くになければなりません。ある事はあるのですが、柱の陰であったり、遠くに離れていたり、設備を回らなければならなかったり、表示が作業場から見えなかったりするケースもよく見かけます。目に入れば周りは全く見えませんし移動も難しくなります。そのためにもできるだけ近くに設置して、普段から何歩で行けるか、引き紐はどこにあるかなどの訓練をしておくことが「減災」につながることは言うまでもありません。

 上記のように、リスクアセスメントで危険性を洗い出すと言ってもなかなか難しいテーマです。”現場的”作業内容に絞って「最悪の状態」を洗い出していく必要があります。「どうしたら薬液に触れることができるか」「どうしたらそれを防ぐことができるか」「起きてしまったらすぐできる事は何か」ということを実践していかねばなりません。

3.一人作業への対応

 大事なポイントは、上記作業は一人で実施するケースが多いということです。一人では、相互注意することが普段からはできません。それだけに、管理者・監督者の関わり方が大切になります。定期的な現場巡視と問いかけによって相手に言わせて、正しければ褒めて(認めて)相手に自信をつけさせることなどの工夫が必要になります。

4.活かし方・つなぎ方

 今回は、薬傷災害に的を絞った紹介をしました。上記のような災害パターンは、過去にも起きています。なぜ繰り返されるのか残念でなりません。過去に発生した災害事例と対策を「知恵袋」として残しているでしょうか。「絵で見る作業標準」などわかり易くなっているでしょうか。テキストは、ルールを守れとか薬液の性質とかの基礎知識だけになっていませんか。教材の整備(薬傷災害発生パターンと対策)と、伝えていく為の訓練の場と時間を設定すること、相互注意できる職場の雰囲気作り(実践の積み重ね)など発生する前にやっておくことは明確です。しかし、現場では一つずつしかできません。その積み重ねです。一つずつ真剣に取り組んでいるときには、災害は発生しにくいものです。「事後の百策より事前の一策」この言葉を大事にしましょう。事前の策は、事後の策より時間もコストも大幅に少なくてすみます。「活かし・つなぐ」ための工夫をもっとしていかねばなりません。

 労働衛生の分野でも前号までに紹介した安全活動の教訓が活きることがお分かりいただけたと思います。

 

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