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2019年1月24日更新『2018年度第1回信頼性学会フォーラム』レポート~医療における災害時対応計画~

 2018年は各地で災害が発生し、全国で災害に対する危機感が高まった年になりました。それを受けて、先日、日本信頼性学会の主催による災害をテーマとするフォーラムが開催されました。災害発生時にも使用できるネットワークシステム、道路インフラの災害復旧と危機体制、医療における災害時の対応について、有識者から多くの実例や現在の取り組みが紹介されました。今回はその中から、特に印象に残った災害時の医療について、講演の概要と一市民としての気づきをまとめてみたいと思います。

 まず、今回の講師は聖路加(せいるか)国際病院救急部・救命救急センターの大谷典生先生。聖路加国際病院(以下、聖路加病院)は、東京メトロ日比谷線の築地駅から徒歩7分の場所にあり、あの地下鉄サリン事件発生直後、多くの患者を受け入れた病院としても有名な病院です。その時の映像も少しだけ見せていただきました。災害と言っても、医療における災害とは大まかに分けて、自然災害(地震、津波、台風など)、人為災害(例:大規模交通事故)、特殊災害(化学兵器、爆発物、テロなど)の3つに分けられるそうです。

 地下鉄サリン事件は特殊災害に分類されるわけですが、事故発生後多くの患者が押しかけて、スタッフが右往左往しながら診療、治療する様子が映し出されていました。まず、驚いたのは、発生直後、患者さんは救急車では来ていないということです。タクシーで続々と何人かの負傷者が運ばれ、それからしばらくして、やっと救急車が現れました。この時点では、負傷者も院内のスタッフも、十分な情報がない状態で、手探りで行動していました。いつもは礼拝堂として使用しているチャペルがすぐに患者さんでいっぱいになり、次々と押し寄せる急患に少しでも早く対応できるように、ストレッチャーを外に出して待機するという臨機応変な対応が見られました。緊急事態発生時は、いつもとは違う対応が求められる、と講師の大谷先生が説明されていましたが、それを目の当たりにしました。

 地下鉄サリン事件では、多くの死傷者が発生しましたが、当時、幸いなことに病院自体は壊れていませんでした。地震などの自然災害で建物の倒壊や停電により、電気や水道などのインフラが使えなくなった場合、病院では何が起こり、どのような対応が必要になるのでしょうか。

 インフラの途絶は医療機関にとって致命的であり、患者さんのケアや治療、衛生管理などを継続できなくなってしまします。電気がなければ、検査機器、電子カルテ、人口呼吸器などの医療機器やエレベータや照明などの院内設備も使用できません。水道がなければ、手洗いや機器の洗浄、汚物処理もできなくなります。また病院では手術や人口呼吸管理のため医療ガスを使用していますが、これらの供給が途絶えると、重症患者が生命の危機に陥ってしまします。さらに、通信の途絶も外部との連絡が取れなくなり、病院スタッフとの連絡や安否確認ができないことで、医療の継続に支障をきたします。このように、災害が発生すると、医療機関は需要が急増するにもかかわらず、インフラの途絶によって機能が著しく低下することがわかります。

 そのような状況に備えて、医療機関では災害時対応計画に基づいて、いざと言うときのための備蓄や訓練を行っています。いくつかの点についてご紹介します。

 災害時の対応の一つにトリアージと言う考え方があります。トリアージは第一次世界大戦後に確立された概念であり、災害時に一人でも多くの傷病者を救うために、治療の優先順位に基づいて患者に対応します。平常時なら目の前の患者すべてに最善を尽くすことを目指しますが、災害時は瀕死の重傷者を諦め、軽傷者を排除することによって、治療すれば助かる見込みのある重症患者を優先的に治療することで、最大数の患者を救います。トリアージでは、治療の緊急度を色で表すトリアージタッグを患者の身につけて、患者を分類して治療が行われます。今すぐ治療が必要な緊急治療群(赤)、1~2時間以内に治療が必要な準緊急治療群(黄)、明日まで待てる軽症群(緑)、治療を諦める死亡群(黒)の4つのトリアージレベルがあります。もし自分や家族に緑や黒のタッグをつけられたらすんなり納得はできないかもしれませんが、医療スタッフのみなさんも苦渋の決断をされているのだと思います。

 災害発生時にインフラが復旧するまでの期間、必要な診療や治療を継続するため、基本3日間の備蓄が求められます。しかし、これを行うには莫大な費用がかかりますし、このような大がかりな対策を個々の病院だけで行うのはもはや困難なため、現在では行政(厚生労働省や都道府県)のもとで災害対策が進められています。施設としては、災害時の重篤救急患者の救命医療や被災地からの一時的な重症傷病者の受け入れに対応する災害拠点病院が、全国に731病院設置されています。また、平時とは異なる災害時の医療のトレーニングを受け、公的な資格を取得した災害医療派遣チーム(DMAT)の整備も進められています。講師の大谷先生ご自身は、日本DMAT隊員と東京DMAT隊員の両方を資格をお持ちだそうです。

 最後にまとめとして、災害に対応するために必要な3つの要素が紹介されました。それは、計画、訓練、備蓄です。聖路加病院では、災害時の対応計画を立て、電気や水の備蓄を行い、災害時の機能不全(エレベータが使えないなど)を想定した訓練を定期的に行っているそうです。過去の地下鉄サリン事件や東日本大震災発生時に得た知見を活かして、綿密な計画や実践的な訓練が行われているように思われました。今まで考えたこともなかった、災害発生時の医療問題。今回の講演を聴講し、私たちの知らないところで医療関係者や行政が非常時に向けて備えをしてくれていることを知りました。仕事と言ってしまえばそれまでですが、特に危険な災害現場での過酷な作業に、自ら手を挙げて救急医療に携わってくれるDMAT隊員のみなさんには頭が下がる思いです。

 災害がいつ起こっても不思議でない時代。もしもの事態が発生した時、どこの病院に行けばよいのか、早速最寄りの災害拠点病院を私も調べてみました。東京都にはDMAT指定病院という緊急医療に特化された病院も設置されていますが、私の地元の南多摩には存在しないことがわかりました。読者のみなさんも、この機会に最寄りの災害拠点病院がどこにあるのかだけでも調べてみてはいかがでしょうか。

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