2018年12月18日更新AIによって変わる私たちの未来
このところ、ありとあらゆるところで、AIと言う言葉を耳にします。AIはArtificial Intelligenceの略語で、日本語では「人工知能」。AIが私たちの日常で普通に使われる日が生きているうちに来るとは思いませんでしたが、その日はそう遠くはなさそうです。
巷でよく耳にするのが、「AIが私たちの仕事を奪う」、とか「AIに人類が滅ぼされる」と言う、AIを脅威と捉える見方です。これは本当なのでしょうか。それとも、AIは私たちの生活を楽にしてくれるものなのでしょうか。AIが普及する未来のために、私たちは何をすればよいのでしょうか。このような疑問を解決すべく、10月末にとあるITセミナーで専門家の講演を聴講してきました。
IT業界、高等教育の要人である三名の講師の講演の骨子を以下にまとめます。
1.「多様な働き方をクラウド、モバイル、デジタルで加速する。デジタルトランスフォーム後に生き残るためには。」澤 円(さわ まどか)氏(日本マイクロソフト株式会社、テクノロジーセンター、センター長)
今や、1週間分のニューヨーク・タイムズ紙(米国新聞)のデータ量が18世紀の人が一生のうちに出会う情報量と同じだそうで、情報が溢れる時代になりました。しかも、これらの情報はデジタルデータとして、インターネットで公開されているため、ネット環境さえあれば、誰でも見ることができます。紙媒体の新聞や雑誌は衰退の一途をたどり、デジタル情報へと置き換えられています。
プライベートでは久しく紙の新聞は読んでいませんし、雑誌の類は購入しなくなりました。単行本だけはときどき図書館で借りたり、書店で購入したりして読んでいます。当初デジタルに抵抗のあった私でさえ、ほとんどの情報をデジタルでやり取りしていることは否めません。この「裏ピルツ新聞」の記事もパソコンで原稿を作成し、インターネット上で公開しています。
冒頭に平成元年と平成30年の世界時価総額ランキングが提示され、30年前にはトップ10に7社も入っていた日本企業が、現在では全く姿を消してしまった現実を見せ付けられました。予想通り、現在のトップ5はアップル、アマゾン、マイクロソフトと言ったIT 企業です。当然ですが、時代は確実に変わっています。これからの時代、生き残るにはどうすればよいのでしょうか。
澤氏は、これからの人間の仕事は、ビジネスの因果関係を知り、未来を想像することと述べます。AIは相関関係ならわかりますが、因果関係がわからないからです。次のような例が紹介されました。AIは膨大なデータにより、気温が高いとソフトクリームが売れることを判断できます。しかし、暑いと冷たいものが食べたくなる、という因果関係は人間にしかわからないのです。
具体的にはどのような仕事を人間がすることになるのでしょうか。AIに私たちが記憶力で勝つことは不可能です。画像認識の試験を実施したところ、ミスの割合は人間が5%だったのに比べ、AIは3%という結果でした。もはや、人間は画像認識ではAIに勝てないのです。また、マクドナルドのドライブスルーの受注も、人間なら聞き取りにくいスピーカーからの声を聞き間違えたり、記憶違いをしたりしがちですが、AIに任せれば受注ミスが減り、みんながハッピーになるという例が紹介されました。
人間は、将来、記憶に頼らない、機械にできないことをやるのが得策です。機械にできない3つのことは、クリエイティブであること、リーダーシップを発すること、企業家精神を持つことです。どれほどAIが進化しても、0を1にすることはできません。
今後、人間は単純作業から解放され、面白い仕事、未来のための仕事をするような時代が来るそうです。単純作業が得意な人にとっては厳しい時代になりそうです。発想力、リーダーシップ、企業家精神を磨いていかなければならない時代がもうそこまで来ています。ちなみに、私の業務の一部である翻訳も、将来AIがやる仕事になるようです。クリエイティブな発想力を磨いて、失業しないように頑張ります。
2.「AIがビジネスを変える。1,4000件の事例からイノベーション創出の具体例をご紹介。」中山 五輪男(なかやま いわお)氏(富士通株式会社 常務理事 首席エバンジェリスト)
過去30年にインターネットが普及したことによって、ビジネスの世界は大きく変わりました。一般家庭でもインターネットがあるのが当然で、多くの大学の出願や就職活動さえもインターネットがなければできない時代になり、日々IT技術の進歩による変化を実感していますが、ビジネスの世界ではAIの出現によって具体的にどのような変化があるのでしょうか。
中山氏が講演中に紹介された内閣府作成のビデオ「Society 5.0」で、日本政府が将来実現を目指しているAIやIoTの導入により進化した日本の姿を目の当たりにしました。それは、バーチャル空間とリアル空間をミックスした人間中心の社会です。時間どおりに山間部にも荷物を配達し、スマホとの連携で今いる場所にも配達してくれるドローン宅配。今ある食材で作れるレシピの提案や食材の注文をしてくれるAI家電。家にいながら診療を受けられる遠隔診療。無人トラクターや膨大な過去の栽培・収穫データを活用したスマート農業。過疎地でのバスや電車の廃線による移動の不自由や高齢者の運転による事故を防止する自動走行バスなど。
このようなAIを活用する高度な技術が実現可能になったのは、コンピュータの高速化により、「ディープラーニング」と呼ばれる人間の脳のような多階層で情報を処理する新しい計算手法が利用可能になったことが背景にあります。20年前は大量データを3階層くらいでしか処理できなかったのに比べ、現在では最大200階層までのニューラルネットワークで処理できるようになっています。
また、今までのAIは判断結果は出せても、理由を説明してくれなかったのですが、今後説明可能なAIへと変わります。富士通では人やモノのつながりを表現できるDeep Tensor(ディープテンソル)と呼ばれるグラフ構造のデータを学習できる世界初の技術を開発しています。さらに、ディープラーニングに欠かせない教師データを人工的に作り出す技術も活用しています。教師データとはコンピュータが学習するためのデータであり、優秀な教師が優秀な生徒を育てるのと同じように、この教師データがディープラーニングの精度に直結します。少ない教師データ(例:画像認識用の画像データ)から人工的に大量の教師データを作り出すWide Learningも2019年に実用化予定です。
今後、AI導入後のビジネスでは、テレビ、インターネット、スマホのような「イノベーション」が誕生するでしょう。新しい仕組みが創られ、またはこれまでの仕組みを改良して技術が開発されます。中小企業もさまざまな企業と連携し、新しいビジネスが生まれます。
最後に紹介された富士通デジタルトランスフォメーションセンターは、将来に向けてのビジョンを参加者全員が作り出すのに最適な環境が用意されています。トヨタ自動車の2025年のサービスエンジニアのビジョンを文書だけでなく、絵にすると言う作業がこの場所で行われたそうです。この施設では壁一面の「デジタルボード」に一人一人のアイディアが映し出され、専任のファシリテーターが進行役となり、対話を通じて潜在的な課題の洗い出しや解決のアイディア提案が促されます。ワークショップのビデオでは、通常の会議室では不可能な異次元のワークショップが展開されていました。このような最先端技術を駆使した施設なので、費用もそれなりなのかもしれませんが、新しい時代に対応する将来のビジョン作りに投資する準備があり、真剣に取り組みたい企業にはお勧めの施設です。
3.「経営の基礎は人。人を育てる経営とは。」出口 治明(でぐち はるあき)氏(立命館アジア太平洋大学 学長、ライフネット生命保険株式会社 創業者)
本年度、私の聴講した講演のベスト3に入る気づきの多い講演でした。多くの著書も出版されている出口氏は関西弁でゆっくり喋られるのですが、一言一言がスーッと頭に入ってきます。世界中を巡り見聞を広め、週5,6冊読破される大の読書家である出口氏の言葉には重みがあり、納得せずにはいられない内容でした。
まず、思考することの重要性が、さまざまなデータや自論を用いて説明されました。出口氏によると、タテ・ヨコ思考(歴史に学び、タテ=過去とヨコ=現在を比較して考えるという意味で、出口氏の1つ目のキーワード)を行い、数字・ファクト・ロジックのみで考えることが大切です。人間は、脳の構造上、自分の見たいものしか見ない、あるいは見たいように現実を変換して見てしまう動物だからです。日本は海外と比べて異常なほどマスメディア(新聞・雑誌・テレビ)を信じる傾向があり、新聞やテレビで見た情報を鵜呑みにしてしまいやすいことが、2010年~2014年までの世界価値観調査のグラフを参照して指摘されました。たとえばマスメディアを信じる割合は日本が70%程度であるのに対して、アメリカでは20%強に過ぎません。
世界における日本の経済力はこの30年弱で衰退の一途をたどっています。1991年には世界第一位だった日本の国際競争力が2017年には27位まで落ち込み、日本の財政赤字も膨らむ一方です。このような状況で、日本が成長するためには何が必要なのでしょうか。
日本の成長に必要な3つの要素は、GDP(=人口 x 生産性)、人口、生産性をアップさせることです。そのためにはまず、少子化問題を解決し、人口の減少を食い止めなければなりません。出口氏は、具体策として、フランスのシラク3原則に学び、出生率を上げることを提案します。
シラク3原則では、育児は社会全体で担うものという認識を社会全体が共有し、子どもを生み育てることが女性の負担にならないようにします。働いていた人も、現在休職中の人も、学生も託児所が利用できるようにします。さらに、育児は人の処理能力をアップさせるため、仕事の効率も上げることが多いため、育児休暇を取る人を日本のようにマイナス評価にするのではなく、ずっと勤務していたものとして職場に復帰させます。フランスではこの取り組みによって1996年に1.66まで下がった出生率が10年あまりで2%にまで上昇したそうです。
また、出口氏のもう1つのキーワードは「人・本・旅から学べ」です。多くの人に出会い、話をする中で、経験や情報を共有し、自分だけでは考えられない素晴らしいアイディアが浮かびます。とは言え、誰もがオバマ氏に会うことはできないので、本から学ぶことは効率的な勉強方法です。どんなジャンルでもよいので、古典を読むことを推奨しています。最後に世界を旅して、自分の知らない世界を見ることで見聞を広めることが大切と主張します。そうすることで、自分の小さな世界の固定観念や常識に囚われない柔軟な思考ができるようになるのです。
出口氏は、現職では、立命館アジア太平洋大学の学長として、国際通用性のある人材を育成しています。同大学で実施する、企業連携プログラムでは、2ヶ月(或いは4ヶ月間)世界中の学生と英語で経営学の授業を受講し、国際寮に住み、24時間多文化環境に身を置く貴重な経験ができます。AIが普及し、労働力不足を補うため、海外からの移民に労働力を頼らざるを得ない時代に生き残るための思考力や異文化対応力を磨くには最高の環境かもしれません。
講演後、出口氏ワールドにもっと浸りたくなり、出口氏の「働き方の教科書」を読みました。この本の中でも上記の内容が詳しく説明されています。副題が「無敵の50代になるための仕事と人生の基本」と題するこの本は、その名の通りアラフィフ世代に特にお勧めですが、どの世代にも大変参考になる内容です。お正月休みにぜひ読者のみなさんも読まれてはいかがでしょうか。
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