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2019年2月27日更新高機能安全装置プロジェクト主催勉強会『第2回産業安全行動分析学研究会』参加レポート~ハトも人間も○○は嫌い~

 2月17日(日)、朝10:00から都内の会場で、表題の研究会があり、杉原が参加しました。前日までSNJ総会・定例会に講師として参加していただいた北條理恵子氏が代表を務めるこの研究会は、今回が2回目ということで、まだ始まったばかりの会です。当日は産官学の専門家や研究者から幅広い内容の講演発表があり、大変充実した講演会でした。

 まず冒頭に北條代表からこの回の趣旨について説明がありました。その名の通り、産業安全に行動分析学を取り入れて、スリーステップメソッド(本質安全設計、隔離や停止による安全防護、使用上の情報提供)によって取り除くことのできない産業現場の残留リスクに対して、行動分析学が有効であるという信念のもと、この会を立ち上げたそうです。

北條代表

 当日講演された講師は、行動分析学や産業安全に纏わるさまざまな分野の方々で、日曜の朝から夕方まで、一堂に会して勉強しようと言うこと自体驚きだったのですが、その顔触れにまたまた驚いてしまいました。北條氏の師匠である行動心理学の権威、小野先生や、厚生労働省の奥村伸人氏の他、安全機器メーカーから某有名企業も参加されていました。今回特に印象に残った、人の回避行動についての駒澤大学名誉教授、小野浩一先生の講演を中心にご紹介したいと思います。

小野浩一先生(駒澤大学名誉教授)

 行動分析学と言えば、動物実験がつきものですが、今回の講演で、小野先生にハトの実験の動画を見せていただきました。ハトが板を「つつく」という行動をさせる実験です。「つつく」行動を増やすためには先行条件と後続条件が重要です。この実験の場合、先行条件とは、目標行動(板を「つつく」こと)の前の条件のことであり、それを操作することによって行動を増やしたり減らしたりすることが可能になります。この実験の場合、ハトが空腹状態であり、行動(つつく)が容易であり、また「つつく」という行動をした時だけエサが出るように操作します。また、その行動を行った後の結果が後続条件であり、報酬であるエサが出れば行動は増え、罰が与えられれば行動は減ります。

 また、産業現場で危険回避行動を増やすために参考になる、1979年に行われた人の回避行動の実験(Galizio, 1979)も紹介されました。被験者は1セッション50分の実験を75セッション実施することを同意した上で実験に参加しています。被験者は各セッションで最初に2ドル(200セント)が与えられ、実験装置の赤いランプが点灯すると5セントを失います。赤いランプの点灯はレバーを倒すことによってしばらく遅延できることを被験者は説明されています。当然ながら、被験者は赤いランプの点灯をできる限り防いで、より多くの報酬(ドル)を得る行動を取ることを前提とします。この実験では、先行条件を4パターン用意し、人の行動の変化を測定しました。4種類の先行条件は、以下の通りです。[実験装置に遅延時間の]1.ラベルがない、2.正しいラベルがある、3.偽りのラベルがある(1)[遅延時間が10s, 30sなどと表示されていますが、実際はすべて点灯なし]、4.偽りのラベルがある(2)[表示に関わらず遅延はすべて10秒]

小野先生の講演の様子

 この実験の結果、以下のような行動が見られました。ラベルがない場合、回避行動は全体的に多くなり、安全寄りの回避行動が生じます。正しいラベルが表示されている場合、ラベルに従った効率的な回避行動が生じます。偽りのラベルが表示されている場合(上記4.の場合)、最初はラベルに従った行動が見られましたが、ラベルに従っても点灯することがあり、実害が生じます。ラベルが正しくないことがわかると、ラベルの効果は失われ、現実に合った行動を取るようになります。偽りのラベルでも、実害のないラベルが表示されている場合(上記3.の場合)は、ラベルに従う行動が維持されます。作業現場などで、時々何をどう注意すればよいのかわからない表示を見かけますが、この実験結果からすると、適格でない表示なら、かえってない方が回避行動が増えるのかもしれません。

 さらに、産業安全分野で注目すべき点として、回避行動が「めんどくさい」とその行動は起こりにくいことも指摘されました。動物も人間もめんどくさいことは嫌いで、生産的活動からのタイムアウトを嫌がる傾向があるようです。北條氏の講演からの引用ですが、たとえば、作業現場で安全通路を設けても、反対側に道具箱が置かれているような場合、わざわざ安全通路側に移動するのは時間もかかり、めんどうなので、安全通路を通行する行動は定着しません。道具箱を安全通路側に移動することで、安全通路の通行は増えたそうです。危険回避の行動はシンプルで労力を少なくし、時間も短くする必要があることがわかります。

 このように、行動分析学を産業安全に応用し、ヒトの安全行動を増やすことができれば、労働災害の減少によって社会に大きな貢献を期待できます。正直なところ、学生時代に心理学の教科書で見たスキナー(行動分析学の創始者)の写真のせいか、心ではなく行動のみを研究対象とするというところに違和感を覚えたせいか、今まで行動分析学に負のイメージを持っていましたが、今回の講師の先生方のお話を聞くにつれ、大変理にかなった学問であることがわかりました。安全機器メーカはシンプルで使いやすい装置を開発し、作業者が使いたくなる装置を提供する必要があるでしょう。現場の監督者は過去の事故やヒヤリハット事例から、危険を洗い出し、作業しやすい環境、安全行動や回避行動が取りやすい環境や仕組みづくりに今後取り組んでいただきたいです。今後もこの研究会から目が離せません。

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