ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2019年12月13日更新“ラグビーロス”とその後~“ラグビーワールドカップの感想と実践の大切さ“~

 日本ラグビー悲願のベストエイトを達成して日本中、盛り上がった「ラグビーワールドカップ2019・日本大会」が終わり、私も“ラグビーロス”になりました。台風には勝てず、豊田スタジアムでの試合も中止になるなど自然との闘いでもありました。しかし、TVの視聴率も日本が勝ち進むにつれて高まり、50%近くになったと報道がありました。今回のラグビーは私たちに何を伝えたのかを考えつつ、安全活動に関連づけて考えてみようと思います。

1.大切な感覚を思い起こさせてくれたキーワード

⑴ ハードワーク

 選手が90分間”肉弾戦”を戦い抜くことのすばらしさ、それを可能にした想像もつかない練習風景が報道されたこともあり、見ているものを魅了したのだと思います。試合を見ている自分自身の身体に力が入り、左右前後に動いていたこと、”いけー!”と叫んでしまっていたことなどは多くの人が体感したと思う。生ぬるい練習では、フィジカルに劣る日本は勝てないことを知っている彼らは、その練習に耐えたからこそ感動を与えてくれたのだと思います。優勝ではなく、ベストエイトでも、終了時に選手も私たちもすがすがしい気持ちになったのはこうしたハードワークに耐えた結果だからこそ得られたものだと思います。一つの目標に向かって挑戦するチームとしての素晴らしさなど今の日本、日本人が忘れかけている何かを思い起こさせてくれました。

⑵ 一人ひとりの責任感とチームワーク

 ”ラグビーは、自己犠牲”という表現もありました。私は、自己犠牲と言うよりは、”一人は皆のために皆は一人のために”という精神がラグビーの素晴らしいところだと思いました。目標に向かって個々人が役割を果たすことと言っても良いと思います。そのためには、与えられたポジションで役割を果たすために今何をすべきかを全体の状況を見て判断する能力が求められるのだと思いました。そのための厳しい練習(鍛錬・訓練)を乗り越えなければならなかったと思います。まさに、”個のレベルアップなくしてチームワークの向上なし”です。私は、オリンピックや世界選手権などの場で、個人戦で勝てなくとも団体戦になると強い日本というイメージがあり(逆に個人戦なのにチームとしての練習と情報などの共有化により、個人戦でも強くなっている)、このことこそが日本が誇れるDNAではないかと思っています。

⑶ 多様性とワンチーム

 最初は”日本代表チーム?”と思いました。外国籍を持った人、日本国籍を取得した人も含め15人の”外国人”の人たちが日の丸を背負って戦っていました。それぞれの能力を活かし、チームとしての力に変えていくこと、組織論そのものだと思います。少子化の傾向にある日本が、将来生き延びていくためにはこうしたチームの姿が求められるのだろうと思いました。「ワンチーム」が流行語大賞に選ばれました。(この原稿を書き始めたときは、”個人的には、今年の流行語大賞は「ワンチーム」だと思っています。昨年の”そだねー”は見事的中でした”と書いていました。)多くの人が納得したのではないでしょうか。

⑷ リーダーの役割

 ジョセフヘッドコーチの素晴らしさは、「日本人は協力的で忍耐強い」という日本の文化を理解して、「言葉を超えた情熱と誇りで、自主性と規律」を確立したことではないかと思います。勿論、大会まで来る過程では選手と険悪な時期もあったと報道されています。気持ちの部分でのつながりができるまでには、多くの葛藤があったと想像できます。納得いくまで話し合い、練習をして試合で成果を確認しつつの4年間(それ以前からの関係者の努力も重なって)だったと思います。試合では、他のスポーツと違ってヘッドコーチは直接、何もできません。グランドにいる選手が状況判断して方針を決めています。特に、「リーチキャプテン」の果たした役割の大きさは誰もが認めるところです。ボールあるところにリーチありでした。背中で、行動でチームを引っ張り鼓舞していました。リーチがボールを持つと観客から「リーチ」の大声援が飛んでいたのは印象的でした。組織は、リーダー次第と言うことでもあります。

⑸ 50cm、1mの壁の突破が難しい

 どの試合もそうでしたが、特に日本対南アフリカ戦で思いました。日本チームは、ゴールライン目の前まで攻めていました。しかし、当たっても、当たっても跳ね返され、なかなかゴールへ飛び込めない時間が長く続きました(自分の身体にも力が入り、痛くなってしまいました)。南アフリカは、流石の守備力の持ち主でした。昔話になってしまいますが、トヨタが東芝と全日本選手権決勝で戦った試合を今でも覚えています。同じような状況で、50cmの壁が高く、トヨタが攻め続けても敗れてしまいました。その壁を打ち破ったのは3年後でした。3年間と言う時間が必要でした。今の安全活動に似ていませんか?

 

※ 私の個人的な感想を書きましたが、今の安全衛生の置かれた状況とその課題突破に必要な共通点が多くあると思います。重篤災害の減少が壁に当たっていること、一生懸命やっているが結果として休業災害が増加していること、活動そのものが”形骸化”していること、雇用形態の変化など時代背景もあり自己中心的な人が増加していることなどを自覚してどう現状を突破していくのかを考えさせられました。また、ワールドカップ終了後、選手がTVに出演していますが、皆さん浮かれていませんし、選手になれなかった人のことや、支えてくれた人たちに、常に心を寄せている発言が多かったように思います。そしてラグビー人気を一過性にしないために何をすべきか、次のワールドカップに向けて何をしていくべきか次の目標をしっかり持って話していることが印象的でした。

 

2.全国安全衛生大会・官民協議会

⑴ 基調講演を実施

 10月23-25日、京都で初めての開催となる全国産業安全衛生大会が開催されました。今年も1万人を超える人たちが集まり、相互研鑽をしていました。私は、2日目の「製造業安全対策官民協議会(以下、官民協議会)・特別セッション」で基調講演をさせていただく機会を得ました。会場は、500人規模でしたが、入りきれないくらいの方が集まり、盛り上がりを見せていました。官民協議会は、経産省と厚労省がタッグを組み、田村昌三先生(東京大学名誉教授)、向殿政男先生(明治大学名誉教授)や10の民間団体代表者が集まって主に重篤災害の撲滅に向けた調査研究をして3年目に入っています。私から、参加者にお願いしたことは、「協議会の内容の具体化と実践」です。ラグビーに習って重篤災害未然防止に向かって「ワンチーム」になって英知を集め、目標に向かって立ち向かっていきたいという思いを話させていただきました。その内容の一部を以下、紹介します。

⑵ 重篤災害の撲滅へ向けて

 官民協議会が始まった背景は、製造業の死亡災害が減少しないことにありました。業種も発生する設備や原因も絞られてきていますが、製造業を取り巻く環境が変わってきて、複合的な要因、難しい課題が残されてきました。まさに、ラグビーの50cm、1mを乗り越えることと同じように(または、”百里の道も九十九里をもって半ばとす”と言う言葉のように)、生半可な気持ちでは改善されないし、これまで培った以上の努力が必要になっていると思います。経営者から作業者一人ひとりまで、目的意識を共有化して、形骸化した活動からの脱却、そして活動の”深化(ハードワークをして)”をしていかねばならないと思います。

⑶ 的を絞って

 ”アレモコレモ”の活動は、作業者としては”やらされ感一杯”(管理者としては”やらした感一杯”)の活動になり、効果的ではないと思います。重篤災害未然防止に的を絞り、その対象は、「非定常作業」として、リスクアセスメント(RA)を推進することが大事だと思います。対策は、「設備対策」と「人的対策」のバランスをとって推進することであり、それを経営者・管理者が主体的に推進する体制が絶対条件だと思います。また、RAをやる人たち(管理者・安全スタッフなど)が「どうしたら重篤災害を発生させられるか」「対策を3つは言えること=設備対策・人的対策」などの理解をしていることが重要だと言うことです。このことは、私が繰り返し・繰り返し、訴えている内容です。

⑷ やるべきことは明白

 前述したように、私が安全スタッフになったときの状況と現在の労働災害発生状況が大変似ていると言うことです。災害が下げ止まっていること、活動が形骸化してアレモコレモの活動になっていること、人に頼った安全活動が主体になっていること、管理者に対する教育・訓練がなされていない(やっていても時間が短く、内容が不十分)こと、過去に発生した災害の教訓が活かされるしくみがないことなどです。やるべきことは、明白です。しかし、社会情勢の変化、雇用形態の変化に代表されるように取り巻く環境も様変わりしています。一つひとつの活動を積み上げていき、重篤災害を減少・撲滅させねばならないと思います。「安全活動は、人の命を守る活動」です。まだ、時間がかかると思いますがこの目標だけは、降ろすことはできません。重篤災害がなくならない以上、官民協議会は、やめられないと私は思っています。令和の早い時代にそうした方向性が見えることを願って、基調講演をさせていただきました。共に前進しましょう。

 

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