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2025年12月17日更新安全巡視は人づくり

 昨年は、能登の地震、そして羽田の航空機事故から始まりました。今年は、それに比べて穏やかな年と思っていました。ところが大分・佐賀関の大規模火災があり、海外とは言え香港でのマンション火災、インドネシアなど東南アジアでの豪雨災害は心が痛みました。日本の労働災害は、死亡件数は横ばい、4日以上の休業災害は増加傾向が変わっていません。今年も多くの企業の現場で安全巡視(パトロール)の進め方の指導をさせていただきました。その実施内容のポイントについて紹介します。

1.指摘合戦からの脱却

(1) なぜ指摘件数を競う?

 相変わらず、ほとんどの企業で指摘合戦を繰り広げています。指摘して正す事は大事なのですが、なぜそうなっているのかの反省が足りないと思います。内容もほぼ4Sに関することです。受ける側が「パトロール拒否」の心理が働いていて普段の活動に残念ながら活かされていないことが多いです。私が指導させてもらうと必ず「ありがとう。また来て下さい」となります。なぜなのでしょうか?特別なことを実施している気持ちはありません。仲間なのですから、もっと効果的に実施できるように指導していますが、実践となるとうまく進められるまでには時間が必要なことが多いです。

(2) “99:1”の理論

 現場で働く人たちは、誰も災害・事故を起こそうなどとは思っていません。ルールを守り良い仕事をしたいと思っているはずです。しかし、作業環境や前提条件通りいかない場面は必ずあります。つまり、99%はルールを守っていても1%位は守れないケースが出てくるのが実態だと思います。皆さんが車の運転で制限スピードを100%守っていないことと同じです。その1%(実際はもっと確率は低いが分かり易さで表現している)を指摘するだけでは現場は腹落ちしないのです。まず良いところ(99%)を褒める(認める)事で自信をもってもらうこと、感謝の気持ちを表すことが最初になければ会話はスタートしません。

(3) 一緒になって考える風土づくり

 課題が見つかれば指摘することは大切です。しかし、巡視結果を後から紙で提示すると言った最悪のことを実施しているケースも見かけます。その場で会話して一緒になって考え是正すればすむ話しですし、発注側が気づかなかった事も出てくるでしょう。コミュニケーションが大切だという言葉は飛び交いますが、相手から指摘に対して反発されることを恐れているようでは巡視する資格はありません。最善の策がとれなければ現場で「次善の策」を考え決断していくことも大切です。

2.会話の基本

(1) ポイントを短く簡潔に

 私は、良く「十文字以内で表現しよう」と提案します。失敗するケースは、自分が言いたいことをあれこれと説明している時間が長いとか、課題を一度にいくつも言ってしまい受ける側が理解できないケースです。どうして欲しいのかの結論を持って、現状との差をどう埋めていくかがコミュニケーション能力です。短くそして相手が理解できる言葉を使う心がけが必要です。

中日新聞のコラムにあったことを紹介します。「作家の嵐山光三郎さんが先日亡くなりました。嵐山さんの文体は「昭和軽薄体」と言われ、問題・世間をモンダイ・セケンとカタカナで表現することで読み手の胸にスーと届いた、親しみやすいと言われていた。」とありました。T社でも、「モノづくり」、「カイゼン」「アンドン」など先人がカタカナで表現していたことと通ずるものを感じます。

(2) 相手の立場で発言

 「現場目線」と言う言葉をよく使います。役職者や発注元はどちらかというと「上から目線」の事が多いように感じます。技能レベルの違う人、経験の違いなどを感じ取って相手の立場で相手の言葉で語ることも大切な要素だと思っています。私は、「赤ちゃんと話すとき」は幼児語で話しかけ、「猫や犬と話すとき」は、単語で話すなどの事例を使っています。心当たりはありませんか?

(3) “問いかけ”が大切

 巡視する人が現場の全てを知っている事は少ないと思います。分からないことは聞けば良いのです。相手に考えてもらう習慣をつけるためには、知っていても疑問符をつけて質問すれば良いのです。「Yes」と言う答を引き出すだけの会話は駄目です。「大丈夫ですか」「何か問題はありませんか」と言う言葉が代表的です。問いかけるときは、「答を3割程度」含ませると良いと思います。100%の答を言うだけでは相手は何ら勉強になりません。「人を育てるための巡視」にしていかねばもったいないです。

3.テーマ別巡視の勧め

(1)  重篤な未然防止を目的 ≓ 現場的リスクアセスメント

 「アレモコレモ言っておかねば」と思いすぎていませんか。安全巡視の最大の目的は、重篤な災害を未然防止するためだと思っています。そのためには、ルールも重い・軽いを層別しておくことが必要になってきます。高所で安全帯をしていなければ即刻退場くらいの重さと、整理・整頓が悪いということとルールの重さが違います。本来のリスクアセスメントは、発注側・上司が実施すべき事です。しかし、現場で作業をして初めて分かることも多いはずです。だからこそ、「現場的」リスクアセスメントなのです。その手段が巡視だと考えています。

(2)  “兆候”を観きり会話

 災害には、必ず兆候があります。私は大きな災害には「5つの兆候あり」と言っています。災害が発生したら必ず出てくる事柄を意味します。解りやすい例えは「無人のフォークリフトに鍵が挿したまま」では、無資格の人が運転する可能性があります。「床にブレーキ跡」がついていれば作業を急がせているという事です。人が入ってはいけないところに「足跡」があれば、その理由があるはずです。災害が発生してからなら誰でも言えることを、先に見つけ修正していくこと、テーマを決めて現場に行くことこそが未然防止活動です。「テーマ別巡視」をお勧めします。

(3) 定点観察と相互観察

 巡視時間は、一カ所でほぼ5~10分ではないでしょうか?私は、一カ所30分は最低とっています。ワンサイクル、ツーサイクル設備の動きや人の動きを確認し、全体を観察してから個別の視点で見るようにして良い点と課題を見つけます。その後で現場の人と会話をします。気付きを置いてくるようにします。研修では、10名程度で同じ事をします。現場の観方が人によって違いますので互いに勉強になりレベルアップします。相互観察の良さだと思います。

4.巡視は“人づくり”につなげる活動

(1) 相手が腹落ちすること

 「腹落ちする」「納得する」事が何より大切と考えやってきました。人は、納得してこそ行動に移します。どんな立派な指摘でも納得しなければ実践に移りません。巡視は、毎日来るわけではありません。相手に気づいてもらい、実践してもらうための巡視に変えていって欲しいと願っています。

(2) 元気な人と職場づくりへつなげていく巡視、安全活動へ

 「安全活動の目的は、元気な人と職場づくり」と考え展開してきました。滅多に発生しない災害の未然防止活動を通じて、課題の共有化とカイゼンによって考える人づくり、同じ目標に向かう集団・チームをつくりたいのです。安全活動は、命を守る活動です。誰も反対しない有効なテーマを形骸化させることなく組織内で有効に使って欲しいと思います。

 

追)今年は、大谷翔平選手が米大リーグで優勝。4回目のMVPをとるなど、山本選手、佐々木朗希選手などと共に私たちを楽しませてくれました。大谷選手がいたからドジャースが強いのか、強いドジャースが大谷選手を成長させたのか?組織論の面白いところですね。今年もあとわずかです。皆さんにとって来年も明るく楽しい一年になりますよう心から願っています。

 

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