ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2022年9月21日更新安全衛生法制定50周年と今後のあり方考察

 今回の裏ピルツ新聞(メルマガ)が発刊50回を迎えたとのこと。読者の皆さんに支えられ、そして事務局のあくなき努力のたまものと思います。まずはおめでとうございます。そしてその一部を担当させていただき私自身50回も続けてこられたことは感慨深く、また、読者の皆さんと一緒に考える機会をいただき感謝です。

 昭和47年(1972年)に安全衛生法が制定され、今年は50周年になります。中災防の機関誌「安全と健康2022年6号」に特集が掲載されていたのでご存じの方も多いと思います。また、ゼロ災運動も49年目を迎えたことになります。結果として災害は大幅に減少しました。半世紀の実績は素晴らしいと思います。しかし、近年、災害の減少が下げ止まり傾向にあること、労働環境も大きく変化していることなどからこれからの50年(2-3年先もわかりませんが‧‧‧)を見据えてどのようにしていくべきかを考える良い機会でもあると思い、100点満点の答えはありませんが、日頃考えていることを、時事ニュースとともに触れてみたいと思います。

1.第104回全国高校野球大会(甲子園)で「仙台育英学園高校」が優勝

(1)  東北勢初の優勝で「白川越え」

  新聞・TVでは「白川の関越え」(“白川の関”は奈良時代から栃木と福島の堺にあった関所で現在でも関東と東北の境界になっている)とか「100年開かなかった扉が開いた」などと書かれ、高校野球が始まってはじめて東北に深紅の優勝旗が渡りました。東北の皆さんおめでとうございます。高校野球は、日本のスポーツの中で最も人気のあるスポーツと言われています。私も球児が暑い中、全力で戦い、成長していく姿を見るのが好きです。(実は正直言うと、最近の高校野球(甲子園)は興味が薄れていました。強い学校へ良い選手が集まり、セミプロ化していることや、私立高校の宣伝の舞台になっている感が強くなっていたことなどから)しかし、純粋に野球が好きで、トコトン野球を極める努力(想像を絶する)を重ねている選手には拍手喝采です。今年は、コロナ禍でもあり、TV桟敷にいる時間が多くなり、見入ってしまいました。楽しかったし、元気と感動をありがとう!

(2) 総合力の勝利!

  仙台育英は、決勝戦前にホームランも完投もない優勝か?ともいわれていました(決勝戦では宮城大会でベンチ入りをしていなかった選手が満塁ホームランを打ちましたがこの一本だけ)。また、U-18野球日本代表に一人しか選ばれていません(ネットでは、優勝校から一人もいないのはおかしいので一人選ばれたという声があるくらい)。つまり、他の優勝候補校にいるような抜きん出た選手がいなかったと言うことです。イチロー選手や大谷選手のように突出した選手がチームに一人でもいると全体のレベルアップにつながるという考え方もあります。しかし今回は、選手全体を一定のレベル以上に鍛え上げられた総合力が勝因と言われています。会社組織も両者の考え方(組織論)で作りあげられていきますが、安全活動は後者であり全員参画とレベルアップが原則だと思います。

(3) 目標値の見える化

  仙台育英の監督は、選手時代にはレギュラーになれなかったが、人柄を見込まれ高校2年から学生コーチを任されたそうです。「当時は、想像力が乏しく、双方向コミュニケーションもとれず問題の本質を見抜けることなく感情だけで行動していてチームをまとめられなかった」などの経験から監督になってからは、「何をどうすれば試合に出られるかはっきりさせた」といっています。「目標値のみえる化」だと思います。「根性だ、気合いだ」「頑張れば選手になれる」という抽象的な言葉だけでは腹落ちしません。右ピッチャーはボールスピード135km/h以上、左ピッチャー130km/h以上とか、50m走は何秒以下など具体的な目標設定をしたとのことです。具体的な活動目標が選手全体の競争心を高めたことは言うまでもありません。個々人の練習方法も変わり、ある投手は、20kmもスピーとアップをしたそうです。選手になるにはこうした数値だけでなく状況を読んで瞬時に判断する力や、相手のことを理解する日頃の努力、お互いの声かけなどいろいろな要素を総合的に判断することになると思います。数値化して認知能力を高めることは大切ですが、非認知能力(忍耐力、創造力、計画性、コミュニケーション力など数値化できない能力)も大切になります。そのために、監督が一人ひとりと話し合い個々人にあった練習方法や方向性を示し、モチベーションをどう上げていくかということを心がけたのではないでしょうか。管理者の仕事と相通ずる内容があります。

(4) リーダーのあり方に共感

  仙台育英の優勝後の監督インタビューを聞いて人間性の素晴らしさを感じ、涙が出そうでした。“青春ってすごく密なので”このコロナ禍で諦めずに頑張った高校生全員に拍手を!」と自分たちのことより、頑張っている人全体への気配りができる視野の広さ、心の広さはリーダー(教育者)としての大切な資質の一つだと改めて感じました。また「高校野球ってすべての人間にとって成長を促す機会じゃないといけないと強く思っている」とも言っています。(安全活動も同じだと思います。私は、安全活動は人づくり(人の成長)につながらなければならないと思ってやってきました。)準優勝した下関国際高校の監督も、ラグビーのスクールウォーズを野球版にしたような監督さんのようです。選手が5名しかいないときもあったそうです。強くなりつつあったときに有名校から2倍以上の給料を提示され勧誘されてもお世話になった校長や生徒を甲子園に連れて行くと固辞された話も新聞に載っていました。また試合終了時に球場で一人ひとりに感謝の声をかけている姿も素晴らしかったです。生徒ファースト(現場目線)がぶれていない両監督のいる高校同士が決勝を戦ったことが今年の甲子園の素晴らしい結果であったと思います。勿論、優勝候補の大阪桐蔭の監督の素晴らしさもしかりです。一年生が3年生をみて自分は何が足りないかを知り、追いつく努力をする集団(チーム)を作り上げてきた結果として他校の監督が「二枚も三枚も上をいく選手たちばかり、自分が何をすべきかわかっている素晴らしいチーム」と評していたことが印象に残りました。(「教え教えられる集団づくり」が私のいた会社の特長でもあります)大阪桐蔭という高いレベルを目標に他校がレベルアップしてきたことも事実のようです。また、日頃から練習試合や情報交流を通じて(まさに組織横断的名活動を通じて)高校野球全体のレベルアップをしていこうと考え、惜しみなくノウハウを提供し合うこともしたそうです。素晴らしい活動だと思います。これらも安全活動に通ずる考え方・活動の一つだと思います。

2.今後の安全活動の方向性・一考

(1) 形骸化した活動からの脱却

  今までやってきた活動は、効果があったしやり続けることが重要だと思います。コロナ禍で習慣化した「マスク、手洗い、3密回避」や、「会食時の遮へい板の設置やソーシャルディスタンス」など基本行動としてこれからも継続することが大切なように‧‧‧。しかし、(批判を恐れずに言えば)多くの企業でKY(危険予知)活動のやり方だけを強調?したり、形を重んじる活動になっていたりと課題も多く、見直していかねばならないと思います。専門技能・知識を教えなければKY能力は高まりません。「知識のない人はKY行動に移せることはない」です。リスクアセスメントも最悪の事態が出されない“表づくりごっこ”をいつまで続けるのでしょうか?指さし呼称をすべての交差点で実施させても目的の理解がない人たちが大切な場面で指さし呼称ができるとは思えません。「何のために、誰のために、いつ使えば効果的な行動か」をもっと浸透させていくことや、方法論やハウトゥーを教える教育から実践力につながる教育・活動へ“深化”が必要だと感じています。

(2) 安全衛生の“プロ育成塾”が必要か

 災害ゼロをひたすら強調し、形だけを浸透させる活動(結果として)だったり、安全衛生法を盾に安全活動を展開するトップやスタッフでは現場から安全衛生活動が形骸化していくのは当然だと思います。災害が減少して目の前で災害を経験する機会が減少したことは良いことですが、逆にゼロ災を言い続けてもピンとこない環境になっていることは事実です。全体のレベルアップが必要だと思います。安全活動を「組織強化や人づくりにつなげていく」進め方や、「カイゼンに結びつける活動への重点指向」、カイゼンに結びつかないリスクアセスメントは一度やめてみるくらいの見直しが必要と考えています。「安全活動はカイゼンの入り口」と位置づけて展開をしてきました。現場の人たちが「やりにくい作業をやり易くする」「ムリをしている作業を楽にする」カイゼン活動は一度達成感を味わえば更なる挑戦意欲につながり、人づくり、チームワークの向上、品質の向上や生産性の向上につながっていき、経営者からも心底受け入れられる活動になると思います。こうした安全活動を進めていける安全衛生のプロを育成していく必要を感じます。しかし、各企業の中では特に中小規模事業所にとつては、学ぶ機会が確保できない状況にあります。大企業でも“本社”が安全活動の仕組みや活動のみを押しつけ、災害が発生したときだけ大騒ぎするだけでは、事業所が困ってしまいます。(今回政府から出されてコロナの“全数把握”をやめ都道府県知事の判断任す方針に似ています。すぐに全国一律に言い換えられましたが根拠が乏しく不満・不安だけが増加しています)

  安全衛生活動も法制定後50年が経ちました。良い活動は残しつつ、更に活きた活動としていくための推進者の育成が企業を超えた組織横断的な活動として広がっていく仕組みが必要ではないでしょうか。幸いにもオンライン研修も定着してきた感があります。同業種間、地域間などでネットワークをつくることも良いと思います。合わせて実践力を高める機会をもっと各企業が互いに提供していく仕組みも必要かと思います。方法はいくつもあると思います。災害を直接体験した経験者が戦争の語り部の減少と同じように少なくなっています。まだ間に合います。モノづくり日本の現場がもっと元気になっていくための安全活動としていく議論・機運が高まることを心から願っています。

3.明治用水取水口・大漏水事故のその後

 5月15日に漏水が確認され、農業用水・工業用水・飲料水へ大きな影響が出たことを先回のメルマガで紹介しました。現況を報告します。先日の新聞で「イチジクの出荷が順調」と出ていました。中部電力火力発電もトヨタの工場も操業しています。最も心配された稲作も厳しい状況下ではあるものの雨が多く降ったことや皆さんの努力の力で何とかなりそうです。本格的な対策工事に2-3年かかると報道されています。厳しい状況は続きますが、今回の事故の対応力の素晴らしさを目の当たりにしました。漏水発覚翌日から全国から官民挙げてポンプが集まってきました。いろいろな用水・河川からのやりくりが素早く行われました。水があることは当たり前という考え方を、当たり前ではなく先人の思いを継続してやってこそ当たり前が維持されていくのだと改めて思いました。と同時にこうしたことは今後もゼロにはなりません。いかに「最悪の事態を想定して未然防止に最善を尽くしていくか」ということ、いかに被害を小さくしていくか、つまり自然災害を含めゼロ災はめざすものの、ゼロ災オンリーでなく「減災」活動を認め合い、しっかり実践していくことだと思います。私たちの安全活動も「より具体的なターゲットに対して具体的な対策活動」を日々継続・積み重ねていくことが重要だと言うことを再確認しました。いろいろな教訓を未来に向けて「活かし・つないで」いきましょう。

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