ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2020年6月10日更新思い込みの怖さと正しい判断・行動 ~ “新型コロナ禍”から考える教訓~

 2020年の前半は、新型コロナ禍で今までにない大変なことを経験することになってしまいました。緊急事態宣言に伴う外出自粛、休校、休業要請など”3密”を避ける策として徹底がなされました。連日、新規感染者数や死亡者数などが報道されていますが、その数値一つをとってもどれが真実なのか正しく判断して正しい行動をとらなくては、社会が混乱してしまいかねないと思いつつ、テレビの報道に”突っ込み”を入れることもしばしありました。皆さんはいかがだったでしょうか?また、安全に関する研修も例外なく中止が相次ぎました。研修効果は、人と人が向き合ってこそ効果があるものと思ってやってきた私にとってもこれからどう言う方法があるのだろうかと考えさせられました。非常事態宣言は解除されましたがまだ油断は禁物。今回の事態から教訓として活かすことを考えてみたいと思います。

 

1.「平時こそ備えよ」

 分かっていてもなかなか難しいテーマではあります。医療体制の逼迫した状況が良く報道されていますが、平時には医療費削減という一方を強調して病院・病床の削減、研究費や助成の削減などを推進してきたつけがでているとも言われています。このコロナ禍でこのことが大きな課題として浮き上がったと思います。人と人の接触をしないことが最も良い防御策と分かってきましたが、自粛したことによる倒産、失業など社会インフラへの対応策が後手になっていることも、連日報道されています。

 地元の中日新聞の”中日春秋”と言うコラムに書いてあったことが今回の教訓を言い表していると思い、紹介させていただきます。(2020.05.23、文責:古澤)

「悪い年回りはむしろいつか回ってくるのが自然の鉄則であると覚悟を定めて、良い年の間に充分の用意をしておかねばならない(寺田寅彦”天災と国防”から)」

 「ビルゲイツ氏は、自然の鉄則を忘れることなく、備えようとしたまれな人であるようだ。感染症による危機を予見し、財団を通じて対策に資金を投じた。平常時に医療班や診断技術、備蓄医薬品の充実をと訴えた。現在の危機を防げなかったことへの本人の無念な思いとともに米紙が報じていた」

 「コロナ禍の今、為政者ならずともうなずけて、実践する難しさも感じる。我が国でもこの危機に手腕を感じさせている地方、中央の為政者は少なくはない。ただ良い年回りにどうだったか問われるときもくるだろう」

 いかがでしょうか?現状を良く言い表していると思い紹介させていただきました。「最悪の事態の想定と対策」をどこまでやれたかが問われています。安全衛生の分野でも全く同じだと思います。「災害件数が減少したから活動は、縮小しよう。設備投資を抑えよう」という言葉を何度も聞きました。正しいでしょうか?「災害が減少した今こそ、真のリスクを突き止め非常時に備えよう」という言葉がマネジメントをする人の正しい言葉だと思います。

2.数値は説得力はあるが、真の意味を知ることも大事

 コロナ禍を収束していくためには、「人の”接触”を8割減程度にしなければ最大40万人超が死亡する」という数値が報道されました。私自身もこれは、「外出を8割にすること」と理解しました。人との接触をしなければ拡大しないのだから‥と思い込んでいましたから「エー!8割でいいの?」と最初は感じ取りました。その後も携帯電話会社の情報による外出している人数が報道されたことからも外出規制と受け止めていました。しかし、「人と人の距離を保つことなどでも良い」などと言うような解釈が出てきました。都心部などでの8割自粛は無理と思っていましたし、結果論ですが、人出が8割減までいかなくても感染を少なくしていくことができました。重篤者を出さないという点だけからすれば70才以上で持病を持っている人とそれ以外で区分しても良かったのかなどいろいろな見解が出ることになりました。数値の説得力のすごさと同時にその数値の持つ意味をしっかり理解した上で行動しなければ‥と言う教訓となりました。

 「新規感染者数(率)」も同じことが言えます。症状が出た人のみの検査であり、感染した人の数・母数がはっきりわからないことには、”新規感染者数(率)”と言う数値は正確ではないとテレビに出演している医療関係者も言っていましたが、情報を受け取る私たちが数値を鵜呑みにするのではなく、言葉の定義をしっかり理解した上で判断をしていかねばならないと思いました。また、例として良くないかもしれませんがテレビ通販で「購入者の96.4%が満足と応えている(個人の見解)」など良く宣伝されていますが、私は、いつも懐疑的に見ています。どの通販もほぼ94~96%の満足度となっています。母数や対象になった人などの情報は全くないので鵜呑みにはできません。しっかり条件や目的と適合させて判断することが大切になってきます。真実を見るよう心がけたいと思います。

3.「正常性バイアス」の理解と疑問を持つこと

 今回のコロナ禍では、「正しく恐れて正しく行動」と言われますがその通りと思います。ここでも「より具体的に理解して具体的に行動する」ことが必要になりますが、一部の人たちは、自分は大丈夫!と大人数でバーベキューをやったり、遊興店に出向いたりする人たちが報道されていました。大きな自然災害に直面した時、新幹線の異音問題に直面した時でも多くの人は「大丈夫」と考えてしまい大変な状況になりました。責めることはできませんがこうした心理が働くことは理解しておかねばなりません。緊急事態に遭遇した時には、野球のバッターに例えて言われるように「空振りでも良い。まず行動しよう。見逃しは駄目!」ということです。最悪の事態を免れるような行動がとれるように平常時に考え方(思考回路を含め)も訓練しておくことが重要という教訓だと思います。

 注)「正常性バイアス」:心理学の用語(社会心理学・災害心理学・医療用語としても使われる)。人間が予期しない事態に対峙したとき、「ありえない」という先入観や偏見(バイアス)が働き、物事を正常の範囲だと(自分は大丈夫と思いたい心理)自動的に認識する心の働き(メカニズム)を指す。

4.「ファクトフルネス」の紹介

 著者:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド

 訳者:上杉 秀作、関 美和       発行者:村上 広樹

 発行:日経BP社

 全てを熟読した訳ではありませんが、真実を知ることの大切さを教えているので紹介します。今回、コロナ禍のことについて書きましたがこれは私個人の見解であり全てが正しいとは思っていません。人それぞれ感じ方がある事は事実です。現代社会は、SNSなどで代表されるようにネット情報が溢れる時代になっています。正しい情報も間違った情報もあります。私たちは真実を知る努力をする必要があると思います。

 この本は(訳者後書きから抜粋、文責*古澤)、「『事実に基づく世界の見方を広めるため』に書かれました。共著者のアンナは、『” ファクトフルネス”を通じて人々に伝えたいのは、情報を批判的に見ることも大事だけれど、自分自身を批判的に見ることも大事なこと』と言っていたことが印象的でした。事実に基づかない『真実』を鵜呑みにしないためには、『この情報源を信頼していいのか?』の前に、『自分は自分を信頼していいのか?』と問うべきであり、そのセルフチェックに役立つのが、10の本能として紹介されています。教育レベルの高い人も、世界を飛び回っているビジネスマンも、ノーベル賞受賞者でさえ、事実に基づいて世界を見ることが出来ていないのです。その理由は、誰もが持っている『分断本能』『ネガティブ本能』『パターン化本能』『焦り本能』など10の本能にありました。その本能を誰にでもわかり易く具体的に教えてくれます。」と‥。

 この本のはじめに、13問のクイズがあります。14カ国の調査結果が載っていますが日本の正解率は低い方が多くなっています。一部紹介すると「世界の平均寿命は?(日本の正解率13位:以下同」「いくらかでも電気が使える人は世界のどれくらいいるか?(13位)」「これから100年で、地球の平均気温はどうなるか?(14位)」などとなっています。さて皆さんは?一度読むことをお奨めします。

 今回のコロナ禍では、国によって地域によって対応や判断など大きく違っていました。日本は、罰則附き強制などがなくても国民一人ひとりの行動や医療機関の方々の命がけと言っても良い懸命な活動によって何とか押さえられているように思います。私自身、以前にまして手洗いうがいとマスクの着用をしっかりやるようになりました。治療薬やワクチンができるだけ早く確立することを願っています。そして皆さんとお会いして議論できる日を待ち望んでいます。自らのそして、大切な人の命を守るため健康第一をモットーにピンチをチャンスに変えられるよう行動しましょう。

 

記事一覧

ページの先頭へ戻る