ピルツジャパンのブログ「裏ピルツ新聞」

2017年1月18日更新戦場カメラマンが贈る言葉

昨年10月の終わりに、戦場カメラマンの渡辺陽一さんの講演会に参加しました。息子の高校で生徒や家族が無料で参加できるありがたい機会でした。会場には小学性から中高年まで幅広い世代の男女が来ていました。

初めて見た渡辺さんはテレビで見るままで、抑揚たっぷりにジェスチャーを添えながら話してくれました。戦場カメラマンを志したきっかけ、戦場カメラマンになってからのこと、そして若い人たちに向けてのメッセージが、小学生でもわかる言葉で伝えられました。

全体を通して、渡辺さんの伝える力に圧倒されました。最初から最後まで、全身全霊で伝えるという作業に取り組まれていたからです。

 

なぜ中東で戦争が起きているのか、どうやったら戦争を止めることができるのかなど、戦場を訪れ、現地の人々と直接コミュニケーションを取って来られた体験者の視点で語ってくれました。それらすべてをここに収めることはできないので、今回は陽一さんが「若者に贈った言葉」を、ご紹介したいと思います。

 

それは「石の上にも15」。戦場カメラマンとしての渡辺さんのキャリアを要約するような言葉です。

20歳の時に生物学の授業でピグミー族の話を聞いた渡辺さんは、どうしてもピグミーを見たくてたまらなくなったそうで、居てもたってもいられなくなり、アフリカに一人でピグミーを見に行きました。すると、現地では部族同志の争いがあり、子供たちも戦争に巻き込まれていました。右も左もわからない渡辺さんの服をつかんで子供が血を流しながら「助けて、助けて」と懇願したそうです。しかし、当時20歳の渡辺さんにはどうすることもできず、失意のまま帰国されたそうです。

 

その時から、あの子供たちのために自分には何ができるのだろうか、と問い続ける日々だったそうです。しばらくして、戦場カメラマンになって、戦地の子供たちのことを世界の人々に伝えたいという目標にたどり着きました。それからすぐに大学をやめる決心をし、カメラマンとしての一歩を踏み出したのです。

 

最初から仕事がうまくいくとは考えていなかったでしょうが、渡辺さんの戦場カメラマンとしての歩みは思った以上に険しいものでした。5年経っても10年経っても、雑誌や新聞社に持ち込んだ子供たちの写真が採用されることは一度もありませんでした。しかし、写真の収入はなくても、生きていかなければなりませんし、写真を続けるなら次の撮影のための資金も貯めなければなりません。そんな訳で、渡辺さんは横浜港でフィリピンから水揚げされたバナナの積み下ろしのアルバイトをして生計を立てていたそうです。

30キロもある段ボールを延々と積み下ろすその過酷なバイトで得られる収入はわずかでしたが、収入の半分は生活費に充て、半分は撮影旅行の資金として貯めていたそうです。撮影の資金が貯まったら、戦地へ行き、お金がなくなったら日本へ帰ってまたバイトをするという生活の繰り返しでした。

 

渡辺さんは師匠からいつも「15年間続けてみなさい。15年続ければ、きっと芽が出るから…」と言われていたそうです。そして師匠から言われた通り、毎日1枚でも写真を撮り、人の写真を見ることを続けていました。時は過ぎ、気が付くと20歳でカメラマンを志してからもうすぐ15年が経つところでした。毎日ジャーナル誌で初めて戦地の子供の写真が採用されたのです。その時、渡辺さんは、師匠の言っていたことは本当だったと思ったそうです。

 

気が付けば私も我が社に入社してもうすぐ15年が経ちます(最初の数年間は派遣社員でしたが)。15年というのはやはり長い年月です。そんなに長い間、一度も写真が採用されなくても、どんなに貧しい生活を強いられても、諦めずに、子供たちの写真を撮りつづけた陽一さんに脱帽せずにはいられません。戦地の子供たちのことを人々にどうしても伝えたい、という強い思いがあったからこそできたことだと思います。

 

渡辺さんの写真を見せていただきましたが、その1枚1枚には子供たちへの愛が感じられました。劣化ウラン弾の影響で目に悪性腫瘍ができた男の子は、その後亡くなったそうです。インドでは1歳の子供が裸で足を鎖に繋がれて置き去りにされていました。生活のため親は子供を置いて働きに行かなければならないそうです。洋服を着せてももらえず、トイレにも行けず、繋がれている小さな子供を見ていると本当に悲しくなりました。

日本で暮らしていると、こんな悲惨な子供たちが今の世にまだ大勢いることを忘れてしまいます。しかし、そんな悲しい写真ばかりではなく、渡辺さんと打ち解けた現地の子供たちや家族の笑顔の写真もたくさんあり、救われました。戦地ではどんな状況であっても、家族が寄り添って、家族を一番大切にして暮らしているそうです。

 

渡辺さんは、この講演会でご自分のカメラマンとしての立場から一度も自らの主義主張を声高に唱えるようなことはせず、事実を伝え、写真を見せ、私たちに考える機会を与えてくれました。それは大声でプロパガンダをまき散らす一部の人々とは対照的で、何倍も心に響きました。

 

これから夢を追いかける若い世代が渡辺さんのこの言葉で励まされ、諦めずに自分の道を歩んでいくことができれば素晴らしいと思います。また、もうすでに夢を追いかけているものの、なかなか芽が出ない人も、もうちょっと頑張ってみようか、という気持ちにさせてくれそうな言葉でした。私もなかなか順風満帆には進まないあの仕事をもうちょっと頑張ってみようと思います。(C.S.)

 

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