2017年11月15日更新リスクとハザードは違います「富士山噴火?するわけねーじゃんww」
安全にかかわる仕事をしている方なら、誰もが一度は耳にする二つの言葉。でも、明確な違いを理解し、説明できる人は意外に少ないものです。
「リスク」と「ハザード」は似て非なるものです。ハザードとは、そのもの固有の危険性で、たとえばワニやライオンは間違いなく危険なハザードなのですが、近づかない限り人に対する危険はほぼありません。同様に、人食いザメは物凄いハザードですが、人間が陸で暮らしている限りリスクはありません。これに対して、リスクとは、そのハザードに対して人が近づくことで生じる、ケガや病気の重篤度と発生の可能性を指します。ケガや病気の重篤度はハザードによって決まりますので、あとは発生確率がわかればリスクは計算できます。
日本語ではどちらも「危険」と訳されることが多く、よくて「ハザードは危険源」と書かれるくらいですので、ほとんどの方は違いを意識せず使ってしまいますが、いざ本当に危険な事故が起きると、メディアも含めて混同の嵐が吹き荒れます。最近では、やはり原発関連でしょうか。代表的な間違いは「原発のリスクは極大」「事故が起きて被曝するリスクはわかっていないから危険」「そんな危険なものはなくすべき」という表現です。
原発事故のハザードは確かに極めて大きいのですが、発生確率を掛け合わせたリスクは極めて小さく、死亡者は50年間で60人です。「確率の問題ではない。何かがあってからでは遅いので、ハザードが大きい原発はすぐ廃止すべき」という人がいるかもしれません。東京都の人口は1,300万人で、首都直下型地震が起きた場合、約2万3,000人が亡くなるという試算が2013年に政府から発表されましたが、まさにこれが東京固有のハザードです(個人的には相当甘い想定だと思います)。
では発生確率はというと、政府の発表では今後30年以内にM7クラスの首都直下型地震が発生する確率は70%とされています。つまりリスクは「今後30年以内に70%の確率で2万3,000人が死ぬ」ということになり、東京都民(とそこで働く人たち)は、このリスクを取っているわけです。しかもそのリスクは原発とは桁違いに高く、原発同様に間違えるならば、東京都民は全員強制退去させる必要があります。あるいは、自動車事故では毎年約3,000人以上が亡くなっていますので、リスクが極めて大きい自動車も自転車も禁止しなくてはなりません。
果たして、東京都の人口は毎年増えていますし、自動車廃止なんて話は皆無。結果的に皆さんは原発より高いリスクを取って日々暮らしているのです。それでいいかどうかは、もちろん別の話ですが、リスクがあるのに見ないふりをするのは間違いなく「危険」です。
大切なのは「確率」です。以前に非常識なツイッター投稿の件でも触れましたが、人は「ハザード=ヤバさ」は理解していても、確率は極小化して考える傾向があります。とても人様には見せられないような写真を投稿するのは、内輪受けは狙っていてもまさか世界中に見られるなんて思ってもみなかった、という確率極小化のなせる業でしょう。世の中には一日中ツイッターで面白いネタ探しをしている、ヒマでヒマでしょうがいない方々がたくさんいて、実名や住所が数秒でばれるなんて思わないから、コンビニの倉庫で全裸になった写真をアップできるのです。
これを読んでいただいているあなたも、好むと好まざるとにかかわらず立派なリスクテイカーです。ジャングルにくらす動物ほどはっきりと顕在化はしていなくても、生きているだけでリスクを取っているのですから、正しくリスクを理解してそれを減らす努力をしたほうがいいですよね。
娘が小学校の富士山旅行に行く際の保護者説明会で「富士山なんて危険。噴火したらどうするんだ」という保護者がいたそうですが、それに対してあるベテランの先生は「富士山や箱根山が噴火したらここ(横浜)も大変危険だから、引っ越したほうがいいかもしれません」と切り返したら、収まったそうです(箱根山は元々いくつかの高い火山からなっていましたが、6万5千年前の大噴火で吹き飛んで芦ノ湖や大涌谷ができたといわれています。その時は火砕流が60km離れた横浜まで届いたという研究報告があり、その火砕流エリアには現在480万人が暮らしています)。
噴火火山の寿命は約100万年、富士山は誕生から10万年くらいしか経っていませんので、人間で言えば10歳くらい、やんちゃ盛りの活火山です。記録が残っている781年の天応元年噴火以来、10回以上も噴火していて、直近の宝永大噴火は300年前のこと。その時は、同じ年の噴火前に関連性が高いと言われる南海東海大地震が発生していますが、南海トラフ大地震は今後50年以内に90%の確率で起きると政府が発表しているのですから、これは結構なハイリスクです。富士山から東京都庁までは95kmしかなく、火力発電所停止や交通マヒ、大停電、健康被害など2兆5千億円のハザードが予想されていますが、知事選や都議選で公約にハザード低減の話なんて誰もしません。
そういう私も、来週末富士山のふもとで行われるマラソン大会の最中に富士山が大噴火するリスクは「ないこと」にして参加する、ご都合主義のリスクテイカーです。
記事一覧
- 鉄道博物館を訪れて思う鉄道のあれこれ
- 地球温暖化について考えてみた
- 学び直し
- SNJメンバーと小室山リッジウォーク散策
- サンタクロースの季節
- 創立75周年ビデオ制作
- 嵐の中のLes Cordes生音ライブ
- 予約の多い美容院
- 土佐旅行記
- 身分証明書
- ウェルビーイングについて考えてみた
- デジタル時代の働き方
- 村上春樹ライブラリー
- SDGsについて考えてみた
- 雨の日も心が晴れる永井宏さんの本
- ジェンダー・ギャップについて考えてみた
- コロナ終息後の個人的行動計画
- コロナ禍に響くハンドベルの音色
- 秋の夜長にバルミューダスピーカーで聴くジョニ・ミッチェル
- テレワーク中の過ごし方
- 健康診断はお好きですか?
- フランス人は結婚しない?
- ラクして美味しいチリ
- 幸せになるには
- ひこうきぐも
- チャイナタウンへようこそ
- 備えあれば憂いなし ~災害に備えよう~
- ジャズピアノはじめました
- 健康・快適・そして若さにも? 欠かせないのは適度な湿度
- バカンス効果
- お客様との関係は恋愛に似ている?
- オーストラリア・フィリップ島の世界一小さなペンギン
- 誰でもできる涼しくなる呼吸法
- フルーツの魔法でフツーのワインがおしゃれなカクテル「サングリア」に変身
- 洋式競馬発祥の地と「天野喜孝展 天馬」
- もったいない「食品ロス」、どうすれば減らせる?
- 「50歳アニバーサリーライブ」体験レポート
- ヤッホーではない自転車事故の現状
- 懐かしのエスニックフード ~ 米国編・日本編
- 私流 英語の発音上達法
- 桜にまつわるエトセトラ
- ランチ後の睡魔撃退実証実験
- あなたの知らないアメリカ
- 腰痛持ちのあなたにお勧め~続けてみようYOGA
- プチ・タイムトリップはいかがですか? 小倉百人一首の世界
- リスクとハザードは違います「富士山噴火?するわけねーじゃんww」
- アラフィフのパワー全開、最強教員バンド
- モントリオールの地下鉄
- 疲れた時に効(聴)く音のビタミン剤、Pentatonix
- 恩師との再会
- 機械安全LOTOセミナー in 名古屋&大阪 お申し込み方法のご案内
- 恩師を偲ぶ
- Message from the Wine Shop Owner
- ワイン専門店オーナーからのメッセージ
- Wine Specialty Shop in Germany
- ドイツのワイン専門店
- 現代英国に舞い降りた吟遊詩人 エド・シーランの世界
- Why Europeans Get a Tattoo is Different from Japanese
- 欧州と日本
まったく違うタトゥー(入れ墨)事情
〜リアルインタビュー〜 - 夏の風物詩を一足先に味わえる夜
- 美女と野獣は人間の本質
- ドイツ・ハンブルクで見た 印象深かったことトップ3
- ダイエットと言い訳
- ワシントンから横浜へ里帰りした「シドモア桜」
- 「君の名は」だけではない!RADWIMPSの魅力
- あなたもわたしも「ラ・ラ・ランド」
- 初めての古澤節を聴いて・・・
- 「安心」と「安全」は違います
- 戦場カメラマンが贈る言葉
- 思い出厳選BOX(完成はいつだろうか?)
- リスクを取ってこそ、安全は生まれる
- 「道」は続く
- ゴジラは日本代表
- Rioが終わり・・・Tokyoへ
- バイトテロはリスクの本質を物語る
- 家猫状態のリフレッシュ休暇
- ドイツのおすすめビアカクテル