2017年3月15日更新初めての古澤節を聴いて・・・
今月3日に行われたSNJ総会にて、初めて直に古澤先生のお話をお聞きすることができました。
日本全国からお声がかかり、そして「また来てください」と依頼が続くのが大変納得で、こちらはスライドを見ている暇がない程に、ずっとお話に聞き入ってしまいました。「1スライドで30分話せるからね」最初は冗談かな?と思いましたが、あっという間に30分は経過…。最新の話題から、皆が知っている流行りものまで絶妙に織り交ぜて、しかも合間の笑いも絶えない。古澤先生の講演は、本ブログのコラムとはまた違った魅せ方なのです。
話術に長けているだけでは、人を引き付けても、心に残るお話は出来ないと思います。古澤先生がこれまで現場で積み重ねてこられたご経験や活動、ご苦労の数々は、けして一言では語れないでしょうし、それだけにとどまらない様々な分野へのご興味や趣味といったものまで、すべての経験・知識・探究心、なにより安全に対する情熱が、古澤先生のお話には染み込んでいます。先生のお話が知識の泉だとしたら、ぜひその水を飲みたいと、みんなが集まってしまうのは当然だと思えました。
今回の古澤先生のお話のテーマは、「安全な職場を確保する経営視点」。
お話の冒頭で挙げられていたポイントでは:
- 「安全活動=怪我をなくすこと、ではなく、安全活動=管理者の仕事そのもの」
- 現場の機械設備の安全性を高めて、それで生産性が落ちたとしたら、それはつまり、その落ちた分だけ、これまで作業者に「命」をかけて作業してもらっていた、ということ。その落ちた生産性を、カイゼンで上げていく。それが「安全活動=カイゼンの入り口」
- それを行うことが経営者の大事な仕事
私も、労働災害や現場での悲しい思いを無くすためには、管理者(マネジメント)側の安全に対する本気が不可欠、という点を強く感じました。どれだけ現場側が安全活動やカイゼンをがんばっても、管理者側の理解やサポートがなければ、それらの活動は立ち消えてしまうでしょうし、やりにくい作業・ムリな作業は放置され、現場のヤル気の低下は生産性にも悪影響、いい加減になればミスや怪我の増加も当然、さらに悪い方向へ行くと、、、という悪循環が浮かびます。
逆に、管理者側がその気になり、安全活動の環境を整え、現場が楽になるようにカイゼンを推し進めれば、仕事はやりやすくなり、それは現場のヤル気につながります。カイゼンも安全活動も進めば、現場は活性化し、生産性も上がり、安全性も上がる・・・。人の「命」と「身体」を預かっている意識がある経営者ならば、この一石二鳥以上な状態を求めたいだろうと思うのですが。
とはいえ、そのようなトントン拍子にいかない理由が、おそらく経営側にはあるのだろうとも思います。昨年、製造業における死亡災害の増加を受けて、厚生労働省から通達(安全管理活動の促進の要請)が出されていますが、要請だけで状況は変わっていくのでしょうか?その先の、経営者側が安全活動に十分取り組まない・取り組めない理由を取り除く方にも力を注いだり、サポートしていったら、ただ「やってください」というよりも効果があるのではないでしょうか。
また、今回の古澤先生のお話を聞いて、思い出したことがあります。大学卒業後に初めて勤めた自動車部品メーカーでの経験です。私は、短大卒業後にアメリカで留学をしました。その卒業のタイミングでご縁があり、日本の自動車部品メーカーがアメリカに工場を立ち上げるということで、そこでの通訳兼アシスタントとして働く経験ができました。日本人スタッフそしてアメリカ人マネージャーたちと共に、日本のやり方でモノづくりを行うべく、現地のアメリカ人作業員たちに様々なことを教えていったのですが、中でも一番印象的なのが「カイゼン」を教えたことです。
もともと英語には、“改善”と一致する単語が存在しません。留学していた大学でのビジネスの授業でも、カイゼンは「continuous improvement(継続的に良くすること)」という説明とともに、そのまま「kaizen」として教科書に紹介されていました。日本の英語辞典を見ると「improvement(改良、向上)」が訳として載っていますが、その単語だけでは、“一度良くしたら、それで終わり”なので、改善が意味することとは完全には一致しません。
現地の人たちにカイゼンの意味を分かってもらい、一緒になって取り組んでもらえるようになるまで1年以上かかりました。『良くしたものを、さらにより良くする』、この終わりなき改良の概念を、私たちは深く考えずとも日本語から理解できてしまいますが、現地の人たちにとっては元々ない言葉なので、根気よく伝えていくことが必要でした。
最初、現場のアメリカ人たちは、カイゼンに対して良い反応を示しませんでした。「なぜ、せっかく作ったモノを壊すのだ」と。すでに十分機能している行程やモノに対して変更を加えたり、時には、最近変えたばかりのモノを壊して更に改良を加える、といった行為の意味が理解できなかったからです。
ですが、会社はカイゼンを重視、推奨し、その必要性を繰り返し説いて、お手本を示していったところ、1年後には現場のアメリカ人作業員たちは自らカイゼンを行うようになりました。その成果を褒めてもらおうと、「来て、来て」と、見せにきたくらいでした。古澤先生も仰ってましたが、現場の人たちは優秀で一生懸命です。皆がそういう動きをしていると、現場の雰囲気も良く、生産がうまく回っている、ということが傍から見ても伝わってきました。
そういう人づくりや、現場の雰囲気作りをするのも、そして安全に対する意識や、安全活動に取り組める環境を整えるのも、マネージメント側が根気よくやらなければならないんだ、とこのような実際の経験を通じても強く感じます。
人の「命」と「身体」を預かって行う事業であるのならば、それらを守る仕組みや環境も提供する。それはけして経営者側に求めすぎではないと思うのです。経営者側がそう思わない限りは、年間約1000人の死亡者が出ている労働災害を減らすことは、永遠にできないのではないでしょうか。
またこれも、当時の経験から感じたことなのですが、日本人は「1言われたら10までやる」ところを、現場のアメリカ人たちは、「1言われたら、1しかやらない(1以上やらない)」、それがそこでの常識でした。言われたこと以上のことをやって仮に問題が起き、責められるのを避けるためには、それは正当なことなのですが。
「これをお願いしたのだから、普通あそこまでやってくれるよね」、なんてこちらの“普通”は通用しません。そして、教わる側/言われる側が内容を理解していない場合には、それは教える側/伝える側の責任ですので、「こちらの言わんとすることを読み取れ」だなんて要求もできません。
個人的な意見ですけれども、おそらく日本人は、「1言われた時」の、その先に求められていることを察して行動に移す力があるため、安全に関しても、“現場にお任せ”(そこで怪我・事故が起きても“現場のせい”)で、これまで回ってこられたのではないのかな、と。
安全に携わる先生方の最近のお話には、これまでの『人の注意による安全の時代』『機械安全技術による安全の時代』を経て、これからはその先の『人と機械が協調して作る安全の時代』へと移っていくのでは、そして、その“協調”は日本人が得意とすることなのではないか?、ということが出ています。
私は、「1言われて、10までできる」人が多い日本は、それだけでもすごく強みだと思います。それにプラス、日本人が得意な“協調性”が安全衛生活動においてもこれから活かされ、相乗効果となっていったならば、より安全でより生産性の高いモノづくりの国になっていけるのではないでしょうか。今回の古澤先生のお話を聞き、自分なりに内容を振り返ってみて、そのように思いました。
今回、そろそろ開花が待ち遠しい桜についての編集後記にしようかと思っていたのですが、古澤先生のお話を聞く機会をいただけて、内容をガラリと変えました。私が経験したそのアメリカの工場でも桜が植えられたのですが、当時片手で握れるくらいにその桜は細かったです。今はどのくらいまで大きくなっているのか、とても見てみたくなりました。
桜が日本中に広がり、日本人の心に深く根付いたように、これから先、経営者の理解と安全衛生活動、人の命を大事にする生産設備と現場が、日本全国に普及しますように。(N.I.)
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