2025年6月17日更新留学について考えてみた~ハーバード大学問題から
つい最近、アメリカのトランプ大統領がハーバード大学と対立し、海外からの留学生に対するビザの発給を制限するよう指示を出したと言うニュースが流れました。米国に留学し、現地に卒業後もしばらく滞在した私にとっては他人事とは思えず、この状況を憂わずにはいられません。
読者のみなさんは、短期・長期を問わず、留学をされたご経験があるでしょうか。留学された期間や国、目的によっても、留学に対する思いはさまざまかもしれません。自分の意思で行ったのか、親の勧めや職場からの辞令など、自分以外の動機で行ったのかによっても違うでしょう。しかし、どのような理由であっても、日本を離れて海外で一定期間暮らし、勉強するということは、その後の人生に大きな影響を与えるものと私は思います。
私が米国に渡ったのはかれこれ今から40年ほども前のことです。当時はバブルで日本は景気がよく、日本から多くの観光客や語学留学生が現地を訪れていました。とは言え、私は地方の出身なので、同じ年に私の高校から正規留学(4年制大学の学部に入学すること)した生徒は私一人でした。決して、普通のことではなく、かなりの覚悟が必要でした。
どんな覚悟かと言うと、少なくとも夏休みまで1年は日本に帰れない、英語で授業を受け、単位を取る、現地での人付き合いや生活に慣れるということです。高校を卒業したばかりの私にとって、これらは大変勇気の要ることでした。留学を決心したのは高校2年の時ですから、不安と恐れに苛まれて、なかなか思い切ることができませんでしたが、数か月考えてやっと決心しました。
留学1年目は私の人生の中で最も辛く苦しく、自分との闘いの連続でしたが、同時に驚きに満ちた1年でした。見るもの、聞くもの、食べるもの、すべてが新しく、日々何か新しい発見がありました。初めての寮生活は波乱万丈の末、ルームメートを変えて、よい友達と巡り合うことができました。勉強は、想像以上に大変でしたが、コツコツとやっていると成績は次第によくなりました。
留学はもちろん、勉強することが第一の目的ですが、私にとっては学問以上に、人からの学びがありました。アメリカには世界各地からの移民や留学生が暮らしています。私の留学先であったカリフォルニアはメキシコからの移民が多く、アフリカ系米国人(黒人)との対立が激しい場所でした。どちらもマイノリティですから仲良くすればよいのに、そううまくはいかないようでした。民族間の対立はありましたが、さまざまな国の文化があり、世界中の人から生の声が聴けるという素晴らしい環境がありました。当時の経験によって、それまでの私の偏見や固定概念は覆され、ニュースや世間の噂を鵜呑みにしてはいけないことを思い知りました。
在米中は、世界中の人と交流する機会がありました。アメリカ生まれの白人カップルと、週末の夜ナイターでテニスをしたのはよい思い出です。近くに公共のテニスコートがあり、25セント硬貨を何枚か入れると30分間照明がつきました。マイノリティの友人や知人も多く、思い出は付きません。レバノンの実家が爆撃され、家族で難民としてアメリカに移住していたピアノ科の女学生サミア、中国人のガールフレンドに甲斐甲斐しく尽くすアラブ人留学生のアッサム、メキシコから父、姉と幼い頃不法移民として国境を越え、アメリカの国籍を取得したミゲル。彼のお父さんは最低賃金でカーウォッシュ(自動車清掃)の仕事をしていました。サミアからふるまってもらったバクラヴァ(ナッツやはちみつ入りの何層にも焼き上げた甘いお菓子=写真)の味や、アッサムから聞いた中東の男尊女卑社会で生きる女性の話、成績優秀だったミゲルがアメリカの名門大学に授業料免除で入学できた時のことは、今でも鮮明に覚えています。

バクラヴァ
私は現地の日系キリスト教会に通っていましたが、その教会の牧師はハワイ出身の日系二世でした。カリフォルニアには温暖な気候のせいか、ハワイから移住した日系人や米国人と結婚した沖縄出身者も多く、顔は日本人でも英語しか喋れない人、何十年もアメリカで暮らしていても日本語しか喋れない人など、色々な人が住んでいました。教会のメンバーは数十人の日本人と日系人とその家族しかいませんでしたので、教会を建てるほどの財力はなく、現地のアメリカ人教会を借りて礼拝を行っていました。月に一度は教会内の体育館を借りて、ポットラックランチ(持ち寄りのパーティー)が開かれ、そこで大人気だった牧師夫人のチャイニーズチキンサラダ(パクチー、皿うどんのような揚げ麺、細く割いた鶏肉、レタスなどをごま油風味のドレッシングであえたもの)は今でも時々食べたくなり、自分で作っています。
渡米してから、日本や日本人についての考えも変わりました。外に出てみるまで、日本や日本人の良さについて考えたことはありませんでしたが、離れてみて初めて気が付くことがありました。たとえば、日本のサービスの品質の高さやスピード、日本人のおもてなしの心などは日本特有のものであり、海外では期待できないことがわかりました。反対に、日本の社会は協調性を重んじ、世間体などを気にし過ぎて、窮屈な社会であると感じるようにもなりました。中高生の髪型のルールなどはその一例です。アメリカの高校で一時日本語を教えたことがありますが、現地の高校では、髪にパーマをかけようが、何色に染めようが本人の自由です。
日本は基本的に単一民族の国ですし、狭い場所に多くの人が暮らしているので、みんなが平均的な価値観を持ち、同じルールに従って行動することが求められているのかもしれません。一方、アメリカは広いし、さまざまな人種がそれぞれの文化を大切にしながら暮らしているので、同じルールに従わせること自体、難しいのでしょう。
日本に戻った今も、現地での経験や気づきは私の中に大切な一部として残っています。世界の中の小さな日本と言う国、四季があり、世界的に見れば安全で食べ物がおいしく、教育水準も高いこの国に生まれた私は幸運です。外に出てみるまで、それは当たり前で、気づきませんでした。また、当時のアメリカは、不法移民の子であっても、現地で生まれれば国籍を与え、どんな人種であっても努力し、優秀な成績を収めれば、授業料免除でハーバード大学にも行ける寛大な国でした。貧富の差、ドラッグの蔓延、犯罪や虐待などの社会問題など、色々な問題を抱えているのは事実ですが、それでもこの懐の深さこそがキリスト教の博愛主義に基づくアメリカの良さだと今まで思ってきました。それが今では、外国人や不都合な人を排除する国となっていることが残念でなりません。
ハーバード大学に留学中の学生の受け入れを東京大学や京都大学がを検討しているそうです。留学にはお金もかかりますし、推薦状や試験、ビザ取得など、色々なハードルがあります。それを乗り越えてやっと掴んだチャンスや今までの努力が水の泡となってしまうのは、あまりにも理不尽です。ぜひ、手を挙げている日本の大学に受け入れていただきたいです。世界トップレベルの大学で学び、研究されている学生や研究者を受け入れることは、日本の大学や学生にとっても良い刺激になると思います。アメリカでは今後、ハーバード以外の大学でも、このような事態が発生するかもしれませんが、日本だけでなく、他の国も同様の対応で留学生が学び続けられる良い環境が与えられることを祈っています。そして、アメリカが再び留学生を歓迎する日が来ることを心から願っています。
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