2021年3月15日更新ジェンダー・ギャップについて考えてみた
3月8日は「国際女性デー」でした。毎年きっと耳にしているはずなのに、それほど気に留めずにここまで来てしまいました。先日、「国際女性デー」特集の一環として朝日デジタルが主催する日本のジェンダー・ギャップ(男女格差)について考えるオンラインイベントに参加しました。日曜の午後ということで参加を少しためらいましたが、オンラインで公開されていた作家の川上未映子さんの「刺繍糸」を読み、川上さんのインタビューをぜひ聞いてみたくなりました。この作品の主人公は、新型コロナウイルスの影響で失業した非正規労働者の雅子という女性。コロナで女性の自殺者が増えているというこのご時世を反映すると同時に、女性の立場から社会の底辺に属する女性の心の機微に触れる短編です。
オンラインイベントは2部構成で行われ、前半が川上さんのインタビュー、後半は日本の政界や経済界の第一線で活躍される四名の登壇者(女性三名、男性一名)による討論会でした。討論会には、参議院議員の伊藤孝恵さんや外務省国際文化交流審議官の志野光子さんなども登壇され、具体的な取り組みや海外の事例なども紹介され、大変充実した内容でした。
日本でのジェンダー・ギャップの問題はもう大分前から問題視されてきましたが、世界経済フォーラムが公表した2020年「ジェンダーギャップ指数」で日本はG7最下位の153ヵ国中121位。過去最低という惨憺たる結果でした。アメリカでは初のアフリカ系女性カマラ・ハリス氏が副大統領に選出され、ニュージーランドでは女性の首相ジャシンダ・アーダーン氏が総選挙で圧勝する時代に、日本では女性の政治家どころか管理職すら珍しいのが現実です。つい最近では、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会元会長の森氏の女性蔑視発言が世界から批判を浴びました。日本の女性を代表するつもりはありませんが、この状況を受け入れるつもりはないけれど、多くの女性が諦めに近い無力感を感じているのが現実のように思います。
川上さんのインタビューでは、女性が置かれている現状、女性のしんどさについて語られましたが、その一つに社会の「刷り込み」が挙げられていました。日本では、女性は「ケアする」立場、「サポートする」立場であることが求められます。子どもの世話や年老いた親の介護、家事、仕事上でのサポート役など。いずれも大切なこと、誰かがしなくてはならないことではありますが、女性だけが担うのは不平等です。実際、男性であってもこれらのことに積極的に取り組んでいる方も知っていますし、例外はもちろん存在しますが、日本社会全体で考えると少数に過ぎません。
生活に困窮する女性たちが助けを求められない現状やその原因についても触れられました。これは、ジェンダーだけの問題ではないのですが、日本に古くからある「人に迷惑をかけてはならない」という考え方です。人のことを考える利他の精神は素晴らしいものですが、どんな場合にもこれを当てはめてしまうと、救える人を救えなくなってしまいます。本当に困っているのに声を上げられない社会は、誰にとってもよい社会とは言えません。「刺繍糸」の雅子も自分よりも苦しんでいる人がいると考えて、自分の苦しみを否定してしまいます。生活保護が必要なのに、申請をためらって路上生活や自死を選んでしまう人が多いという現実に関係があるように思います。
後半の4名の討論会でも、川上さんのインタビューでも共通して述べられていた2つの大切なポイントがあります。その1つは、ジェンダー・ギャップは「人権」の問題であること。そして、もう1つは、「個人」が活躍できる社会にしていく必要性です。
ジェンダー・ギャップの指数が示す通り、女性が明らかに差別されている問題は、「人権」問題です。女性の人権が侵害されているのです。日本では、理想的な女性像の社会の刷り込みが余りにも浸透しているため、その意識が希薄であるように思います。ごく一部の女性は世界で活躍していますが、多くはやはりケア訳、サポート役ですし、女性の方でも、それを諦めて受け入れていることが多いのが現状です。この意識を男女共に(またLGBTQも含め)変えていかないと現状打破は望めないでしょう。野村ホールディングズの池田肇氏がこのことを「今は建前かもしれませんが、言い続けることで本音に変わって言く」とコメントされました。男性として、正直で建設的なアドバイスだと思います。アメリカで奴隷制が頭では悪だとわかっていても、奴隷解放運動が始まった頃の多くの白人は、おそらく建前で賛同していたのではないでしょうか。既得権を手放すことには抵抗があるでしょう。しかし、現在奴隷制に賛同する白人はおそらくほとんどいないのと同様に、日本でも男女平等に声を上げ続けることによって、10年、20年後には大多数の意見になるのではないでしょうか。
もう一つの個人が活躍できる社会、性別に関係なく、人が「個」として認められる社会の実現も日本の今後の発展に大切な要素です。女性であるから、男性であるから、LGBTQであるから、ということとは関係なく、個人が認められていく社会にすることは、社会全体にメリットがあります。今まで活躍できなかった女性やLGBTQの人材を色々な役割に起用することで、人手不足を解消できます。多様な視点で、色々な立場の人の意見を取り入れながら、社会の制度を変えていくことで、社会全体の幸福度を上げることができます。男性がサポート役でもよいし、女性やLGBTQがリーダーでもよいではありませんか。男性の中にも女性の中にも、ケアしたり、サポートすることが好きな人もいます。性別に応じて役割を決めるのではなく、個人の資質や希望によって、選択できる社会が望ましいと思います。
今回、このイベントに参加してみて、子どもの頃から肌で感じていたジェンダー・ギャップについて、登壇者の方々に言語化していただき、そういうことだったのか、とスッキリしました。小学生の時、卒業生代表として記念品贈呈をする役に選ばれたのですが、後から男の子の方がよいという理由で男の子に変更する、と言い渡されたました(これには親が抗議して男女二人で行うことになりました)。もう20年以上前ですが、留学中や英語学校に勤務していた頃も、海外の人を通じて日本の女性蔑視問題について意識する機会が時々ありました。ある遠慮のないアメリカ人男性の学生から「日本は遅れてる(backward)から女性が(面倒なことを)全部やるんだろう?」と聞かれ、返す言葉に困ったことがあります。また、アメリカ人男性の英語講師が帰国する際、アパートの引き渡しに付き添ったことがありました。その時、郵便受けに女性のヌード写真満載の風俗関係のチラシが無造作に入れてあり、彼が「エッチですね」と顔をしかめながら困惑していました(アメリカではそう言ったチラシを無断で配布することはありません)。日本人として恥ずかしいと思った瞬間でした。これらはもう20年以上前の出来事で、あれから少しの改善はあったのかもしれませんが、冒頭のジェンダー・ギャップ指数を見ても、大きな改善はなかったとしか言えません。しかし、登壇者も言われていた通り、諦めないで言い続けることが大切です。諦めていた私自身が意識を変える意味も込めて、今回この記事を書いてみました。読者のみなさんにも、この機会に考える機会としていただけましたら幸いです。
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